藤崎 阿部和彦本店長 直撃インタビュー – 明日を目指す百貨店探訪 第9回

 株式会社藤崎は、城下町・仙台の繁華街・一番町に本店を置き、東北地方で最大の売上高を誇る百貨店。

「まずは、藤崎の現状についてお聞かせください。」

藤崎 阿部和彦 本店長

(阿部和彦本店長)
 弊社は、藤崎本館をはじめとする4館を中心に本店を構成しています。

 また、青森県を除く東北地方5県に計17の小型店を展開しています。

 東北における百貨店の環境は厳しく、一昨年1月に大沼(山形市)、8月に中合福島店、昨年7月にはマリーン5清水屋(酒田市1950年清水屋百貨店開業、1994年に中合清水屋)が閉店し、山形県と福島県から百貨店が無くなりました。この趨勢により、ますます藤崎が担う使命、役割が大きくなっていると考えています。百貨店として、お客様とのつながりを大切に、リアル店舗の魅力(お客様との会話)とデジタルを活用した顧客接点の拡大に取り 組みます。藤崎の経営理念のひとつは、地域の発展に貢献することです。地域との関わり合いを深くし、共に発展しながら歩んでいくことを使命としています。そのためには、東北、宮城、仙台に情報発信を行い、変化する時代における新しいライフスタイルの提案を目指していきます。

商圏について

(阿部和彦本店長)
 宮城、山形、福島、岩手の各県を主な商圏としています。ハウスカードをお持ちのお客様の約96%が宮城県内にご在住、4%が宮城県外にご在住です。交通手段の大きな変化は、仙台市内を走る仙台市地下鉄です。これまで南北線( 営業キロ14・8 ㎞ ) のみでしたが、2015年に東西線(営業キロ13・9㎞)が開業し、最寄りの青葉通一番町駅が本店の地下2階と直結したことにより、仙台市内の東西両地域にお住まいのお客様の交通の利便性が一気に高まり、新たな顧客獲得に繋がりました。

顧客特性について

(阿部和彦本店長)
 中心となる顧客年齢層は60歳代です。それに次ぐ顧客層が50歳代と70歳代です。主に、中心顧客のお客様に対してライフスタイルを提案していますが、今後は、20歳代から40歳代のミレニアル世代の層を伸ばしていきたいと考えています。これまでは、アパレル中心の販売構成でしたが、お客様の関心度の変化に伴って、新たなカテゴリーを提案し、そこで、ミレニアル世代との接点がより一層構築できるのではないかと考えています。特にこれからは、モノだけの提案ではなく、体験や発見、感動といった「コト」イベントを打ち出していきます。既存の顧客層の方々は美と健康への関心度が高く、先日は催事場にてウェルネスライフフェアというイベントを開催しました。健康や運動、フィットネス、ビューティーに関するアイテムを取り揃えたほか、補聴器に関連する「聴こえ」の体験会を開催しました。また、整骨院の方による「身体年齢」測定や「あなたの野菜摂取」診断等、お客様にアドバイスができるコーナーもご用意しました。意外でしたのは、百貨店ではこれまで紹介し切れていなかった商品であるマッサージ器をご紹介した際に、お客様の反応が非常に良く、イベント期間中ほぼ毎日ご購入頂けた事です。その様な需要があるのだと、改めて感じました。

 現在、全売上の70%をハウスカード「藤崎Fカード」をお持ちのお客様が占めています。

 来期(3月〜)は、「藤崎Fカード」をお持ちのお客様を現在の39万人から41万人に増やすことを目指しています。そのために、「藤崎Fカード」をオンラインによるお買い物で、ポイントを利用できるようなシステム、支払いができるシステム、ポイントが貯まるシステム等の利便性の向上に取り組んでまいります。

