えきの駅食文化探訪 第4回 三越豊田 桜井実店長、加知卓也プランニングリーダー(営業本部 店舗戦略) 直撃インタビュー

加知プランニングリーダー

三越豊田は2022年4月22日に開業したワンフロアタイプ(約1900㎡)の小型百貨店。株式会社名古屋三越が運営する愛知県豊田市内唯一の百貨店である。

「先ず、出店に至る経緯をお聞かせください。」

(加知卓也プランニングリーダー)
 スタートは、2020の秋からです。名古屋三越は、複合商業施設TFACE(A館・B館)を運営する豊田まちづくり株式会社から出店の打診を頂戴しました。弊社にとって新規出店という大きなお話しは名古屋三越だけで判断できるものではありませんので、一旦お話をお預かりした上で三越伊勢丹の本社に判断を仰ぎました。そこで様々な角度から検討、検証を重ね、最終的にはワンフロアでの出店の方向で決定致しました。

「ワンフロアでの出店に関し、豊田まちづくり(株)からは具体的な販売品目の要望はありましたか。」

(加知卓也プランニングリーダー)
 具体的な品目の指定はありませんでしたが、豊田のお客様が望まれるであろう部分は是非意識してやって欲しいとのご要望がありました。食は外せないであろうとの考えはありました。出店にあたり、地域に密着して営業していくためには、またこの豊田の地に新たに店を構えて続けていくためにはお客様に寄り添ったデイリー性の高いMD展開をする必要があります。百貨店が取り扱う商品にはデイリーの商品、ハレの日の商品がございます。ハレの日を前面に出した形は百貨店にある意味求められる部分でありますが、末永く豊田とお付き合いをするためには、デイリー性にある程度重点を置いた商品展開である必要があると考えています。デイリー性の象徴的な存在のひとつが「食」です。食にプラスして、化粧品や雑貨もデイリー性の商品でありますので、百貨店として豊田のお客様が望まれる商品は何かを考えた結果の店揃が今の特徴でございます。

「開店前にターゲットと想定した顧客層をお聞かせください。」

(加知卓也プランニングリーダー)
 当然、豊田にどのようなお客様がいらっしゃるかをマーケティングしました。その結果、顧客層を二つに大別しました。ひとつは松坂屋の残存顧客です。もうひとつは、T-FACE(A館・B館)という館(やかた)及び豊田市駅前という立地から導き出される20歳代、30歳代のニューファミリー層です。豊田にはこのふたつの層が存在します。弊社は両層を意識しなければならないと考えました。それぞれの顧客層が求めるMDやサービスは異なる部分もありますので、それをワンフロアの限られた面積の中でどのように表現するか。そこに最も頭を悩ましました。豊田まちづくり㈱が館のコンセプトイメージはもちろん、どのフロアにどのカテゴリーのショップをリーシングするかは事前に伺っておりました。相乗効果があれどもバッティングが起きないウインウインの関係でT-FACEとやっていくことを基本路線としました。

「開店から多くのお客様で賑わっていると伺っております。開店して一か月(取材日は5月20日)ですが、ご来店の顧客層・年齢層をお聞かせください。」

(加知卓也プランニングリーダー)
 開店日から想定以上に大変多くのお客様にお越し頂いております。売上も好調に推移しております。豊田の街に歓迎を持ってお迎え頂いたと感じています。開店が4月22日、ゴールデンウイークを挟み今に至っています。開店景気、ゴールデンウイーク景気が終わり、6月8日からお中元商戦が始まり、今がその端境期に当たりますが、他のフロアのお客様の流入もあって三越豊田はその様なこともなく、日常的に平日であってもお客様が足を運んでくださっていますので、集客数の点でも想定を超えています。

 4月にハウスカード獲得が目標を上回りました。新たにハウスカードをお作り頂いた方の中にはこれまで松坂屋のハウスカードを持っていた様な百貨店との親和性が高い40歳代後半から60歳代の年齢層です。シルバーに偏った年齢構成ではありません。また、収入が多い富裕層です。トヨタ自動車という大企業のお膝元の地域も関係していると思われます。あくまでも定性的ですが、松坂屋のハウスカードを持つ方が三越豊田に期待をし、エムアイカードを新たに持ったとのお声をかなり聞いています。

 弊社グループ会社はお客様との接点にハウスカードだけではなく、アプリを使っており、ひとつの軸としています。三越伊勢丹アプリは名古屋エリアでは2月からスタートし(首都圏は昨年5月からスタート)、今まさにアプリ会員様を増やしている最中です。三越伊勢丹アプリでは、お気に入り登録した店舗の最新情報を確認することができます。オープン後、非常に多くの方に三越豊田をお気に入り店舗に登録していただき、豊田のお客様とデジタルでも接点を持つことができたと感じております。ご入会いただいた方の年齢層としては、アプリの利用に慣れていらっしゃる20~30歳代がほとんどでした。三越豊田の店頭の賑わいの原動力はこれらの若いお客様であります。ちなみに、一般的に百貨店はフロア毎に顧客年齢層が異なりますが、三越豊田はワンフロアですので、幅広い年齢層の顧客で構成されています。これは三越豊田ならではの特徴と言えます。

