コミュニケーション書店「食べる本屋さん」 津高生による「ビブリオバトル:本の交流会」を開催
三重県津市の松菱百貨店にオープンした「食べる本屋さん」は、前回の作家であり「食べる本屋さん」のブランディングマネージャーでもある高たかどのまどか殿円先生と文芸評論家の三宅香帆先生によるスペシャル対談企画に続き、本紙デパート新聞主催による津高生のビブリオバトルのデモンストレーションイベントを3月15日に行った。



イベント後半では、伊賀白鳳高校の工芸部による「黒板本棚」の制作も伺うことが出来、本好き、読書好きには至福の時間となった。尚、「黒板本棚」は今回のイベントの告知にも一役買ってくれている。
制限時間5分で、自分の「推し本」を熱く紹介し、読みたくなった本で勝敗を競う「ビブリオバトル」だが、今回は津高校の図書委員3人の発表後に、観客を交えて交流会も実施した。
ビブリオバトル(Bibliobattle)は2007年に京都大学から広まった輪読会・読書会。「ビブリオ(書籍)」+「バトル(戦い)」の名のとおり、参加者はそれぞれ自分が推薦する本をプレゼンテーション式に紹介し、討論のように競わせるという方式を特徴とする。


参加者は、三重県代表として全国大会に出場した1年生の藤井春奈さん(紹介本「本屋さんのダイアナ」)。そして2年生の野路優花さん(紹介本「方は こぶね舟 」)。最後の3人目は2年生の西川実杜さん(紹介本「だから僕は大人になれない」) の予定だったが、西川さんが急遽お休みとなり、代打で登場したのはビブリオバトル@津高2024のチャンプ本に選ばれ、今は「お受験真っ只中」の畠中友菜さん(紹介本「世にも美しい数学者たちの日常」)。助っ人畠中さんがトップバッターで「場を温めて」くれたおかげで、一気に会場の空気が変わった。結果的に予定通り3人によるビブリオバトルの模擬戦を開催することが出来た。
さて、筆者はビブリオバトルなるものを生まれて初めて拝見(拝聴)したのだが、正直その迫力、臨場感に圧倒された。3人の発表それぞれが「あっという間の」5分間だった。何と表現すれば良いのか、自身の語彙が乏しいことが恨めしい。スティーブ・ジョブズがアップルの新製品を紹介する様なプレゼンテーション力と、講談師の神田白山の様な会場を一体にするストーリーテリングが、等と言ったら大げさに聞こえるだろうか。
もちろん皆高校生なので、初々しく、シャイな感じも漂うのだが、「この本、おもしろいから読んでみて!!」のアピールが半端ではないのだ。いやいや、記事を書いている筆者が(今更)興奮しても仕方ないのだが、本当に面白い体験をさせていただいた。会場の観衆もプレゼンに魅了されていたのが良く判った。発表の後に「本屋さんのダイアナ」の著者である柚木麻子先生からのサイン色紙が贈呈され、自らの推し本の原作者からの色紙に、藤井さんが歓喜したのは言うまでもない。

イベント司会の傍ら、開会の辞で「食べる本屋さん」の理念を丁寧に説明してくれた田中店主(その実態はデパート新聞社主なのだが)もいつもより高揚し、この場を大いに楽しんでいる様に見えた。店主から参加者一人ひとりへ送られたコメントを聞いていると、津高校の校長先生かと錯覚しそうになった程だ。会場となった松菱百貨店からは、営業本部長を務める川合正常務が挨拶に立ち、全国的に閉店が相次ぐ百貨店と書店の協働、そして反転攻勢の象徴である食べる本屋さんの意義を語った。