「取材当日は、バレンタインデーチョコレートの商戦のスタート直前です。これから始まる商戦についてお聞かせください。」

(阿部和彦本店長)
 ミレニアル世代が中心顧客となるバレンタインデーのチョコレートは、50〜60歳代の方々にもご提案します。常設する店舗に加え、プチ贅沢の需要に対応し、3,000円以上の商品をご提案します。お客様はバレンタインチョコレートをギフトとしてだけでなく、ご自分へのご褒美としてもお求めになられます。今年は、ECにおいて、商品数をこれまでの倍にしています。また、ECで予約した商品を本店の本館で受け取れる「商品受け取りサービス」を新たに取り組み、お客様のニーズにお応えします。

外商のテリトリーとして

(阿部和彦本店長)
 県内を中心に、青森県を除く東北5県に拠点を14か所設けています。これらの外商拠点を通じて、東北各地のお客様との繋がりを強めています。そして、商圏のなかで外商を更に活かした取組みをしていきます。

 外商の売上は、全売上の3割程度です。現在の口座数を現セールス数で充分にはカバーし切れていません。これまで、なかなか接点を作れなかったお客様については、これからデジタル訴求によってアプローチをめざしていきます。それにより新たな顧客接点に繋がるとの仮説は持っていますが、接点を持ちづらかったお客様へは、先ずは、ご来店をして頂くための促進を図り、また、藤崎オンラインの購買へ繋げてまいります。そのための情報発信をしていきます。

地域との取り組み

(阿部和彦本店長)
 未来を担う子供たちがスポーツを通して多くのことを学び、たくましく成長することを願い、藤崎カップという仙台市内の小学生軟式野球チームの野球大会(参加チーム数85) を主催しています。少年野球を支える地域のスタッフの方々や選手のご家族と連携をしながら運営にあたり、地域の子供たちの夢を追いかけるお手伝いをしています。この2年間は、コロナ禍での開催となりましたが、感染対策をしっかりと施し、バックアップをしてきました。表彰式前の決勝戦では様々な熱のこもったドラマが繰り広げられ、とても感動しました。

 プロスポーツについては、東北楽天ゴールデンイーグルス(野球)、ベガルタ仙台(サッカー)、仙台89ERS(バスケットボール)3球団のオフィシャルスポンサーをしております。初売りでは毎年、特別企画福袋として、各チームとコラボした体験型の福袋をご用意しており、ご好評いただいております。その一例として、今年は、ベガルタ仙台のフロントの朝礼に始まり、練習の視察や選手への訓示などを体験できる「ベガルタ仙台の1日社長体験」をご用意しました。地域貢献事業としては、2020年4月に仙台市と八木山動物公園のネーミングライツ契約を締結し、愛称を「八木山動物公園フジサキの杜」とさせていただきました。歴史ある八木山動物公園と手を結び、藤崎本館でのどうぶつ写真展など、お子様向けのコラボ企画を行っています。

 また、東北大学との産学連携により、地元名産品の牛たんの新商品を開発しました。
(詳細は、藤崎のイチオシ商品の紹介欄に記述)

小型店の戦略について

(阿部和彦本店長)
 残念ながら、コロナ禍で、外出を控えられ、本店がある仙台市の中心部に来られなくなられたお客様が増えました。その様なお客様のお買い物の受け皿となっているのが、サテライトショップをはじめとする地域店舗です。既存顧客に加えて、新たなお客様が増えていますので、当店のハウスカード「藤崎Fカード」の加入のお勧めや当カード所有の優位性を高めるべく、当カードの優待会の開催をしています。また、本店で開催する北海道展や大九州展等の恒例の物産展については、これまでは、本店に来なければ味わえませんでしたが、小型店においても、物産展の人気商品の一部を特集して紹介し、物産展の雰囲気が味わえる、そのような企画を積極的に行っています。11月からは、本店の来店客数がやや回復傾向にありますが、この状況下では、まだまだ本格的なものにはなりません。本店への足が遠のいているお客様に対しては、外商とは別に、本店で取り扱う商品を地域店舗にお持ちして紹介することで、地域のお客様に大変喜んで頂いています。来期も、ニーズにお応えすべくより精度を上げて行っていきます。

