デパート新聞 第2685号 – 令和4年4月15日

2月全国は0.7%減

 日本百貨店協会は、令和4年2月の全国百貨店(調査対象73社、189店〈2022年1月対比±0店〉)の売上高概況を発表した。売上高総額は3172億円余で、前年同月比マイナス0.7%(店舗数調整後/5か月ぶりマイナス)だった。

百貨店データ

SC販売統計2月

都市規模別・地域別 売上高伸長率

神奈川各県令和4年2月商品別売上高

人事異動

  • エイチ・ツー・オーリテイリング㈱
  • ㈱阪急阪神百貨店

地方百貨店の時代 その37 – 外商崩壊の構図

デパート新聞社 社主
田中 潤

外商員教育の怠り

 デパートは、優良顧客の宝庫である外商顧客のために外商員を担当者として配備するのだが、肝心の外商員教育を怠ってきたことは非常に残念である。社員を外商に配属した時点で、「外商員としてどういう仕事をすべきか」「どうやって顧客と向き合っていくべきなのか」といった座学をする土壌はなく、現場を回ることで自然に覚えさせればよい、という怠慢な対応に終始した。

 結果的に、新人外商員が既存の顧客を引き継いだ場合、前任者以上のパフォーマンスを発揮することはほとんどなかった。未経験・無能力なので当然である。新規顧客を開拓しようにもノウハウがないから、取っ掛かりさえ分からない。結果的に、彼にとって集中力のない時間ばかりが増えていく。更に、売上拡大のために行われる店外催事や特別招待会などに断続的に動員され、居場所もなく、ただ立ちん坊で一日を費やす、といった寂しい光景を現出させていった。

 優秀な外商員は、良質な顧客が少なければ自分で新しい商いを作っていかなければならないと考える。特に法人顧客を担当すると、記念品や中元・歳暮くらいしか買い物をしてくれない場合が多い。別の商品を見つけなければと、例えば社員のユニフォームを提案したりするわけである。もしユニフォームを受注できれば、その仕様をまとめ、納品するまでの間に顧客と長期間接触することになる。納品後も、新入社員の使用分などで何かとやりとりも増える。ユニフォーム自体の売上もさることながら、信頼関係が増していく中で様々な取引につながるチャンスが生まれるのである。

 むろん、その過程での顧客とのやりとりは常に誠実かつ勤勉であらねばならない。約束を破るなどは論外で、いかに相手の欲していることを先回りして気付き、用意していくかという洞察力が必要なのである。つまり、成果を上げる外商員は自身のパイオニア精神と日々の努力の積み重ねが必ずあるわけで、当然ながら顧客との結びつきも堅固である。ところが、外商員の資質や教育に無関心な人事部は4〜5年も経てば平気で人事異動をしてしまう。更に恐いのは、その人事異動には優れた外商員の上司が当然絡んでいることだ。つまり、凡庸な上司は外商員個人の能力ではなく、その外商員が上げた数字しか見ていないことが多いので、良い顧客の仕事は誰にでもできる、と考えている。

 更に悪質な上司になると、担当者を異動させることで、良い顧客の下で生まれている売上の源泉である仕入先・取引先を自分が掌握し、担当者が築いた取引ルートを自分の息のかかった業者に変えていくことを考えていく。むろん、個人的なキックバックが目的である。こうして、優秀な担当者が異動すると大きな弊害が露呈する。

 最大のリスクは、新しい担当者は前任者のレベルに遠く及ばないことである。配属時に教育を受けていないことも当然だが、前任者が長期間の努力で築いてきた顧客との信頼関係を引き継ぐことは人間同士の絆を変えることであり、新しい人が容易くできるはずはない。普通以上に働いても無理なのだから、もしやる気のない外商員などであったら顧客のストレスは急増する。また前述したように、顧客のために作られたはずの取引ルートがデパートの都合(それはその上司の思惑によるものだが)で変えられることで納品におけるリスクも拡大する。顧客の求める独自のルールを破った不愉快な取引が起こってしまうのだ。

 要するに、顧客は、自分たちのことを優先して考えてくれなくなった、との認識をもつことで依頼意識をなくしていく。そしてある時、デパートは、毎年必ず続いていた大きな売上を一瞬にして無くしてしまうことになるのである。しかし、担当者も上司もなぜ顧客が取引をしてくれなくなったのが気付きもせず検証もしない。気まぐれなお客さんだと愚痴をこぼすくらいであっさり諦めてしまう。外商顧客は、わざわざクレームなど言わずに、静かに、そして冷たく離れていくからである。