「商圏についてお聞かせください。」

(加知卓也プランニングリーダー)
 豊田市とみよし市がコアのターゲットエリアです。豊田の街から名古屋市街地までは電車で1時間ほどのため欲しいものがあれば簡単に買い物に行けます。従って、広域商圏は考えにくく、豊田市、みよし市を第一次商圏と意識すべきと考え、その地域の方々に日常使いしていただけるお店つくりを行います。また、三越豊田には母店である名古屋栄三越とのタッチポイントも果たして欲しいと考えています。母店との連携を行うことでワンフロアでは提供しきれないMDを豊田のお客様に提供するのがこの店のひとつの使命であります。

「店頭について」

(加知卓也プランニングリーダー)
 ストアコンセプトは地域のお客様に寄り添い、「毎日を、楽しく豊かに、心地よく。」です。強みである「食・美+三越のれん」を核としながら、百貨店へのタッチポイントとなるエントリーコンテンツを加えて展開しています。中央エスカレーターを挟み、フードのエリア・上質デイリーアイテムのエリアを構築しました。18のブランドショップのうち11ブランドが食物販であり、その大部分が洋菓子です。百貨店にご期待いただく、ハレの日・歳時記需要にお答えするため名古屋三越のギフトサロンを常設し、お客様のニーズに幅広くご対応致します。また、リモートでの接客ができるTHE SALONとお取り寄せや三越伊勢丹のデジタルコンテンツが体験できるデジタルスタンドを設けました。

「本店との連携はどのようなものがありますか。」

(加知卓也プランニングリーダー)
 ワンフロアの三越豊田にとって、三越伊勢丹グループ基幹店や名古屋栄三越との連携は欠かせないものだと考えております。また、栄の店から商品を取り寄せたり、リモート接客によりお客様のご要望に出来るだけお応えしていく機能や三越伊勢丹グループのデジタルコンテンツを体験できる機能もございます。

「三越豊田は外商との連携がありますか。」

(加知卓也プランニングリーダー)
*新たなビジネスチャンスが期待される外商*
 愛知県岡崎市の名古屋三越外商出張所には豊田地域の担当者がおります。三越豊田には外商員が活躍できる機能を持たせています。名古屋三越が当地に出店した重要な理由のひとつにT-FACEの強いご要望がありますが、もうひとつは、豊田市や豊田商工会議所からの強いご要望です。豊田市内の多くの有力企業からは行政と共に一緒にやっていきましょうとのご提案を頂きました。三越豊田はそのための拠点にもなっているのです。

「三越豊田がある豊田市駅と新豊田駅の界隈は、多くの通勤・通学者が単に移動するだけの場所との行政の分析があります。今後、三越豊田はこの流れをどのように変えていかれるのでしょうか。」

(加知卓也プランニングリーダー)
*豊田のまちづくりの担い手として*
 開店セレモニーには豊田市長を始め多くのご来賓にお越し頂きました。今回のT-FACEリニューアルオープンは豊田の街をもう一度盛り上げるきっかけのひとつであると感じました。松坂屋が抜けられてこの豊田の街をリボーンしていく象徴的な出来事であります。そこに弊社も参画させて頂けたのはとても光栄なことです。

 T-FACEが掲げるA館2階のコンセプトは、上質な立ち寄りと案内されています。この2階とは弊社のことであり、弊社に求められるのはその点であると認識しています。三越伊勢丹グループが掲げる戦略の一つに「高感度・上質な品物・サービスの提案」があります。それを三越豊田が実践することで豊田市駅、新豊田駅を利用する方がこの館に立ち寄って頂けるきっかけになることが私どもの存在意義がと考えます。

桜井実店長インタビュー

三越豊田 桜井実店長

 T-FACE A館の2階ワンフロアに出店する事が決まった当時、お客様に毎日通って頂くためには食を中心とした、デイリーにご利用いただけるMDでの出店が不可欠との方向性を持っていました。1階テナントは生鮮3品や弁当、総菜を手掛けるとの情報がある中で、弊社は1階テナントと同じことをするのではなく、館にとっての全体最適を求め、1階で展開が難しいのはお菓子である。これを中心に展開していこうとのプランを立てました。ショーケースを構えて儀礼ギフトを販売するスタイルが時代に合わなくなっていることを踏まえ、週に何度もご来店頂くには、ちょっといい自分へのご褒美の提案をすべきと考えました。スイーツなどはそのようなお客様に発信ができるアイテムですので、これを主軸にしてブランドショップと交渉していきました。

 約10のブランドの出店交渉をバイヤーが行う姿を身近で見ていましたが、彼らは出店数の何倍もの販売店と交渉を重ねていました。出店交渉の時間がとても少なく、果たしてうまくオープンができるのだろうかとの不安がよぎることもありました。筆舌に尽くしがたい経験をしましたが、私どもの熱意を皆様にお伝えでき出店を承諾して頂きました。私も食品バイヤーを経験しましたが、出店が纏まればバイヤー冥利に尽きます。苦労に苦労を重ねて開店に漕ぎつけることができた成果は今の店頭にあります。

