㈱東武百貨店船橋店 田中尚店長 直撃インタビュー - 明日を目指す百貨店探訪 第6回
全国各地の百貨店は、その地域経済のバロメーターでもあるのではないだろうか。地域一番店である百貨店を全国津々浦々に訪ねてその様々な実情を発信するシリーズ。
田中店長
■ 店長経歴
1990年 4月 ㈱東武百貨店入社
2016年 3月 ガンプス事業部長
2017年 3月 経営企画部長
2019年 5月 取締役 本店食品部長
2020年 5月 取締役常務執行役員 船橋店長
東武百貨店は、池袋店と船橋店が中心となり本東武グループの百貨店部門を牽引している。船橋店は、千葉県の北西部に位置する船橋市の唯一の百貨店である。
「まずは、東武百貨店船橋店の現状、今後の方向性についてお聞かせください」
(田中尚店長)
昨年度は、コロナ感染拡大の影響を受け、売上高は265億円にまで減少しました。今年度(2021年3月~)は、売上を前年対比16・8%増の310億円と計画しています。上半期の売上は、7月までは段階的に順調な推移をしました。
8月からは再度の緊急事態宣言により大幅なペースダウンとなりましたが、10月からの宣言解除により客足がかなり戻って来ています。昨年度の来店客数は一昨年度の70%でした。今年度は一昨年度に近づけるよう に試みています。
東武百貨店は東武グループの流通事業として中期的な事業方針を掲げています。地域に密着し沿線のお客様に貢献する新ターミナル百貨店を目指しています。
先ず、今年中期重点施策として事業構造改革を行うロードマップを作りました。その改革に向けての二つの柱は、テナント化の推進とEC事業・通販事業の拡大です。
顧客ニーズに応える品揃えと販路を拡大するとともに、安定した収益基盤の確立を目指しています。
「多彩なテナントミックスを創るとは」
(田中尚店長)
構造改革を実現するためのひとつ目の戦略は従来の百貨店ブランドに拘らないテナントミックスです。4年前には婦人服売場を大幅に縮小した2階、3階へビックカメラを誘致しました、百貨店を利用する女性客、ファミリー層をターゲットにしたレイアウトがコンセプトです。これがターニングポイントになりました。更に、今年は5階にユニクロ、ABCマート、地階にマツモトキヨシを誘致しました。生活全般の物を揃えて地域の皆様のニーズに応える。全世代のニーズに応えるのが主眼です。
新規テナントの導入により、来店数は大幅に増加しました。
当店は地域の皆さんのご要望にまだ全て応えきれていません。お客様が求めている品目を揃えていくとなると、結果としてテナントミックスになるのです。今後もこの流れを進めていきます。新興のテナントを視野に入れ、様々な業種、業態、を探っていきます。アパレルの不調の時代と言われる中でも好調なアパレルが無いわけではないのです。従来型でないアパレルの展開の仕方があるでしょう。D2Cのように形を変えて展開していくのも必要かもしれません。
1977年の開店当初は、百貨店に専門店街「ViV」を併設していました。2003年にこの「ViV」を終了し全て百貨店の売場にしました。婦人服アパレル拡大に伴うものでした。当時は店内がファッション大 店化していました。それからは、お客様のニーズは変遷を経て再び開店当初の状態に戻ったと感じています。今や1977年開店当初期の百貨店の百貨に戻りつつあるのではないかと考えています。
「『地域密着日本一を目指す!』ための取組みはどのようなものですか。」
(田中尚店長)
当店は、地元船橋市のお客様はもとより、東武線を中心とした沿線のお客様の生活向上のお役に立つことを目指しています。地元のお客様のマイストアを目指そうとの中期経営目標があります。地元のスポーツチームの応援をしているのもその一つです。プロ野球の千葉ロッテマリーンズ(千葉市)、プロバスケットの千葉ジェッツ(船橋市)ラグビーリーグワンのクボタスピアーズとコラボしています。先ずは、我々も地域の皆さんとチームを応援して、地域を盛り上げる試みです。特に、千葉ジェッツについてはBリーグの開幕に合わせて、船橋駅コンコース内において、選手のポスターでのコンコースジャック、店内においても、エレベータージャック。また、店舗外壁には、全長約20mの選手の写真を入れた懸垂幕を掲出する等の応援をしています。
ジェッツとコラボしている企画には、「勝負メシ」があります。地下食品売場で販売するお弁当に「勝負メシシール」を貼り販売。