固定客づくりに向けた教育

 顧客が何を考えているか分からなければ取引は絶対に膨らまない。いや、縮小する。顧客と仲良くしていく過程では、当然外商員はその顧客のために最大限の力を集中させる。「絶対に約束を守る」とか「嘘をつかない」とか「誠実である」などという当たり前のことではない。「売らない商品はない」「求められた注文はすべて受ける」「買ってもらえなければ、なぜなのかを真摯に追及する」といった非合理的な覚悟が必要なのである。

 そういう担当者を持った顧客は、もしその外商員が異動ということになれば、直接デパートに「元に戻せ」と怒鳴り込んでくることもしばしばであった。地方百貨店はこうした外商と外商員の実態を改めて研究し、これからの固定客づくりに向けて教育態勢を考えていって欲しい。

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 新型コロナウイルスが私たちの生活を襲って、3年目の春となった。対処の方法はいろいろ身につけてきたものの、どうしても分からないことがある。なぜ、日本政府は、感染確認の検査を全国民に徹底させないかということである。これを行うことで、感染者の本当の数も分かるし、感染していないと分かっている人たちの集まりは、今よりももっと緩やかになるはずである。

 クラスター発生と指摘されることを恐れて、多くの人が集うことを躊躇っているのは政府のこの方針によるところは大きい。

 全員検査をさせられない理由があるなら、丁寧に伝えるべきだろう。マスコミも政府に配慮して何も言わないのならば、かの国の報道姿勢との類似性を問われても一概に否定できないのではないだろうか。

業界四方山情報

 仕事柄、デパート各社の経営者の方々と雑談をする機会がある。雑談とは言え、そのデパートが置かれている環境や経営者自身の生の声が聞こえて来る。

 外商畑出身の店長は、「富裕層顧客」、「上位顧客」といった表現は心情的に使えないそうだ。「お客様はすべて大事なお客様である」との信念が長年にわたる外商顧客との接客で染み付いているからである。

 大手デパート出身の社長は、「個人的には、拡大基調のサテライト店舗を他県の地方都市に出店したいが、既にそこには老舗デパートの基幹店があるから妙案を練っている。」などと意味深長な一言。

 学生時代にバスケットボールに熱中した店長は、プロスポーツチームとのオフィスサプライヤー契約を締結し、ファン、チーム、デパートが三位一体となって地元を盛り上げることに成功していることを熱心に話して頂いた。店長自身が若かりし日に熱中し、今もそのスポーツの大ファンである事が、事業を成功に導いた最大の要因の様である。

 電鉄系デパートの社長は、「親会社が経営する最寄り駅の電車の運行本数が少ない。集客に繋げるには運行本数を休日だけでも増やして貰いたいが、壁は分厚い。」と溜息をつく。

 インバウンド消費の恩恵に預かった日々を回顧する幹部もいる。「二年前までは、一日一億円をインバウンドで売り上げていた日々があった。いったい、いつそれが戻ってくるのだろうか。」

雑談とは言えない深刻な話題が雑談には出て来る。

連載小説 英雄たちの経営力 第2回 豊臣秀吉 その3

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連載:デパートのルネッサンはどこにある 45 後編 – 「そごう・西武」売却はデパート業界を変えてしまうのか?

老舗と電鉄系の系譜

 ちょっと大雑把すぎるかもしれないが、百貨店業界は大きく2つに分類される。

 一つは江戸時代にその起源を持つ歴史のある老舗呉服屋の系統。髙島屋、三越、伊勢丹、大丸、松坂屋などがこれに当たり、彼らは一等地に店を構え、かつ古くから「お得意様」という名の多くの富裕層顧客に支えられてきた、という歴史を持つ。

 もう一つは後発の、主に電鉄系百貨店で、戦後電鉄会社の沿線住宅開発に伴って始発駅を皮切りに、主要ターミナル駅にデパートを作った。そのスタートは鉄道利用の促進を狙ったものだ。言い換えれば、「富裕層」の地盤を持たない大衆向けの量販型百貨店というくくりになる。関東で言えば、東急、京王、小田急、西武、東武。関西では阪急、阪神、近鉄がこれに当たる。
※東急の田園調布( のちの二子玉川) や、阪急の芦屋のような、沿線が富裕層( 化) 住宅地域というパターンは別だが いずれにしても昭和( 戦後) 以降に発展した住宅街が起源となる。

続きは デパートのルネッサンスはどこにある? 2022年04月15日号-45 後編 を御覧ください。

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