昭和24年10月創刊

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編集部より

グラフは語る その5「身の回り品と宝飾」

デパートのアイテム別月間売上の趨勢から ここ10年間の消費を読み解く

 本紙デパート新聞は、毎号、独自取材に基づき全国の百貨店73社、190店舗の売上データを元に、その月間概況を掲載している。掲載したグラフは2013年1月から2021年の12月までの首都圏30店舗の売上の推移を辿っており、アイテム毎に顕著な月別動向が見て取れる。尚、2020年2021年のグラフには緊急事態宣言の発出時期に網掛けをしている。
※グラフ左の売上の単位は百万円

グラフデータの対象店舗は以下

さいか屋、そごう千葉店、そごう大宮店、ながの東急、グランデュオ立川、スズラン前橋店、井上本店、京王聖蹟桜ヶ丘店、伊勢丹浦和店、伊勢丹立川店、八木橋、小田急町田店、小田急藤沢店、岡島、新潟伊勢丹、東急吉祥寺店、東急町田店、東武宇都宮百貨店、東武宇都宮百貨店大田原店、東武船橋店、松坂屋静岡店、水戸京成百貨店、西武所沢店、遠鉄百貨店、静岡伊勢丹、高崎髙島屋、髙島屋大宮店、髙島屋柏店、髙島屋立川店、丸広百貨店川越店
※日本百貨店協会の中で、全期間を通してデータがある首都圏30店舗の売上を合算している。関東圏の主要百貨店を網羅する一方、銀座、新宿、池袋といった東京の主要ターミナルは、敢えてはずしている。大手百貨店の本店には外商や大型企画といったイレギュラー売上が計上されるため、消費の実態像がつかみにくくなるからだ。ご容赦頂きたい。

身回品と高額品

 今まで4回にわたり、①子供服、②食品、③化粧品と家具、④婦人服の、9年間のグラフを見て来た。前回「婦人服」を取り上げて、このコーナーもそろそろ終了か? と思っていたが、デパートの「今」の趨勢を語るのに、避けては通れないもう一つの主要アイテムを忘れていた。それが身回品だ。基本は衣料品以外の身に着ける物( 靴、バッグ、帽子、傘、ハンカチ、アクセサリー等)である。但し高級時計やブランドバッグ、金、プラチナやダイヤモンドといった宝石類は、「宝飾、貴金属」に含まれる。それに絵画等を加え「美術・宝飾・貴金属」は高額品として別途分類している。

身回品

 月別の高低はあるものの、月間50〜60億をコンスタントに売上ており、年々徐々に下ってはいるものの、前回の婦人服の様な厳しいダウントレンドは見られない。衣料品同様、1月と7月のセール期が高く、翌月の2月8月(ニッパチ)は低い。もちろん衣料品よりもギフト率が高いため、12月は70億とダントツの売上となるのは言うまでもない。2020年4月のコロナによる最初の非常事態宣言下に10億を下回ったものの、2021年は40億レベルまで回復。直近の2021年12月に65億まで戻っており、これはコロナ前の2019年12月、つまり2年前とほぼ同レベルである。各百貨店とも、「2019年売上への回帰」を今期の目標に掲げており、単月とは言え、2年前の売上に回復した身回品は、「デパートのルネッサンス」の小さな象徴なのかもしれない。

美術・宝飾・貴金属

 こちらは売上規模としては、前述の身回品のほぼ半分くらいで、かつ月間の偏差は更に少ない。12月のギフト需要を除くと月別の差はあるものの、月間売上は20〜30億をキープし、安定した売上を記録している。高単価なアイテムは、言うまでもなく顧客からの「信用・信頼」のプライオリティが高いため、百貨店の「ブランド」が最も生かされるジャンルだ。コロナの最初の非常事態宣言下の2020年4月5月には、身回品同様10億を下回ったものの、2020年も2021年もコロナ影響をほとんど受けていない「稀有」なアイテムと言って良い。それどころか、2021年の12月には35億超の売上をマークし、この9年間の12月の中で最も高い。これが、世に言う「リベンジ消費」というヤツなのかもしれない。前述の身回品を上回る「優等生」ぶりだ。

