デパートには、公益性が必要:津松菱 川合営業本部長・デパート新聞 田中社主 ー緊急対談ー
「さいか屋創業150周年記念 特別企画 三重フェア( 11月2 日~ 8日・さいか屋横須賀店にて)」の主催者として横須賀に滞在中の津松菱(三重県津市) 川合正常務が、11月7日にデパート新聞社に来社され、弊社田中潤社主と対談した。
「三重の食フェア」を通して三重の魅力を発信
田中社主
現在開催中のさいか屋横須賀店『三重の食フェア』は、今年の3月に続き2度目の開催と伺いました。『三重の食フェア』は、地域発の商品に光を当てていますね。
川合常務
お陰様で前回は大勢の来場者にお越し頂きました。売り切れ続出の商品があり、とても好評でした。今回も前回同様に好調な売れ行きです。『三重の食フェア』は、コロナ対策事業として首都圏での食のフェアを主催するための三重県からの委託事業です。こうして三重の美味しいもの、新しいものを発信できることは実に有難いことです。この地域商社事業の目的は、生産者の素晴らしいお品を流通に載せるお手伝いです。流通に載せることができれば、生産者のお品がより売れていく。売れれば更に生産を増やすことができる。生産を増やすことができれば雇用が生まれる。雇用が生まれればその生産者が大きくなる。生産者が大きくなれば街が大きくなる。街が活性化してくると最後には津松菱での買い物が増えてきます。このような好連鎖を描いています。
これからの地方デパートは公益性を意識すべき
田中社主
これからの地方デパートは、『デパートは公益事業』という位置づけを意識して進めていくべきであると弊社は考えています。地方デパートには発展・拡大といった単純な成長理念は不向きです。具体的には、大都市と地方都市のデパートでは、全く異なった店づくりが必要です。地方百貨店では、経済性よりも社会性を重視した公益思想が基本となると考えます。その地域ごとの伝統的な文化に根差した商品を掘り起こしていくことを考えたい。 地域に根差した商品を発信していこうとの考え方を、津松菱は地域商社事業の取組みであるこの『三重の食フェア』を通じて実践されています。その地域の旬の商品、その地域にしかない文化・伝統の商品をしっかり品揃えした地方百貨店が先ず行うべき素晴らしい施策だと思います。
地域を大切にした発信をしている
川合常務
ありがとうございます。18年前に新しい形態の福袋を作りました。例えば、鉄道やリゾート施設、旅館など様々な業種と連携をした商品を生んできました。三重には県民が誇れる素晴らしいものがいっぱいあるのに、まだまだ知られていないものが多いと感じていました。弊社には、もっと三重を県民に知らしめ、新たな三重を発見して貰う役割があるだろうと考え、異業種とコラボレートし、それを福袋の商品として発信しています。
田中社主
地域も大切にした新商品のプレゼンテーションを、内外に広く広報して定期的に開催すれば必ず定着します。貴社の福袋はその良い例と思います。地域からの発信と利益の獲得とともに、世の中に埋もれた事業家の成功を引き出すことになれば、社会の活性化、すなわち公益的役割を果たすことにもつながります。公益とは不特定多数の人に幸福をもたらすことですが、デパートはかなりそれに近いところにいると考えています。デパートが地域のランドマークとしての役割を果たすことが、そのまま公益と営利の両立につながるでしょう。
産学連携も大切
川合常務
地域との取り組みには産学連携もあります。その一例として、全国的に有名な三重県立相可高等学校 食物調理科の料理クラブの生徒さんにお弁当を作って頂き、定期的に食料品売り場で販売して頂いています。売場が活気に満ち溢れ、生徒さんもお客様も皆さんが笑顔になります。販売のプロの私も毎回感動しています。
田中社主
デパートにとって学生の参加を積極的に取り入れていくことは、新しいアイデアを得ることができるとともに、地域との絆を強くするという視点からも非常に期待できるプロジェクトです。オーソドックスな方法として産学連携で新商品を作り上げることが挙げられます。学生の立場からすると、自分たちの考えたことが具体的な形の成果につながり、他では体験できない自己実現につながります。
地域活性化イベントとして「キッズモデルオーディション」を開催
川合常務
コロナ禍で遠のいていた客足も、全国的に徐々に戻っています。集客のための環境が整いつつあります。 地域活性化イベントとして、キッズモデルオーディションをこれまでに13回開催しています。事務所に所属していない3歳~15歳までの方ならどなたでもご参加頂けます!また、グランプリに輝くと、モデル事務所にモデル登録ができます。「お洋服が大好き!」「思い出作りをしたい!」「モデルを目指している!」など広く募集をします。学校の夏休みの終わりを締め切りにして応募を募るのですが、2019年は200名ものご応募を頂きました。このイベントは、子供服売場の社員に企画・運営を任せる当社の手作りです。「オーディションの際、子供達には、『その服可愛いね!』等と常に声を掛けなさい!」と指導しています。それは、企画会社が入るのではなく、社員が直接子供たち( お客様) と関わることで、やがて店頭でお客様から「あのオーディションの時のおねえちゃんだ!」と声を掛けて貰えるような関係を築くためです。当店にとっての将来の掛替えのない顧客になるのですから。(笑い)
2020年にコロナ禍の中で行おうとしたところ、「会場が密になって大変なことになります!」と役員会で却下されました。会場にはオーディションを受けにこられる子供さんのご両親やご祖父母も駆け付けられますから大混雑です。(笑い)
コロナ禍で2019年を最後に中断していますが、再開できるタイミングを計っています。
田中社主
実に面白い企画ですね。再開が楽しみです。キッズモデルオーディションを津松菱がパッケージ化し、他の地方のデパートへ発信する事もお考えになっているのでしょうか。
こうした演出によるささやかな非日常の時間が支払った金額以上の価値をその人の心にのこしていく、こうしたデパートとの係わりが、人生にささやかな幸福をもたらしてくれる、デパートとは、私たちにとってそういう存在であると思います。だからこそ、そこで働く人々は、高いプライドを持って顧客と接しなければならない、ただモノを売るのではなく、お客様に夢の一コマを提供する共演者ですね。
今後に注目させて頂きます。本日は様々な魅力ある展望をお聞かせ頂き、ありがとうございました。
敬称略