デパートのルネッサンスはどこにある? 2023年03月01日号-64

第64回【東急本店の閉店と百貨店閉店時代】全編

高野豊島区長の訃報

 本コラム2月15日号でも言及し、本紙3月1日号の1面でも取り上げている様に、豊島区の高野区長が亡くなった。

 セブン&アイがそごう・西武をファンドに売却し、結果的にヨドバシカメラが池袋西武に出店することとなった。この事態を憂慮した高野区長が、西武池袋駅の地権者である西武ホールディングス(旧西武鉄道)に嘆願書を送ったことが、ニュースになったのだ。

 前号でも述べたが、「『文化のまち』である池袋には、百貨店の存続が不可欠」という故・高野区長の主張は、本コラムのスタンスと合致しており、1月15日掲載の「シリーズ『そごう・西武』売却」でも詳しく伝えている。

 尚、同号4面では「デパート存続全国地図」を掲載し、百貨店の閉店ドミノをビジュアルとしてお伝えしている。そしてこの閉店連鎖は、けして地方だけに止まらないことは、今年に入って本コラムで何度も取り上げている通りだ。

デパートは絶滅危惧種

 コロナを機に新宿小田急、渋谷東急など、特に電鉄系百貨店の「撤退」が相次いでいる。いや、訂正しよう、コロナ禍以前から閉店は相次いでおり、コロナが閉店危機を「加速させ」その「きっかけ」となる場合が増えた、というのが正解だ。
この事象は、2022年売上高1位の伊勢丹新宿本店(2536億円)、2位の阪急うめだ本店(2006億円)に次いで、売上高3位を占める西武池袋本店(1540億円)であっても、閉店(少なくとも縮小)の危機にあるという事が証明している。

 この問題の核心は、この連鎖がデパート業界全体に、地方、郊外を問わず、もっと言えば売上の好不調さえ問わずに、どの店であっても、閉店の可能性がある、という実態を顧客に知らしめた事だ。 

 電鉄系百貨店、と名指しにしたが、呉服屋を起源とする、三越伊勢丹や大丸松坂屋、髙島屋といった大手老舗百貨店各社も「安泰」であるわけでは決してない。 

 本紙1月15日号の4面に掲載した百貨店消滅マップ(本当はデパート存続全国地図)によれば、2 0 0 9 年に全国に257あったデパートは、88減少し、2022年には169になった。たったの13年間で全国のデパートは2/3に急減してしまったのだ。 

 その中には百貨店の代表である三越がクローズさせた新宿と池袋も含まれている。老舗が超都心店を閉店させた顕著な例と言える。 

 三越と伊勢丹が合併し、重複拠点の整理を行った、あるいは自社ビルか借物件かなど、閉店に至った様々なケースは想定されるが・・ 

 さて、本題である渋谷の東急本店の閉店を見て行こう。言うまでもなく、新宿小田急同様、都心の中の超都心立地だ。

東急百貨店本店最終日

閉店時には多くの顧客が集まり、その最後の瞬間を見届けていた。筆者もまたその一人だ。 

渋谷にある東急百貨本店が2023年1月31日をもって閉店した。 

 店頭で、稲葉店長が「55年間の長きにわたり、皆様に支えられて営業を続けることができました。ありがとうございました」と挨拶し、午後7時に正面玄関のシャッターが降ろされた。 期せずして1Fのエントランス前に集まった買物客から拍手が送られた。 

 あくまで筆者の私見であるが、都内有数の高級住宅街である渋谷区松濤を後背地に持つだけあって「身なりの良いご婦人客」が目立った印象だ。 

 渋谷駅からいささか離れた立地ということもあり、普段ここで買物をした事もない「野次馬」はあまり見かけなかった。同じ「東急」でも、庶民のデパートであった東横店の閉店とは、いささか趣が異なっている。 

 蛇足になるが東横店は、渋谷駅の改修工事(東急東横線の地下化や埼京線ホームの移設)等と併行して3年前の2020年3月に85年の歴史に幕を降ろしている。蛇足ついでにJR渋谷駅山の手線ホームの一体化は、つい先日1月7〜8日に行われたばかりだ。 

 もうひとつ蛇足だが、いわゆるデパ地下である「東横のれん街と東急フードショー」は、渋谷駅の地下で生き延びている。ヒカリエやスクランブルスクエアの地下フロア含め、「渋谷の台所」は東急系がきっちりキープしているのだ。この辺りが東急グループのしたたかなところである。(もちろん誉め言葉です)

百貨店を再開するかどうかは未定 

本店の建物は2023年春以降に解体作業が始まり、跡地にはホテルや商業施設、賃貸マンションなどが入る予定、とされている。そこには新たに地上36階建ての複合ビルが出現し、2027年度の完成を目指している。 

 ビルの地下1階から地上6階までは商業施設が入居する予定だが、東急は「百貨店が入るかどうかは未定」としている。大手アパレルの関係者は「取引業者の間では「百貨店業態は終了」と聞いている」という証もあり、今までと同じ商売が出来るという保証はない様だ。  

