えきの駅 食文化探訪 第14 回近鉄百貨店草津店(前編) 営業部営業第二課 林和人課長 インタビュー

 近鉄百貨店草津店は、株式会社近鉄百貨店が運営する百貨店。滋賀県内唯一の百貨店である。

林和人課長

「近鉄百貨店草津店の立地と食品売場の商圏をお聞かせください。」

(林課長)
「滋賀県は、中央に県土の約6分の1を占める琵琶湖を抱え、周囲には緑豊かな山々や田園風景が広がります。草津店(JR草津駅前)がある草津市は県の南部に位置する、京都や大阪のベットタウンであり、現在も人口増加を続けている全国でも数少ない自治体です。転入する年齢層は30歳代〜40歳代が圧倒的です。大企業の工場が多数立地している関係で、関東圏からを中心とする転勤族が多いのも特徴のひとつです。草津市を中心とした半径約15㎞圏内に大小の複合施設が多数立地しています。 中心商圏(1次商圏)は、草津市中央、草津市南部、栗東市、守山市南部です。2次商圏は、湖南市、大津市東部(瀬田、田上、青山)、大津市中央です。「食品売場の顧客年齢層をお聞かせください。」(林課長)食品売場の顧客年齢層は、70歳代が26%、60歳代が25%。30歳代が12%、40歳代が12%と続きます。(売上ベース)

 JR草津駅を挟んで、東西にある店舗を行き来する購買行動はあまり見受けられません。小・中学生とその父母、ファミリー層は駅西側のショッピングモールへも行かれます。一方、幼児は中々あの広大なショッピングモールを歩くことができませんから、祖父母と共に駅東側の当店に来られます。当店は30歳代〜40歳代の次世代の顧客を今から拡大し、固定客にする必要があります。その年齢層は育っている最中です。

「食品売場の特徴をご紹介ください。」

(林課長)
草津店では、中期経営計画に基づき、「地域共創型百貨店」の確立に向けて、従来型百貨店から「地域住民の方々の集う場となる、駅前立地ならではのデイリーユースな『百貨店×専門店』」へのシフトチェンジをテーマに、2018年度から全店的に順次、段階的にリニューアルを実施しました。草津からは大阪まで新快速で1時間以内です。大阪、京都の特撰ブランドが揃っている百貨店と競争しても勝ち目はなくTSUTAYA BOOKSTORE、スターバックスコーヒー、プラグスマーケット等、近隣の新しい顧客層にマッチする新たな店舗の導入に舵を切っていきました。

 食品に関しての目玉は成城石井の導入です。滋賀県初出店・唯一の「成城石井」は、弊社の自主運営(FC)です。滋賀の方は地元企業である平和堂の認知度が高く、オープン時、成城石井とは何?との反応でしたが、関東ご出身の方には、成城石井が来た!良かった!と歓迎して頂きました。その直後、成城石井の特番がテレビ放映されたこともあり認知度が一気に高まっていくと同時に売上も右肩あがりに伸びていきました。成城石井を導入するまでは、食品売場の顧客年齢層は60歳代以上のお客様が中心でした。若い顧客層を取り込める様なMDが組まれていなかった。そこを大きく改装して、街の商圏の人口年齢層分布に合わせて組み替えていきました。

 食品売場の肉、魚、野菜の素材の売上は減少しています。育児と、共働きで、素材から料理される方が減っていると考えられます。今後もその傾向は続くと予想されますが、逆に、成城石井の強みである惣菜が、どんどん伸びて来ると予想しています。まだまだ伸びます!。そこは徹底的に充実させる予定です。

 関東の高級スーパーである成城石井が仕入れられない、関西の老舗の商品は、当店の他の自主編集売場で導入していく必要があります。それが課題です。多くの顧客はそのようなニーズを百貨店に求めてきます。それを1品でも増やしていく必要性があり、それに向けて我々は日々取り組んでいます。

「近江路」は事業者のコミュニケーションの場

(林課長)
「近江路」は、滋賀県の地域産品の食を集めたコーナーです。滋賀県と産業振興の協定を締結した協力関係の売場です。県内全19市町の観光協会、商工会の協力を得て、月ごとに滋賀県の地域ごとの食をピックアップし、毎月入れ替えていきます。新たな滋賀の魅力を発見できる場です。知らない又は食べたことのない滋賀県産の商品を発見でき、ちょっと珍しい滋賀県産の手土産を買うことができるととても好評です。

 他府県からの転入者が多い草津市で、このハブ的な駅前立地を生かし、滋賀県の産品を集めていこうと売場を作ったのが近江路。滋賀県は、琵琶湖を挟んで西と東、北で文化が全く異なります。滋賀県北部地域の方は福井、岐阜、愛知県内まで買い物に行かれますが、京都、大阪には出てこない。草津等の南の地域からは、長浜などの北部地域に上がることは少ない。目視できる対岸の高島市に行ったことが無い草津市民が少なくない。このような地域性ですので、滋賀県民が滋賀県の事をあまり知らないのです。「近江路」に滋賀の産品を集めたことによって、産地にわざわざ行かなくても済むとの声を頂いていますし、こういったものも滋賀県にあるのだと気づいて頂いています。鮒ずし文化は北に上がると雪深いので、保存食的に食べられる。我々も商品を集める段階でこのような地域の特性を始めて知ることになりました。近江路を作って事業者とお話ししていく中で様々な滋賀を発見できました。