ECについて
「クリスマスケーキのカタログはDX化」

(阿部和彦本店長)
 昨年、藤崎オンラインをリニューアルしました。扱う品目を増やしており、宮城産や東北産の品揃えにも力を入れていきます。現在、会員数は15,000名です。コロナ禍において、お客様の来店頻度が減る中、店頭以外でもお買い物ができる場を増やし、利便性を向上させていきたいと考えています。ECで反響があった商品は、おせち料理、クリスマスケーキです。これらの「食」を中心にオンラインのご利用が増えています。おせち料理のEC売上はコロナ禍前の2019年比230%でした。クリスマスケーキも非常に好調でした。クリスマスケーキについては、数ページに渡る紙媒体(カタログ)での紹介を昨年より廃止し、店頭でのパネル掲示とネット上での表示に絞っておりますが紙媒体の廃止でも売上は減らず逆に増加しました。

 3月からは、藤崎アプリをスタートします。このデジタル訴求によりミレニアル世代のお客様との接点を拡大し、新たな顧客層を獲得したいと考え、新たな世代のFカード会員の獲得にも繋げてまいります。既存の藤崎Fカード会員顧客にも様々な催事のご案内をスタートします。

お客様と商品を繋ぐ、売場を支えるのはヒト

(阿部和彦本店長)
 百貨店は、リアル店舗であり、ヒトが大変重要です。人材育成、中でも各分野のスペシャリストを育成する事は重要な戦略です。リアル店舗の魅力はECと異なり、お客様との会話や接点を持つ場である点です。スペシャリストがお客様と会話をして商品にストーリー性と高い商品価値を持たせるのが売場の魅力です。そしてそこでお客様が納得し購買に結び付いていく。また店に来たいと思われる様なスペシャリスト的な人材を更に育成していきたいと考えています。

藤崎のイチオシ商品 – <藤崎オリジナル> やわらか塩麹牛たん

藤崎オリジナル やわらか塩麹牛たん

120ℊ 2,916円

牛タンのおいしさを追求する中で、日本食を支える発酵の力(=塩麹)を活用することに着目し、東北大学農学研究科の牛タンのおいしさを追求する中で、日本食を支える発酵の力(=塩麹)を活用することに着目し、東北大学農学研究科の鈴木名誉教授との共同研究により、『やわらかい』と『おいしい』等を科学的に検証しました。その結果、塩麹の旨味が肉の味を引き立てた、後味もまろやかな牛タンができあがりました。産学連携によって仙台名物の牛タンに新しい商品が生まれました。

活躍する社員さんご紹介 – 食品部 バイヤー 佐々木 修(ささき おさむ)さん

藤崎 食品部 バイヤー 佐々木 修さん

 食品部バイヤーとして、商品開発、販売計画、食品フロアリモデルなど仕事の領域は多岐にわたっております。特に現在も続くコロナ禍において、新しい生活様式に変化し、お客様の購買行動や食にまつわる環境も少しずつ変わっている中で、地方百貨店・藤崎としての食の提案はどうしていくべきかを日々模索しています。

 現在私が藤崎の食品売場の提案として特に力を入れていることは、豊富な地元の名産品の可能性を大きく広げていくことです。宮城・仙台という土地は笹かまぼこ・牛たん・魚漬・銘菓といった名産品が数多く存在し、食品フロアの中でも大きな面積を占めています。その名産品フロアを昨年末にリニューアルしましたが、今回の目的は仙台名産品をより身近なものとして日常的にご利用いただくことを目指しました。すでにお中元・お歳暮など儀礼的なギフトとして圧倒的な支持を受けていますが、ご家族・ご友人などへのちょっとした手土産にご利用いただいたり、ご自宅でのお酒のおつまみ用になど、新しい提案を増やしています。また、オリジナル商品の開発を強化したりや新しい名産品の提案の場も設けました。さらにブランドやアイテムの垣根を超えた新しい組み合わせギフトを承れる仕組みづくりを構築中です。今後は儀礼ギフトからよりパーソナルなギフトへと仙台名産品を進化させていきたいと考えています。