 新宿の小田急百貨店の閉店時と同様のコメントであり、やはり現実として、電鉄系百貨店の撤退は相次いでいる。と言うよりも、見方によっては、電鉄系はそもそも沿線開発の「不動産屋発想」から「デパートはオワコン」という見解なのではないかと思っている。

 30年前は、デパートを運営する事が(例え、老舗の呉服屋百貨店に及ばないとしても)駅前商業の最適な選択肢であったのだ。商売としての利益、電鉄の起点となるターミナル駅の賑わい演出、デートを保有、運営する事によるステイタス(企業としてのイメージアップ)等々。当時はデパート運営のメリットは「枚挙にいとまがない」状態だったのだ。

 30年の間に、百貨店と言う商売は、先進的でも王道でもなくなってしまった、ということだ。少なくとも、利益と集客という、鉄道(不動産)業にとってのベストな選択肢のひとつであった時代は終焉した、というのが筆者の見解だ。 

 しかし「オワコン」という表現は個人的には好きではない。そして何より、しぶとくサバイバルを続けるデパートはまだまだあるのも事実だ。

大閉店時代の始まり 

3年を経て、コロナのニュースは極端に減少し、何度目かはわからないが「今度こそコロナ終息か」という期待とともに、インバウンド需要が復活してきている。 

 これにより、都心の大手百貨店の売上は復調し(新宿伊勢丹は最高益を記録)逆に地方、郊外の「インバウンドの恩恵」を受けない百貨店との乖離は、今後ますます広がっていくのは明らかだ。 

 筆者が伝えたいのは、不振に喘ぐ地方百貨店の閉店ラッシュはこれからが本番だ、という悲しい現実だ。コロナ前もコロナ後も、インバウンド需要に無関係であった地方百貨店の「孤立無援」は継続し、本当の意味での「デパートの終末」が始まる、ということなのだ。そういう意味では(大変皮肉な事ではあるが)やはり「デパートはオワコン」という電鉄各社の方向性は間違っていないのかもしれない。このテーマは日を改めて別途検証したい。 

 奇しくも、池袋や渋谷の西武百貨店も、ヨドバシ化が取り沙汰されており、渋谷、新宿、池袋と言った東京の西の玄関である「副都心エリア」に於いて東急、小田急、西武の百貨店閉店(または縮小)が、百貨店業界のニュースを独占している状態だ。 

 本業の電鉄本体がデパートを運営していた東急、小田急と、早くから電鉄と百貨店を分離させた西武(現そごう・西武)では、百貨店業の仕舞い方も、自ずと異なる。 自ら百貨店業態からの撤退を決めた(と思われる)小田急、東急と、家電量販店に飲み込まれる(可能性が高い)西武という構図だ。 

 またもや蛇足だが、マルイも、かつての勢いを失い、池袋と渋谷を相次いで閉店している・・・失礼、池袋は閉店で渋谷は「建て替え」だった。 

 もちろん本拠地である新宿は営業を継続しているが、正直「健在」とは言えない状況に見える。あくまで筆者の主観なので、クレームは勘弁してほしいが・・

お手本はGINZA SIX ?

 さて、本題の渋谷東急に話を戻そう。 

 新たな複合ビルの開発には、東急グループのほか、2017年にオープンした銀座の商業施設「GINZA SIX(ギンザシックス)」の開発にも参画した仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループ系の不動産投資会社「Lキャタルトン・リアル・エステート」も加わる。 

 旧松坂屋銀座店の跡地にできたギンザシックスは、従来の百貨店業態から脱却し、賃料で稼ぐテナント型の運営に舵を切った。東急本店跡地の商業施設も、ギンザシックスの様に、欧米の高級ブランドを軸にしたテナント型のラグジュアリービルに生まれ変わる可能性が高い、というのが業界通の観測だ。筆者もその公算が高いと考えている。 

 本店の閉店理由として、親会社である東急広報は「建物が老朽化したことに伴い、建て替える必要が生じたため」と説明する。それはもちろん事実であろう、但しそれは建物を再建した時に「百貨店にはしない」ことの理由ではない。

デパート存続の意義 

前述した様に、元々私鉄各社がターミナル駅を拠点として「百貨店」を展開してきたのは、沿線の住宅開発と合わせて、本業の鉄道の需要を増やすためだった。 

 ただ近年、渋谷駅では東急田園都市線と半蔵門線、新宿駅では小田急線と千代田線という様に、私鉄路線と地下鉄との相互直通運転が一般化したことで、ターミナル駅での乗り換え客が減った。これにより、電鉄各社がターミナル駅での百貨店経営を再考するのも間違ってはいない。 

 実際、東急百貨店の売上高は年々縮小し、利益も低下している。2000億以上の売上がありながら、営業利益は10憶に満たない。百貨店は今や「儲からない」商売なのだ。 

 本紙は「デパート業はもうからなくても『公益』のために営業を続けろ」と言っているのではない。企業、顧客、地域にとって不可欠のランドマークとして「存続する意義」を皆で話し合い、知恵を出し合ったのか、と言う事を問うているのだ。

 それを「おざなり」にした典型例が、池袋西武へのヨドバシ導入の事案だと思う。

※紙面の関係で次号に続く。

連載 デパートのルネッサンスはどこにある?

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