 滋賀県の事業者は、第2の「たねや」(後述)を目指しますが、小規模事業者が多く、商品開発に割く余裕がない、後継者不足の問題等を少なからず抱えています。また、百貨店で扱うべきか迷う商品もあります。しかし、それを切り捨てるのではなく、どこのマーケットで販売したいですか、どのような思いでつくられたのですか、と丁寧にヒアリングをしていく。そういったことを一緒にやっていきます。共に成長を目指します。

「人気の売場、商品をご紹介ください。」滋賀が誇る「たねや」と「クラブハリエ」

(林課長)
草津市には、大きなモールが二つあります。それらと価格で対抗しても競えませんからブランド力を強化することが重要です。滋賀県民は郷土愛が強く地元産の商品を愛されます。その典型がご兄弟で経営されている和菓子の「たねや」と洋菓子の「クラブハリエ」。草津店で別格の売上の人気を誇る「たねや」と「クラブハリエ」は、和洋菓子の全国ブランドになっているとは言え、地元(近江八幡市)の馴染みのお菓子屋さんです。他府県の百貨店では、当店のような広いスペースを取ってこの2ブランドを展開している店舗はありません。

幻の銘酒「七本鎗」

(林課長)
滋賀県内の酒蔵は33社あり、その数は京都より多いのです。鈴鹿山脈、比良山系からの水脈に恵まれているのでしょう。当店は30蔵のお酒を扱っています。草津店での売れ筋№1の日本酒は、450余年の歴史を持つ滋賀の古酒蔵「冨田酒造(長浜市)」が熟成する「七本鎗」です。滋賀の酒蔵が造る日本酒は淡麗辛口が少ないと言われます。生酒の比率が高いのが滋賀県産の特徴です。これまでは存在が県外にあまり知られていませんでしたが、代替わりが進んでいて、小売りに力を入れるようになり、海外にも目を向ける蔵元が多くなっています。

滋賀県のソウルフード「とんちゃん焼き」

近江路で販売する「とんちゃん焼き(イメージ)」

(林課長)
「とんちゃん」と言えば豚肉を想像する方が多いのですが、高島市では味付けの鶏肉(かしわ)のことを「とんちゃん」と呼んで親しまれています。味噌漬けした鶏肉と刻んだキャベツを一緒に焼く「とんちゃん焼き」は滋賀のソウルフードです。当店では近江路で販売しています。

 「豚まん」を中心に人気を誇る「551蓬莱」は、売場をエスカレーター横に移設・拡大しました。相変わらず開店から閉店までお客様の列が絶えません。このブランドは関西圏限定商品であり、当店は商品を求められる最も北東側に位置しています。

 「草津メロン」はお中元の時期に事前告知をして、店頭で受注販売します。数日で500万円の売り上げを挙げる№1フルーツです。京都、大阪には流通せず地元でしか味わえません。

 2022年7月に、伝統的な琵琶湖漁業、環境こだわり農業、魚のゆりかご水田、水源琳保全などが「びわこシステム」として国連食糧農業機関から世界農業遺産(別表参照)に認定されました。「環境こだわり米」は、琵琶湖の水質や生態系を保全するため、農薬や化学肥料の使用量を通常の半分以下に減らす、泥水を流さない、などの基準を守って栽培され、県の認証を受けたお米です。「環境こだわり米」のうち、琵琶湖から産卵のために遡上してきた湖魚の赤ちゃんとともに育ったお米を「魚のゆりかご水田米」として県が認証しています。ゆりかご水田米の中に鮒等の魚が泳いでいる。田んぼと琵琶湖を魚が行き来する様子を是非一度ご覧ください。昔の風景の中で育つお米が滋賀県にはあります。

「恒例の食品催事はありますか。」

(林課長)
半年に一度開催しているのが、「ワンダフル滋賀フェア」です。(別表参照)産学連携の商品を草津店も積極的に販売しています。学生が店頭に立ち販売しながらお客様の反応、ご意見を頂き、それに我々がアドバイスをしています。それぞれの商品生産数は少なく、季節性がありますのでとても貴重です。福祉作業所「エクレレ(能登川市)」には、毎月1回、エクレアの販売をお願いしています。限定の500個はほぼ2時間で売り切れます。

 「団十郎(大津市)」は鯖寿司や和菓子を2か月に1度の販売をします。固定客が付いている人気商品です。

 毎年9月に草津市の琵琶湖畔で開催される「イナズマロックフェスティバル」は滋賀の一大イベントです。滋賀県の観光大使・西川貴教氏が中心となり3年ぶりに有観客で開催し有名アーティストが出演。3日目に台風がきて中止に。イナズマだけに天候には恵まれまれせんでした。(笑い)