そして、忘れてはいけないのは、ビブリオバトルに続いて行われた伊賀白鳳高校工芸部3名による、「黒板本棚」の紹介だ。 どうやって使うのか?については、津高校の井戸本吉紀先生がその後実践してくれたので後述する。
最初に驚かされたのは、工芸部の部長と副部長のパフォーマンスの徹底ぶりだ。彼ら2人は伊賀忍者のコスプレで登場したのだ。伊賀↓忍者という全国共通の連想を「あまりにストレートに」表現され、筆者も思わず破顔してしまった。不思議な事に、紅一点で登場した工芸部マネージャーの「私はこの人達とは関係ありません」という冷めた視線も相乗効果となった。忍者と言えば「曲(くせ)者」なのだが、さすがに伊賀者は只者ではない。本屋さんスタッフにとってこの「黒板本棚」を使った書籍の紹介が、大変参考になったことは間違いないだろう。
最後に、今回の企画のコーディネイトをしていただいた津高校の井戸本先生に、心から感謝の意を表したいと思う。褒めてばかりの提灯記事の様で恐縮なのだが、この井戸本先生がまた、只者ではないのだ。
井戸本先生はビブリオバトル終了後に、聴衆にこう呼びかけた。「津高生の推し本3冊の中から、読みたくなった本と紹介者を選び、コメントや質問を各々色紙に書いて欲しい」と。そして回収して「黒板本棚」に張り付けられた色紙を次々に読み上げていった。
聴衆から津高生への感想や書評を、白鳳高校の作品を絡めて発表していく、というパフォーマンスを、すべての参加者に等分の配慮をしながら短時間でまとめてしまった。
イベントが終わって筆者が強く感じたのは「こういう先生が担任だったらなぁ」である。還暦過ぎたおっさん(もちろん筆者だ)が何を血迷ったのか判らないが、とにかく津高生たちがものすごく羨ましかった。井戸本先生が生徒たちに向ける「まなざし」の温かさは、津高生にも白鳳高生にも平等であり、それは聴衆に対しても変わらないのだ。歳を取ると直ぐに感傷的になってしまい、正直お恥ずかしい限りだ。
まとめ
前回トークショーに参加してくれた、書評家の三宅香帆先生の「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」を拝読後に筆者が感じた「この時代」の違和感。ヒトは忙しく働いていると、余暇としての読書を「無駄なモノ」と考えてしまう、という結論を、今回の松菱百貨店でのイベントでも実感した。
デパートでの買い物にも同じことが言える。ネット通販やコンビニやスーパーでの買い物に、タイパとコスパばかり追求した現代人は、百貨店での買い物を、読書同様「時間の無駄」「お金の無駄」と捉えてしまうというコトだ。それは、この国に働く人々に余裕がなくなっているからだ。無駄を余裕として楽しめる風土が失われているのだ。
全国で書店や百貨店がなくなっていき、読書やショッピングの時間を楽しめなくなった日本人。カルチャーを大事にしない国に、そして文化を継承しない日本人に、果たして豊かな未来はあるのだろうか。時間もお金も損したくない、というこの国の人々に。筆者はそうした思いを強くした。
悲しい、虚しい思いだ。
年後10年後の、この国の書店と百貨店の数が、それを教えてくれるだろう。
半面、イベントに参加してくれた高校生たちが次の「文化」の担い手になってくれるのでは、という淡い期待を感じたのも事実だ。まだ、手遅れではないかもしれない。
デパート新聞3月15日号の4面「デパートのルネッサンスはどこにある?」でも言及した。コスパ、タイパの悪いモノ、つまり無駄なモノは悪なのか?というテーマについては、デパート新聞社主(食べる本屋さんの田中店主)の「無駄の物語」「資本主義からの脱出〜ムダの効用の話」をご一読いただきたい。我々デパート新聞がなぜ書店を開いたか、その理由にも気づいていただけるだろう。
最後に、三重県立津高校の「津高図書館」というホームページに今回のイベントの紹介が載っていた。松菱「食べる本屋さん」と津高の連携企画「津高生の推し本、ご賞味あれ!」のご案内 と題し、食べる本屋さんが制作したチラシをそのまま掲載してくれているので、ご興味のある方は是非参照してみて頂きたい。
https://www.tsuko.ed.jp/library/library_event/entry-752.html
因みに、津高図書館は2021年にライブラリー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。

デパート新聞編集長