 当店は、従来の百貨店のビジネスモデルとは違う展開です。この館に入居されている他フロアの専門店と力を合わせて館の魅力を高めて行くためのワンピースが三越であるとの認識でおります。とは言え、三越は百貨店です。ワンフロアでお客様にリアルにご覧頂ける商品は限定されますが、三越伊勢丹グループのネットワークを駆使できる点を強みと捉え、それをいかに豊田のお客様にどのような形で活用できるかを出店準備期間に考えてきました。豊田のお客様のニーズに寄り添うにはどうしたらよいか考えた結果、デジタルの活用にたどり着きました。デジタルならばグループの魅力をご紹介ができます。これが今後の百貨店の新モデルになりえるのではないかと考えております。三越伊勢丹オンラインストアやコスメ通販のmeeco(ミーコ)等のECサイトをお客様に体感して頂いたり、条件はありますが、豊田に居ながら栄のお店、東京の伊勢丹新宿本店、日本橋三越本店等店舗の販売員と会話をしながら商品を選ぶリモート接客も可能です。

 この出店で豊田のお客様との新たなタッチポイントが生まれました。兎に角、お客様づくりをしっかりと行いたい。この新しいようで基本的な事をしっかりと行うことが三越豊田の目指す姿と考えています。地元のご期待があります。私どもへの応援を感じています。1年前に百貨店がこの地から消えて、「私たちはいったいどこで買ったらいいのか」とのお声が聞こえて来る中で、私どもがその期待に応えるべく出店をさせて頂きました。開店以降、ベビーカーで来られる若いファミリー層や3世代揃って、或いは母娘でご来店されるお客様が実に多いです。また、アップルパイを販売する「リンゴ」の行列(平日の午後でも購入を待つ行列がまったく途切れない。)をはじめ、週に何度もお買い求めになられるお客様がいらっしゃるのです。まさにこれが私どもが狙っていた店のあり方です。期待に応えられているのをひしひしと実感しているところです。

(敬称略)

食物販11店舗 / 非食物販・サービス7店舗

ブランドジャンル備考
①ゴディバ洋菓子
②果汁工房果琳フレッシュジュース
③バターズ洋菓子三河エリア初出店
④キライナトキ、キライナコト。洋菓子・雑貨三河エリア初出店
⑤高級芋菓子しみず和・洋菓子三河エリア初出店
⑥マチネ ベーグルベーグルサンド全国初出店
⑦三越豊田プロモーションスペース
⑧ザ・タルト&ナメリ洋菓子三河エリア初出店
⑨リンゴ洋菓子東海地方初出店
⑩プレスバターサンド洋菓子
⑪スウィーツ ゴー洋菓子三河エリア初出店
⑫インターモードマルシェファッション雑貨
⑬コトモノマルシェアクセサリー
⑭ウチノ バス&リラクゼーションタオル・バス・トイレタリー
⑮グッドキッチンカンパニーキッチン用品
⑯コスメキッチンマーケット化粧品三河エリア初出店
⑰ウサギオンラインストアレディスファッション東海地方初出店
⑱ハグオール買取サービス
三越ギフトサロンギフトショップ
THE SALONサービス

豊田市駅西口市街地再開発ビルにおける入居百貨店の変遷

1988年10月:豊田そごう開店 A館1階~9階、B館4階~11階に出店
1997年 3月:全面改装A館のみ豊田そごうが営業継続 B館はT-FACE専門店となる
2000年12月:豊田そごう閉店
2001年10月:松坂屋豊田店開店 A館1階~6階に出店
2021年 9月:松坂屋豊田店閉店
2022年 4月:三越豊田開店 A館2階に出店、その他のフロアはT-FACE専門店となる

豊田まちづくり株式会社の役員体制

代表取締役 豊田商工会議所􀀄副会頭
常務取締役 豊田まちづくり株式会社 常務取締役
取締役 豊田市 副市長
取締役 豊田市 産業部部長
取締役 豊田酒造株式会社 代表取締役社長
取締役 トヨタ自動車株式会社 総務部 管財・渉外室室長
取締役 豊田まちづくり株式会社 取締役
監査役 豊田市􀀄会計管理者
監査役 豊田信用金庫 常務

店舗データ

T-FACE外観

①店舗名 三越豊田
②所在地 豊田市駅西口市街地再開発ビル T-FACE A館2階
③アクセス   名鉄三河線・豊田線 豊田市駅下車 、愛知環状鉄道・愛知環状鉄道線 新豊田駅下車 各徒歩1分
④開店年月日  2022年4月22日
⑤賃貸人   豊田まちづくり株式会社
⑥事業主   株式会社名古屋三越
⑦売場面積  約1,900㎡
⑧展開内容 食品、婦人服、化粧品、服飾雑貨、リビング用品、サービスなどブランドショップ
18店舗、デジタルスタンド、サロン、ギフトサロン
(百貨店区画45%/テナント55%)
※周辺地域の人口:豊田市41.6万、みよし市6.1万