 来年はこの会場への出店を目指します。全国から集まる10歳代~30歳代の若者に滋賀らしいものを食べて頂きたい。既にあるものを提供するのではなく、残暑の中で来場者受けする商品を開発したいと考え、協力してくれる近江路で繋がっている事業者に声をかけています。

「食育体験学習プロジェクトへの協力」

(林課長)
このプロジェクトは、草津市立渋川小学校の児童に郷土の伝統的な食材から創造的な料理まで、1次~3次産業までの流れを幅広く学んでもらう取組みです。

 日本茶発祥の地である滋賀県。これを小学生に知って頂きたく、滋賀県3大ブランドの朝宮茶(甲賀市)、土山茶(甲賀市)、政所茶(東近江市政所町)の歴史、栽培方法、美味しいお茶の入れ方などについて、実際に飲み比べながら講義をしました。

 また、全国ブランドのパン「ドンク」の職人を小学校に帯同し、実際に発酵した生地を児童に触ってもらうなど、パンの製造工程のレクチャーをして貰いました。そして、子供たちが発案したパンを実現可能かを協議し、草津市産の小松菜、愛彩菜(わさび菜)など素材は地元の野菜を使用してドンクで作ってもらい、それを子供たちが一日交代で店頭で販売する体験をして頂きました。コロナ禍で中断していますが再開が待ち遠しいプロジェクトです。

敬称略
取材日:令和4年11月18日(金)

店舗データ

近鉄百貨店草津店
  1. 店舗名  近鉄百貨店草津店
  2. 会社名   株式会社近鉄百貨店
  3. 店舗所在地   滋賀県草津市渋川1-1-50
  4. アクセス  JR琵琶湖線、草津線 草津駅東口直結
  5. 開店年月日 1997年9月5日
  6. 売場面積・フロア 23,000㎡  1階~5階
  7. 草津店売上高 102.06億円(2022年2月期)
    ※収益認識に関する会計基準を早期適用しなかった場合の金額
  8. 周辺地域の人口:草津市 約14万、大津市 約34万、栗東市 約7万

滋賀を楽しむ!ワンダフル滋賀フェアに出品された「近江路×MLGs」商品

  1. 「大商オリジナルウオーター」(大津商業高校×株式会社江洲比良の水)
  2. 「龍谷米」(大学オリジナル)
    「食の循環実習」として栽培、収穫、加工、流通までを学生が手がけた。
    農学部では大津市の上田上(かみたなかみ)地区にある農学部実習農場で6種類の米を栽培している
  3. 「コナンハニー」(龍谷大学×湖南市)
    産学官連携「養蜂プロジェクト」で作られたはちみつ。
  4. 限定酒「湖風」(滋賀県立大学×喜多酒造)
    学生が商品企画から販売促進まで手掛けたプロジェクト。教職員、地元農家、喜多酒造が協力。
  5. 近江銘菓のでっち羊羹をクッキーでサンドした「でっち羊羹サンド」(立命館大学×ブルーメの丘×日野町)
    若者に「丁稚ようかん」を親しんでもらうきっかけになるようなお土産を学生が開発。
  6. 「近江ひのてまり」立命館大学 協力:滋賀県、(公)びわこビジターズビューロー、(公)びわ湖高島観光協会
    旬の日野町伝統野菜を知ってもらおうと学生が開発。

マザーレイクゴールズ(Mother Lake Goals, MLGs)

 MLGsは、「琵琶湖」を切り口とした2030年の持続可能社会へ向けた目標(ゴール)
 MLGsは、琵琶湖版のSDGsとして、2030年の環境と経済・社会活動をつなぐ健全な 循環の構築に向け、琵琶湖を切り口として独自に13のゴールを設定している。

  • Goal 1 清らかさを感じる水に
  • Goal 2 豊かな魚介類を取り戻そう
  • Goal 3 多様な生き物を守ろう
  • Goal 4 水辺も湖底も美しく
  • Goal 5 恵み豊かな水源の森を守ろう
  • Goal 6 森川里湖海のつながりを健全に
  • Goal 7 びわ湖のためにも 温室効果ガスの排出を減らそう
  • Goal 8 気候変動や自然災害に強い暮らしに
  • Goal 9 生業・産業に地域の資源を活かそう
  • Goal 10 地元も流域も学びの場に
  • Goal 11 びわ湖を楽しみ 愛する人を増やそう
  • Goal 12 水とつながる祈りと暮らしを次世代に
  • Goal 13 つながりあって目標を達成しよう

世界農業遺産

 世界農業遺産(Globally Important Agricultural Heritage Systems:GIAHS/ジアス)は、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自性のある伝統的な農林水産業と、それに関わって育まれた文化、景観、農業生物多様性などが一体となった世界的に重要な農林水産業システムを国連食糧農業機関/FAOが認定する仕組み。

 2022年7月現在、22か国67地域が認定されており、そのうち13地域が日本国内で認定されている。