伊達CRAFT

 「伊達CRAFT」は、大町館4階にある、東北・宮城の伝統工芸品や現代作家によるアップデートされた工芸雑貨などを扱うセレクトショップです。
東北、宮城の手しごとをもっと身近に感じていただき、暮らしのなかに取り入れてほしいとの思いでセレクトされた、様々なアイテムが並びます。
昨年10月には藤崎オンライン上に「伊達CRAFT」バーチャルショップがオープンいたしました。「バーチャルショップ」とは、来店せずにリアルな買い物体験ができる、リアル店舗とデジタルを融合した新しい売場です。3Dカメラで売場を360度撮影しており、画面上で店舗を歩いているような感覚を味わうことができます。バーチャルショップ上では約200点の商品を扱い、オリジナル商品や季節に合わせた商品の提案を通して、地域の魅力を発信しています。また、非接触でお買い物したいお客様、来店が難しい遠方のお客様、産地の雰囲気やストーリーに共感し生産者を応援したいお客様のWEB来店を実現し、いつでもどこにいてもリアル店舗でお買い物しているかのような特別な体験を提供します。
東北の百貨店では初の取り組みです。

好評イベント – 2021年12月4日(土)テロワージュAKIU at ケヤキカフェ

 12月4日(土)、本館3階ケヤキカフェにて、秋保温泉郷でぶどう栽培とワイン造りを行っている、Plant Vineyards ブレイズ氏、秋保ワイナリー毛利氏の2名が、秋保の魅力や今後のビジョンを美味しいお酒と一緒にご紹介するイベント「テロワージュAKIU at ケヤキカフェ」を開催いたしました。
このイベントはこれまでに、東北の食と酒を産地で味わう新しい観光と食の形を提案するプロジェクト「テロワージュ東北」として、秋保ワイナリーや 南三陸で開催され、生産者のお話を聞きながら東北各地の食材やお酒を味わえる機会として、人気を博してきました。今回は藤崎ケヤキカフェの八尋シェフが料理を担当。
ご参加いただいた約20名のお客様に、東北の美味しいお酒(ワイン6種)とお料理のマリアージュをお楽しみいただきました。
※テロワージュとは気候風土と人の営みを表す「テロワール」と、食とお酒のペアリング、結婚を表す「マリアージュ」を掛け合わせた言葉

企業データ

藤崎本店
  1. 会社名:株式会社藤崎
  2. 本社・本店所在地:宮城県仙台市青葉区一番町三丁目2-17
  3. 本店アクセス:仙台市地下鉄東西線 青葉通一番町駅より直結
     JR東北本線 仙台駅から青葉通りを西へ約500m
  4. 創業:文政2年(1819年)
  5. 本店の売場面積及び営業フロア:本店計 21,350㎡
     藤崎本館  16,228㎡ B2F~7F
     藤崎大町館 2,313㎡ B1F~6F
     藤崎一番町館  1,973㎡ B1F~6F
     藤崎ファーストタワー館 836 ㎡ 1F~4F
  6. 売上高:375億円(2021年2月期)
  7. 経常利益:38百万円(2021年2月期)
  8. オリジナルイメージソング:1989年3月より
    作曲 菅原進(ビリーバンバン)HP上で聴音可

※人口:宮城県229万人、仙台市110万人、東北6県866万人

地域への貢献の歴史

  1. 宮城フィルハーモニー(現・仙台フィルハーモニー管弦楽団)の創立に携わる(1973年)
  2. 藤崎創業160周年の際、仙台駅コンコースにステンドグラスを寄贈(1978年)
  3. 仙台市地下鉄南北線の開通の際、広瀬通コンコースに「星空のプロムナード」を建設、寄贈(1987年)

(敬称略)