また、船橋市内に工場を持つサッポロビールと千葉ジェッツが共同企画した「ジェッツ缶」。試合前にこれらを買って応援に行ってもらうのです。このプロモーションが地元のお客様に喜んで頂けています。これにより、サポーターの方々が当店に親しみを持って頂け、新たな顧客の獲得に繋がっているのです。当店は、顧客層が60歳代、70歳代中心の店です。一方、地元スポーツチームのサポーターの中心層は20歳代~40歳代の若い世代です。ジェッツのファンクラブは30歳代が中心。彼らは子供さんを抱えている世代です。チームのお膝元の船橋市はミニバスケットが盛んな土地柄。幼い頃からバスケットに慣れ親しんでいます。これらの環境は新たなファミリー層顧客獲得の絶好のチャンスとなっているのです。
当店では地域情報ツイッターを発信しています。ジェッツも独自にツイッターで発信。週末は東武でジェッツを体感しよう。とのツイートがあります。
ジェッツはキャンペーン等の企画をSNSで発信するのが上手。当店のジェッツ企画をSNSで発信して頂けるので大きな反響があります。
また、かつての優勝セール中心の考え方を変えました。勝っても負けても毎週がお祭りです。週末はジェッツを応援するぞ!と、応援を日常化して店に来てもらうとの考え方です。
船橋市は絵画が盛んです。当店では、船橋市出身の若手画家の作品の個展を開催しています。また、本年その画家が指導する地元公立中学生の作品展示もしました。今後の夢でありますが、生徒さんがいずれ絵画の世界に羽ばたかれ、成長して当店での個展を開いていただければと思っています。地域に根差した店としての夢です。
「地産地消の取組みはありますか」
(田中尚店長)
昨年7月より毎月27日前後に数日間、店舗前の船橋駅コンコース(北口・南口連絡通路)を会場に地元のグルメを集めた「ふなばしマルシェ」を開催しています。コア出店者と月替わり出店業者で構成。出店者は当初の船橋市内から現在は近隣の市まで拡大しています。当初は船橋市や船橋市観光協会に出店者を紹介してもらってスタート。現在でもご紹介を頂きながら自社での開拓をはじめ出店者を広く募っています。「ふなばしマルシェ」の企画導入前までは、食品担当バイヤーはデパ地下出店の全国的な業者との繋がりが中心でしたが、この企画に伴って徐々に市内、県内の業者と繋がりができました。現在は、更に接点が広がっています。取扱い商品の中では、梨=品評会開催(船橋市)や地元梨農園のフルーツサンドが好評です。東美会( 後述) でデビューさせ完売した商品に地元梨農園産の梨から地元のレストランが作ったコンフィチュールと神戸の有名チョコレート店「モンロワール」がコラボした商品・梨チョコがあります。「ふなばしマルシェ」で好評だった商品は、贈答品の「千葉船橋銘産ギフト」として、電話、ECでも受注しています。
また、 市のお墨付きブランド「ふなばしセレクション」も展開しています。船橋特産の農水産物等を使用した加工食品を募集し、「ふなばし産品ブランド協議会」の厳正な審査により認証された船橋を代表する商品です。全日本クラムチャウダー選手権を2連覇しているラーメン店が作るクラムチャウダーが大好評で売れ筋商品です。
「ECについて」
(田中尚店長)
この夏、初めてECによる梨の販売を行いました。市内は梨園が多く、お客様はお気に入りの梨をMY梨園として親戚・知人に贈る需要が多い。先ず、カタログを作り、ECと電話受注と店頭での受注をしましたが、この3つ全てが最も実効性がある手段と実感しました。
今、百貨店で一番売れているのはおせち。年々売り上げが上がっていますが、半分をEC、半分を店頭でお申込みを頂けるようになりました。中元歳暮ギフトについても、ECはとても重要です。と共に地域密着でありますから百貨店らしくリアルな店頭での承りも重要なのです。来るお歳暮ギフトでは、「千葉船橋ギフト」を別冊として出し、ECと店頭で展開をします。
「顧客特性について」
(田中尚店長)
