デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年08月01日号-74

記者発表の場で配布された「ストライキ権確立」のA4資料

第74 回「何も聞いていない」 そごう・西武労組がスト権確立

 シリーズ「そごう・西武」売却 が新たな局面を迎えている。組合員4000人の9割超が賛成し、セブン&アイによる「売却」を巡る交渉に、新たな登場人物の登場だ。

 タイトルの「何も聞いていない」は、そごう・西武労働組合の寺岡泰博委員長が、7月19日のデパート新聞のインタビューでも度々口にした言葉だ。今回お伝えする7月25日のそごう・西武労組の記者発表でも、同氏は各メディアの質問に対して「何も聞いていない」と、何度も回答している。

 そごう・西武売却を巡って、関係者の伝聞やリーク記事などにより、知らされる(知ることになる)様々な情報について、親会社であるセブン&アイに情報開示を求めたのに対し、1年半の間、結局「何も聞かされていない」という意味だ。セブン井阪社長の売却の進め方に対し「正直、呆れてモノも言えない」という、強烈な「批判」メッセージなのだ。

 セブン&アイ・ホールディングス傘下の百貨店「そごう・西武」の売却を巡り、そごう・西武労働組合の寺岡泰博委員長は25日、組合員の90%超の賛成を得て、ストライキ権を確立したと公表した。執行部の判断により、いつでもストができる状態になり、労組はスト実施を視野に入れながら経営側(この場合はそごう・西武)と交渉できるようになった。端的に言えばその際に、親会社であるセブン&アイにも「同席」して貰いたい、という思惑だ。

 労組は全国のそごう・西武10店舗で働く約5000人の従業員のうち、管理職などを除く約4000人を組合員とした組織。具体的に今回の池袋西武の売却計画を巡って、運営会社のそごう・西武と団体交渉を重ね、従業員の雇用や店舗計画の説明を求めてきたが具体的な説明はなかった。親会社であるセブン&アイに団体交渉を求めても「直接の雇用関係がないので応じられない」と具体的な情報開示には至らなかった経緯がある。

 このため労組は説明を求めるため、ストで対抗することとし、7月9~22日に全員投票を実施。投票総数3833票のうち賛成が93.9 % の3600票、反対が3.9%の153票だった(白票・無効票除く)。

 百貨店でのスト実施となれば、60年以上昔に遡ることになり、業界だけでなく、広く世間一般からも、今回の労使交渉の行方に注目が集まっている。

 そして、今回の特異な点は、本質的なストライキの対象が直接の経営者であるそごう・西武ではなく親会社であるセブン&アイだということだ。

 また、社員(組合員)の立ち位置も、必ずしも自分達の雇用継続だけではない。顧客を含めた地元住民や取引先といった、不特定多数の人びとの利害を代弁する役割を担っているという点だ。これは、本紙「デパート新聞」が提唱している「公益」のための行動とも言える。それは、そごう・西武が万一ストライキを決行し、それによって1日2日店舗が休業することになっても、より大きな全体の利益(公益)のためであれば、顧客や関係企業は納得し、支援してくれる、という構図を生み出す。

 本紙だけでなく、各メディアも比較的「好意的」な論調でこの「スト権確立」のニュースを伝えているのは、そのためだ。

 セブン&アイは2022年11月、家電量販大手のヨドバシHDと連携する米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループにそごう・西武を売却する契約を結んだ。

 結果として、フォートレスのパートナーであるヨドバシHDが池袋西武に出店することが確実となり、7月21日には関係する首脳が西武HD本社で会合を開いたのは記憶に新しい。

 尚、売却額は2000億円程度とみられ、23年2月の売却が予定されていたが、上記の様にテナントの構成を巡る協議が長期化し、現在も無期延期されたままだ。

 そごう・西武の労働組合執行部は、雇用の維持、事業継続などへの懸念から、今回スト権の確立に向けた投票を行った。会見でそごう・西武の労組の寺岡委員長は「今回の賛成率は、全組合員の総意という認識だ。セブン&アイの姿勢があまりに不誠実であることを、高い賛成率をもって組合員が意思表示した形だ。そごう・西武そのものの存続がかかっている。すぐにストライキをするのではなく、交渉力を上げて、先ずは労使協議の場を持つことだ。一層の覚悟を持って会社側に情報開示を含む団体交渉を求めていく」と述べ、ストライキ権の行使も視野に経営側と協議を行いたいという方針を明らかにした。但し、ストに踏み切る基準や、実施する場合の時期や規模については「地域のお客様、取引先を多く抱えているため、慎重に判断したい」と述べるに止めた。

 デパート新聞では、7月25日の記者会見に先立ち、7月19日に寺岡委員長単独インタビューを実施した。次号でその詳細をお届けする予定だ。ご期待頂きたい。

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