デパートのルネッサンスはどこにある? 2026年03月15 日号-第134 回 シリーズ 編集長が聞く「社長の本音」インタビュー
加古川ヤマトヤシキ 広瀬社長に聞く
百貨店を核とした複合型商業施設への進化と官民連携の現在地


取材日:2026年3月4日(水)
株式会社加古川ヤマトヤシキ代表取締役社長
広瀬泰則(ひろせやすのり)氏
デパート新聞編集長の山田悟が「選べるガチャガチャランド」を開催する地方百貨店を訪ね「社長の本音」を聞き出すインタビューの第2回をお届けする。
インバウンドの恩恵が少ない地方において、百貨店はこの30年で売上が半減し、「斜陽産業」「絶滅危惧種」とまで言われている。一方で、地方百貨店は単なる商業施設に留まらず、地域の文化的拠点、いわゆる街の顔としての役割を担い続けてきた。
今回「選べるガチャガチャランド」催事を開催した加古川ヤマトヤシキは、来月に創業120周年を迎える老舗百貨。
ラオックスグループ傘下となり、2025年7月に着任した広瀬社長は、百貨店の核を守りつつ、食品スーパー「ロピア」の導入や行政との連携による複合型商業施設への転換を進める。「選べるガチャガチャランド」もその一環としての新たなトライだ。デパート新聞編集長がその戦略と課題を聞いた。
①120年の歴史と新たな施設像
山田:地方のデパートを「地域のインフラ」と考える方が増えていると思います。社長もそういう感覚でいらっしゃいますか。
広瀬:はい。ですから我々としては百貨店を辞めるつもりはないです。ヤマトヤシキは来月4月18日で創業120周年を迎えます。現在の加古川店は元々「そごう」だった経緯もあり、姫路より歴史は短いのですが、長くヤマトヤシキを愛していただいている、いわゆる「百貨店のお客様」は今後も大事にしていく必要があると思っています。
山田:4階や6階を拝見しましたが、従来の百貨店の姿とはだいぶ違いますね。
広瀬:4階にはファミリー向けの遊び場やアウトレットショップがあり、6階には図書館と書店が併設されています。百貨店にしがみつくわけではないですし、辞めるわけでもない。百貨店としてだけじゃなく、ファミリーや学生も来れる様な、新しい商業施設にしていければと思っています。
山田:つまり「複合型の商業施設」であり、核として百貨店がある、と。
広瀬:そうですね。お客様が望む形として、そういう方向を目指しています。
②ロピア渋滞発生食品強化が生命線
山田:食品フロアを変えられたと聞きました。ロピアさんの効果はいかがでしたか。
広瀬:ロピア様には「ロピア渋滞」と言われるほどの集客をしていただきました。駐車場の利用もかなり増えています。2023年10月6日の導入です。もともとはどこの百貨店とも同様な鮮魚や総菜の入った、いわゆるデパ地下だったのですが、転換しました。
山田:ロピアさんは精肉が強いですよね。駅にはマルハチさんもあるそうですが。
広瀬:精肉類が強いというのはありますけど、マルハチさんとはうまく棲み分けができていると思います。ロピアのお客様は車での来店が多いですね。
山田:米子の高島屋の森店長もおっしゃっていましたが、やはり食品が強くないと
方・郊外型の百貨店は苦戦しますよね。
③課題は買い回りの促進
山田:百貨店の存続に向けて、社長の視点からどのようにお考えですか。
広瀬:人口はまだまだいらっしゃいますし(加古川市の人口は約25万人)、今までご高齢の富裕層向けの品揃えやテナントが中心だったところを、若い方やファミリー層にまで客層を広げています。 正直なことを言うと、ロピアのお客様が増えた結果、4階で今まで百貨店に来なかったファミリー層も増えました。只、そのお客様が1階から3階の百貨店部分で買い物をされているかというと。まだ「シナジー効果」と言えるほどには至っていません。
山田:つまり、地下1階や4・5階に来てくれた新しいお客様の「買い回りの促進」が課題だと。
広瀬:そうですね。ただ、そこがしっかり対応できるようになれば、まだまだ可能性を感じています。
④デジタル販促の試行錯誤
山田:館としてSNS的な販促はどのようにされていますか。
広瀬:もともと私はバーニーズ・ニューヨークでインバウンド向け対応やWeChat等の販促をやっていたのですが、正直まだ弊社のSNS対応は弱いです。ご高齢のお客様には従来のDM(ダイレクトメール)や折込チラシの方が響きます。ただ、それだけをやっていると、いつまでたっても若いお客様には届かない。
