閉店した名鉄百貨店、開発が頓挫



前号(3月1日号)において、4面で髙島屋堺店閉店、3面で名鉄百貨店の閉店をお伝えした。
老舗の髙島屋は岐阜店、堺店に続き、8月には洛西を閉店する、としている。都心の収益店舗に資源を集中するために、地方店舗をリストラしているのだ。
一方で名鉄百貨店は、名古屋という大都市で自らが運営する鉄道起点駅の直上に構える旗艦店を閉店する。それは東京で言えば渋谷東急、新宿小田急と同様のパターンと言えるだろう。
そして重要なのは、この電鉄3社はデパート業態としての再開はしない見込み、という事だ。と、ここまでは従来通り、呉服系と電鉄系の方向性の違いをお伝えした次第だ。
だが、名古屋駅前の名鉄百貨店の閉店については、デパート(小売り、デベロッパー)業界の理屈だけでは判らない事態が発生していたのだ。
再開発が頓挫


本コラムでは前号に引き続き、名鉄百貨店の閉店風景を活写し、百貨店の石川仁志社長のお別れコメントや、顧客の惜別コメントを掲載し、筆者が気になっている「ナナちゃん」の去就などをお伝えするつもりだった。
しかし昨年末に親会社である名古屋鉄道の高崎社長による衝撃的な会見が行われたことで、筆者の浅はかな構想はあえなく打ち砕かれてしまった。
それは異例の記者会見だったのだが、同時に今の日本を象徴する出来事とも言えるものだった。2025年12月、名鉄(名古屋鉄道)の髙崎裕樹社長は再開発の計画時期が「全て未定」になったことを涙ながらに発表した。
曰く「いよいよ建設着手に進もうとする段階で、このような事態に直面するとは全く想定しておらず、無念の思いでいっぱいだ」
同社が進めていた名鉄名古屋駅の拡張と老朽化した名鉄百貨店の高層ビルへの建て替え、そうしたエリア一体の巨大プロジェクトが急遽ストップしたのだ。
辞退届
当初は2026年度に建物の解体に着手し、2040年代に完成するとしたスケジュールを2025年5月の段階で発表していた。その中で2000億円規模と見込んだ建設工事費などの総事業費が8880億円と4倍以上に膨らむことも想定済だったはずなのだ。
しかし、わずか半年後の11月26日に、工事への応募意向を示していたゼネコン3社の共同事業体から、突如として辞退届が提出されるという緊急事態に見舞われたのだ。名鉄の髙崎社長は、ゼネコン側の辞退理由は「人手不足」という認識を示した。
実際に現場工事や施工管理を担う人材が極端に不足しているのだ。その際、工事費用の見積もりは1年で2倍になっているというから驚きだ。
名鉄側は昨年11月の辞退届の提出に至るまで、工事に着手できないほど人材確保が困難だとは知らなかったとコメントしている。
現時点で、代わりに工事を請け負う会社のめどは立っておらず、工事の遅れイコール名鉄の経営への影響を懸念する声が上がっている。財務の悪化が明白であるのに、莫大な工事費を受け入れることは出来ない。名鉄は大規模かつ長期間の計画の見直しを迫られているのだ。
顧客も困惑
長年顧客であった地元住民たちも、突然の工事中止に動揺を隠せない様だ。
6階の71年の歴史を振り返るコーナーには、顧客が名鉄百貨店の思い出や別れを惜しむメッセージカードが壁一面に貼られていた。その中には「再開発が未定になったことは残念です」とか「どうなるのか、はっきりしてください!」といった痛切なメッセージも見られた。とても「懐かしい思い出」を語る雰囲気ではない。
本来の閉店劇であれば、2月28日の閉店時間にエントランスのシャッター前で、店長とスタッフが居並び、深々と頭を下げ、見守る人々から「今までありがとう!」と声がかかる情景なのだ。ところが、それどころではないのだ。「この後どうなるのー!」とでも叫びたくなってしまう。もちろん、そういう客は真面目な名古屋人には居なかったが。
名鉄百貨店の石川社長の最後の言葉「また皆さんお会いしましょう」に「いつだよ!」という突っ込みをいれる不謹慎な客ももちろん居なかった。幸いなことに。
人手不足社会
2025年を振り返ると、中野サンプラザや津田沼駅前再開発、そして博多駅の複合ビルや仙台駅前など全国各地で再開発の見直し・中止が相次いだ。すべて現場の人手不足により建設費、工事費が予想以上に増大し、採算が合わなくなっているからだ。
そしてそれは名鉄だけが特別なケースという訳ではない。大型プロジェクトだけではなく、中小規模の案件も含めて、日本全国で起きている事案なのだ。
申し訳ないが、この件に関して筆者は何らかの解決策を提示することは出来ない。
それでも、人口減少社会の日本では「現場の人手不足」があらゆる経済活動の最も大きな「足あしかせ枷」になっていることは、どの業界でも再認識しなければいけない、という事だけは判る。
少子高齢化が叫ばれて30年、今こそ日本人はその大問題を放置していた代償を払う時期になったのだという事だ。残念ながら。
デパートの減少(売上も店舗数も)の原因である人口減少が、結局他の業種も含め、わが国のあらゆる経済活動を阻害する大問題であった事を我々は目の当たりにした、という事だ。
人手不足倒産
人手不足を原因とする倒産は、建設業や物流・運送業で特に顕著で、他にも介護や美容業、警備業など労働集約型のサービス業を中心に過去最多の状況だという。その内小規模事業者が8割近くを占める。
また派遣業も倒産が過去最多だった。ある派遣大手の幹部は「小規模事業者では従来頼りにしていた『日本人の若手』を確保できず、淘汰・再編が急速に進行している」と語る。年寄と外国人なら居るのか?という疑問も沸くが・・・
もはや日本経済のニューノーマルになってしまった異次元の人手不足。(そう言えば「異次元の少子化対策」を掲げた総理大臣もいたが)このパラダイムシフトに企業や労働者はどう向き合っていくべきなのか。
ひとつの回答として「移民政策」という言葉はあるものの、日本人は概してこの政策を是としない傾向が強い。お店がワンオペになろうが、セルフレジになろうが、タブレット注文になろうが、「何とか日本人だけで」対応しようとしている様に見えるからだ。
筆者の述べているのは一種の亡国論なのであろうか。
P.S.
ひっそり、という訳ではないが、名鉄名古屋駅ビルと名鉄百貨店の間に挟まれていた「近鉄パッセ」も2月28日に閉店した。忘れずにつけ加えておく。

デパート新聞編集長