増税前の駆け込み

 美術・宝飾・貴金属で真っ先に触れるべきは、2014年の3月売上の突出だろう。毎回同じ話で恐縮だが、これは消費増税前の駆け込み需要である。2014年の4月に消費税が5%から8%にアップされ、他アイテム同様、そのマイナス影響がグラフに刻まれた。一方、美術・宝飾・貴金属のグラフでは顕著であった2019年の9月の「突出」だが、身回品のグラフの「山」はさほど高くない。翌月の8%から10%への再増税マイナスは2月並みの凹みと言って良いくらいだ。美術・宝飾・貴金属の2014年の3月(50億)や2019年9月(40億)が、通常売上の2倍規模となったのと比較すると、より顕著だ。高額品への「今買わないと損する」という顧客心理の「切迫感」に比べ、身回品の「通常運転」ぶりが際立つ結果だ。3ヶ月前の9月の駆け込みにより、2019年の12月の売上ピークは、例年より10億下ったことも読み取れる。

富裕層シフト

 本紙の連載コラム「デパートのルネッサンスはどこにある」でも何度も取り上げているが、三越伊勢丹、大丸松坂屋などの大手老舗百貨店のトップは、事あるごとに「富裕層シフト」に言及している。主軸アイテムのファッションが売れなくなり、コロナ禍によるインバウンド売上の消失により、化粧品も不振化した。頼みはデパ地下だけ、という一本足打法からの脱却を期して、各社とも富裕層ターゲットを、より鮮明に打ち出している。

 外来顧客のインバウンドが断たれ、高額品売上を「内需」に切り替えただけ、という一見「付け焼刃」的な方策とも取れるが、それほど各デパートの「台所事情」は厳しいのだ。もちろん「買える人に買ってもらう」というのは、決して商売として「悪」ではない。前述した様に百貨店には「信用というブランド」がある。高額品の購入に際して、顧客が最も気にするポイントを百貨店はクリアしているのだ。

コロナと戦争

 当該アイテム好調のもう一つの要因は、コロナ禍により、旅行やエンターテインメントを含めたレジャー全般への消費支出が著しく低下し、富裕層は金の使いどころに困っている、というコトだ。我々庶民からすると羨ましい実態が透けて見える。それが「リベンジ消費」という名前で、富裕層の高額品購入に向かっているのだ。買える人が買ってくれないと、経済が回って、庶民も恩恵に与れない、という資本主義経済の「ちょっと空しいけれど」大事な仕組みである。「ロシアによるウクライナへの侵攻」の様な、信じられない事態を引き合いに出すまでもなく、富の好循環と再生産が、世界経済の糧となるのだ。失礼、急に話を大きくし過ぎては、収拾がつかなくなる。いずれにしても、「平和」であってこその国家であり、百貨店であるのは、明白である。いろいろ不満はあっても、民主主義の国に生まれたコトを感謝し、自由に「買物」が出来る幸せを謳歌したい。

展覧会の絵

 今まで、高額品というくくりで、宝飾・貴金属に「美術品」も含めて一緒くたに話を進めて来た。しかし美術品というのは、いささか「特異」な商品である。もちろん、宝石やブランド品の様に、デパートの「信用」を下敷きにして売買が成立するのは同じだ。だがしかし、美術品= アート作品は、そのほとんどが再販商品であり、価格は通常百貨店が遵守している「正価販売」ではないのだ。極めて異質なモノだが、画廊や企画会社をテナントと考えれば、仕組みは変わらない、という考え方もできるが。

 筆者は先日、日本橋三越本店の7階催物会場で「M I T S U K O S H I A r t Weeks」という絵画販売の展覧会に行った。洋画、日本画だけでなく、草間彌生、奈良美智、バスキア、バンクシー等の現代アート作品が、無料で観覧出来る、デパートならではのお得な催事だ。もちろん1千万円単位の作品を「ポン」と購入する顧客はそうは居ないだろうが、大変盛況であった。集客と実売の一石二鳥であり、百貨店らしさを実感できた。数十万円単位のリーズナブルな作品もあり、これからのアート市場の活況や、信用を売る、というデパートの一つの方向性も垣間見え、思わぬ収穫だった。絵画を含めた高額商品の販売、逆にブランド品の買取りなど、百貨店がその「信用= ブランド」を利用したビジネスには「デパートのルネッサンス」の萌芽がある。そう感じた休日だった。