山田:具体的にはどんな施策を。
広瀬:Meta 広告――Instagram でセグメント配信をやっています。年齢・性別を絞って、バレンタインの告知などを打ちました。お歳暮で初めて実施し、バレンタインでもやったのですが、思った以上の効果はまだ出ていません。「選べるガチャ」もそうでしょうが、広告効果だけでなくお客様とのコミュニケーション、口コミを大事にしています。
山田:そういえば「選べるガチャ」も最初の1年は大変苦戦したと聞いています。
広瀬:ええ、1年かかったという話なので、すごく参考になります。お中元・お歳暮で、たった3ヶ月やっただけで辞めるのではなくて、1年くらい一生懸命やって、結果が出てくればいいなと思っています。
⑤ベッドタウン・加古川の強みと弱み
山田:加古川というのは、どういったマーケットとだとお考えですか。
広瀬:一言で言えばベッドタウンですね。JRの新快速で神戸三宮まで20~30分、姫路まで10分と交通の便が非常にいい。それが魅力でもあるのですが、裏を返せば、地元でお買い物をされているという面もあると思います。
山田:都市が近すぎるのが弱みにもなりうる、と。
広瀬:そうですね、厳しいところではあります。ただ一方では地元に百貨店があるということに関しては、皆様、ヤマトヤシキを大切にしてくださっています。
山田:近隣のマンション開発も進んでいるとか。
広瀬:はい。この辺りだと都心の億単位とは違い、ある程度供給もあり、まだまだ新しいマンションができています。今まで加古川のヤマトヤシキを知らなかったお客様にも知っていただける機会が増えていますし、家族で遊べる場所を提供する価値があると思っています。
⑥贈答文化を「諦めない」という選択
山田:競合としては姫路の山陽百貨店さんが一番近いですか。
広瀬:そうですね。差別化を意識しています。我々はラオックスグループですから、カタログギフトを最初に始めたシャディという会社も経営しています。加古川ヤマトヤシキでもお中元・お歳暮の売上構成はまだまだ大きいのですが、そういった文化を知らない方が増え、今まで大事にしてきた顧客層は徐々に減ってきています。
山田:40代・50代の贈答実施率も下がっているそうですね。
広瀬:逆にまだまだ「伸びしろ」があると捉えています。今まで贈答していない人がその文化を大事にしてくれる――「毎年おばちゃんから届いていた贈り物」の意味を知って、「じゃあ私も大人になったのだから、お返ししてもいいよね」と思ってもらえるように。入学、出産、快気祝いなど、のしを付けるサービスを大事にしています。
山田:百貨店もそうですが、贈答文化も「なくなったね」じゃなくて、「違う形でどう残すか」を考えるべきですよね。百貨店を残すのと一緒だと思います。
⑦地元第三セクターとの連携
山田:行政とはどのような関係でしょうか。
広瀬:隣のビルに加古川再開発株式会社があります。我々だけで全てを解決するのではなく、カピル専門店会様や加古川再開発様にご協力・ご支援いただきながら運営させていただいています。図書館の導入も行政が担ってくださいました。
山田:百貨店だとよく聞くのは「年商50億を切ると閉店が加速する」という話ですが、こういう官民の連携があると心強いですよね。街はほっておくと荒れる方向に行きがちですから。


⑧ 「正価販売」の理念とガチャの共存
山田:百貨店はやはり「定価販売、正価販売」がモットーだと思っています。従来のガチャガチャ(マシン)の場合、500円でお目当てのカプセルトイを手に入れるために何回も回して、結果的に何千円もかかるケースがあります。これは百貨店が掲げてきた正価販売から逸脱するのではないかという思いがあって、だからこそ「選べるガチャ」という形を取っています。
広瀬:我々も通常のガチャガチャは取引先がありましたが、そういう考え方でやっていらっしゃるんですね。
山田:ガチャのブームがいつまで続くかは分かりませんが、その間は地方のデパートの「逆襲」のパートナーとしてお手伝いしたい。それが我々のモットーです。
山田:最後に何か社長としてアピールしたいことはありますか。
広瀬:やはり官民連携です。いわゆる百貨店ありきではなく、いろんなお客様が楽しんでいただける商業施設を目指しています。ぜひ通り過ぎないで、立ち寄っていただければと思います。
山田:お時間をいただきありがとうございました。

デパート新聞編集長