中心顧客層は、外商顧客を含め、50歳代、60歳代、70歳代が各25%。80歳代を含めると全体の80%を占めています。これからも大事にしていく層です。現在、船橋市は若い方を中心に流入人口が増えており、今後は、20歳代から40歳代までを新たな顧客層に取り込みたい。そのひとつが、地元スポーツチームのファン層でもある30歳代の顧客の獲得です。もうひとつは、20歳代の社会人デビューした女性顧客層です。戦略的に「デパコス」といわれる化粧品が切り口です。船橋店では、10歳代20歳代のお客様も友人へのクリスマスギフトや誕生日プレゼントに化粧品を贈答がする傾向が増えている。先ず、20歳代にとっての百貨店への入り口を化粧品から入ってもらう戦略です。
また、TOBU POINTアプリを活用した新たな顧客層の獲得を目指しています。昨年10月より東武鉄道が TOBU POINT「通称・トプポ」アプリの運用を開始しました。クレジットカードを持っていなくてもポイントが貯まるので未成年の生徒さん学生さんでも作れるのは大きいです。スマートフォンアプリの場合、売場でのバーコードスキャンでどんどんポイントが貯まっていきます。東武鉄道の利用客は10歳代20 歳代から、働く世代が中心です。その層は百貨店の新たに獲得したい顧客層でもあるのです。東武鉄道やソラマチ等商業施設利用客、百貨店利用客が貯まったポイントをどちらでも使えるサービスですから、グループ各社間の相乗効果が期待できます。
また、LINEによる顧客獲得をこの1年間で強化していきます。LINEを登録して頂き、催事の告知等で販促に繋げます。これらの新しいツールを使い新しい客層を掴んでいきます。
船橋市にはG M S、ショッピングセンターが多くありますが、一般向け品揃えです。いいモノを買いたい時は東武百貨店へ来て頂きたい。晴れの日のギフトの際には東武をお使い頂く。一方で、当店は食料品がとても強いですから、全ての市民の方々にお越し頂きたい。富裕層向けでもあり一般向けでもあります。お越し頂きたい顧客層は地域の皆さんであります。当店は、ボリュームゾーンの商品から数千万もする絵画まで、地域の全てのニーズに応えたいと考えています。ただ、他の商業施設との差別化では「ハレの日」の商品を揃える。その商品は忘れてはいけない。そこは百貨店としてはあるべき姿です。昭和の百貨店はそうでありました。その基本に立ち返るのがこれから進む方向です。
「商圏について」
(田中尚店長)
人口が多く、お客様が店がある船橋駅まで電車で30分以内で行ける地域です。船橋市、市川市、習志野市、八千代市、鎌ヶ谷市、白井市が中心。そして千葉市、佐倉市。これからは東武アーバンパークラインで繋がっている柏市、流山市や近隣の松戸市、浦安市を取り込みたい。それで千葉県北西部一帯に商圏を広げます。交通網は鉄道、路線バス共に発達しており、駐車能力も850台と充実しています。徒歩や自転車でご来店の方も少なくありません。船橋店ならではの特徴です。
「外商について」
(田中尚店長)
全売上に占める外商比率は10数%です。個人向け(お得意様向け)外商員は20名。稼働している口座数は約5000。外商顧客の中心は70歳代。上位顧客以外の口座は組織営業でカバーしています。
売上拡大の戦略として、これまで、東美会(半期に一度開催する特別ご招待会。高額品を展開。)は、外商顧客を中心に顧客限定でしたが、新聞折り込みにて開催告知をし、幅広くお越し頂くように変更しました。新たな外商顧客の掘り起こしです。また、外商顧客に来店して頂き店内をご案内する来客型外商営業を新たに行っています。 これまで船橋店は個人外商が中心でしたが、法人外商の強化を図っており、池袋に本部を置く法人外商のスタッフを船橋店には5名常駐させています。対象は千葉県内に本社がある企業や公共団体。地域のニーズに応えて営業をしっかりと行うことが重点ポイントです。
「船橋店のイチオシを教えてください。」
(田中尚店長)地元密着です。船橋店は食品、物産展が強みです。この強みを活かして「地域密着日本一」を目指しています。
(敬称略)
東武百貨店船橋店
店舗沿革
1977 年10 月 開店
2003 年10 月 全館改装グランドオープン
2013 年12 月 レストラン街改装
店舗データ
- 店舗名 東武百貨店船橋店
- 所在地 千葉県船橋市本町7-1-1( 船橋駅前)
- アクセス JR 総武本線、東武アーバンパークライン他
- 開店 1977 年10 月
- 売場面積 35,876㎡ 営業フロア B 1F、1F ~ 8F
- 売上高 264 億8 千万円(2020 年度)
- 駐車場台数 850 台
※県人口:632 万人、市人口:64.5 万人