デパート新聞 第2668号 – 令和3年7月15日

5月全国は65.2%増

 日本百貨店協会は、令和3年5月の全国百貨店(調査対象73社、191店〈令和3年4月対比マイナス1店〉)の売上高概況を発表した。売上高総額は2465億円余で、前年同月比65.2%増(店舗数調整後/3か月連続プラス)だった。

百貨店データ

  • SC販売統計5月
  • 都市規模別・地域別 売上高伸長率
  • 神奈川各店令和3年5月商品別売上高
  • 令和2年度百貨店各社決算報告

地方百貨店の時代 その20 – 外商員の役割(1)

デパート新聞社 社主
田中 潤

外商員には瞬時に決断、実行できる総合的能力が求められる

 デパートの外商員は、売場とは別の場所にある事務所をホームとして顧客の家や事業所を訪問し、また、来店する顧客のためにデパートで待機する。或いは、他業者との取引の調整をするために様々な所に出張する。つまり、売場の社員とは全く異なる活動をするデパートマンである。

 デパートの全盛期は、この外商員の資質がデパートの売上を左右することも少なくなかった。外商員が作る売上は、顧客が普通に来店して購入する売上とは別に、個々人の能力によって上乗せされたものだからである。

 優秀な外商員は、デパートの信用という看板を背負いつつ、自らの営業力で商品を売る。つまり、顧客が求めるものは、売場にあるものもないものも、およそすべてのものを供給する便利屋的活動である。しかも、その価格も顧客の要望に耳を傾けて弾力的に調整する。一つ一つの取引は売上と仕入が同時に発生し、在庫を持たない経営的に大変効率的な取引であり、そうした面からも売場の基準での粗利率とは違った低い粗利益でも許されたのである。売場では絶対に値下げできないいわゆる正価品も、外商員を通せば値引き可能になるわけだ。そこには、バイヤーとしての資質が問われることになる。

 また、顧客との長い付き合いの中で、相手からどこで利益を上げる商いをするかを見極める力を持つことが重要となる。例えば、来年に大きな予算を持っている法人顧客であるならば、今日の小さな売上は顧客の要望に応じて赤字でも売ってしまうということも無いことではない。まさに、損して得取れが外商員のセンスと経験で実践されるのである。一つの取引に左右されず、顧客という取引先に対して長期間の視野でどれだけの儲けを得ることができるかという経営的視点が必要なのである。

 ところで、外商員の働く場は上述したとおり当然店外であるのに、店内にいることを当り前と思っている外商員もいる。仲の良い売場担当者の売場に入り浸り、談笑に時間を費やすだけでなく、顧客のためよりもそ の売場のために顧客に商品を押しつけるなどということも生じてしまう。外商顧客を使っての仲良しクラブの弊害が起きるのである。売場の売上は売場の社員が作る。外商員は常に外に顔を向け、孤独の中でビジネスをすることが絶対条件なのに、外商員の働く場所について経営者も無関心であった。結果的に、外商員は売場を使った見せかけの売上を作っていれば良しとされたわけである。

百貨店は全ての社員に先ず外商員教育を行うべき

 売場の仕事を覚えさせてから外商員をさせるというルート自体凡庸である。前述したように、外商員は営業と言っても経営者的思考、バイヤーとしての責任感、そして接客のプロとしての顧客とのコミュニケーション力といった総合的能力が必要である。コミュニケーション能力一つとっても、始めに顧客ありきの売場での販売を通じた経験だけではとても養えないものがある。逆に、優れた外商員であれば、売場は当然の如く容易にこなせるわけである。つまり、デパートはすべての社員にまず外商員教育を徹底的に行なわなければならなかったということに尽きる。これがある程度でも実行されていれば、外商ビジネスの安定のみならず、外商経験のある社員は売場でも総合的能力を発揮したことであろう。

 地方百貨店は今後、固定客をいかに多く創造していくかという課題と改めて向き合わなければならない。将来性のある若い顧客も含め、改めて対応力のある外商員の育成が待たれるのである。地域の特産品に脚光を与えるためにも、販売まで担うことのできる外商員のバイヤーとしての役割は重要である。そのためには、相手の懐に入って信用を勝ち取るエネルギーと、常に情報を収集する能力が必須となる。外商員は、業務中でもプライベートでも重要顧客と結びつくためのチャンスを常に窺い、行動を続けることが必要なのである。

 やや極端な言い方をすれば、外商員はデパートの社員でありながら顧客の執事、あるいは渉外係のような役割を果たしていくべきなのである。それは、社員としてデパートの組織を大事にすることとは別な次元の話であり、日々の仕事に追われ有機的に顧客と向き合う教育を受けていない売場の販売員とは違い、顧客を徹底的に大切にすることから商売が始まることを自然に認識しているプロの販売員の在り様である。

 顧客との結びつきが高いほど結果的にはデパートの利益に寄与する働きが出来るのであり、まさにそこにはデパート、顧客、お互いにそれぞれの立場での利益が生れる関係が成立するのである。

外商員への締め付けが進み、外商員本来の動きが制約されている

 外商員の活動がデパートにとってマイナスとなったのは、デパートが売上至上主義を掲げた面が大きい。即ち、毎月の予算を外商員に課し、目先の売上を追うような仕事の仕方をさせたことである。当然のように怠け者の外商員は売場を廻り、そこでの売上を自分の売上に付け替える。気の弱い顧客に、ごり押しで商品を買わせる。更には、顧客に無断で架空の売上を計上してしまうといった非常識な事態が生じるようになった。

 経営者は一層外商員の締め付けを進め、今まで外商顧客だけに供された特別なサービスが次々に縮小・廃止され、結果的に外商顧客の立場はどんどん劣化していった。外商員は、売場の担当者の承認を得なければ売上値引きができない、売場を通さなければ仕入が出来ないなど、本来外商員を置く上での基本となる制度も放棄し、活気のない管理体制が作られてしまった。外商員の仕事の幅を広げるための教育など見向きもせずに、誰でも出来る〝プロ″の外商員の育成を目指すのだから衰退は目に見えている。

 こうして、外商員の動く場は、狭められていった。

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 「平和な日常」という言葉を全身で実感させられる時代がやってくるとは、誰も思っていなかったことだろう。日々の生活がコロナ禍の前とは全く変様して、2度目の夏である。旅行、イベント、そして、一生に何度も味わえないであろうオリンピックの日本開催、どれも遠くから眺めているだけの毎日である。

 ワクチンの威力で、新型コロナウイルス感染の波が一気に消失することを祈りたい。我慢する期間が特別な時間ではなくなっていく人生が切ない。

 今はすべての人々の心と体の健康を祈るばかりである。

 

無駄の物語 part16 – 字を書くことの無駄

犬懸坂祇園
作詞、作曲などをしております

丁寧に書くことにより相手に自分の気持ちが伝わる

 文字は、自分の考えを具体的かつ客観的に残す人類最大の発明である。さらに文字を書くということは自分の心を育てていく、あるいは人間としての在り方を築いていくという無形の機能がある。データ文字がこれだけ溢れていても、心のこもった手紙は、受け取った相手に存分な付加価値を伝えることができる。前述した二つの機能が有機的に組み合わさり、特に後者は字そのものが、その人の人となりを相手に伝えてくれる役割を果たす。

 では、自分の心を育てる文字とは何かといえば、丁寧に書くということに尽きる。「丁寧に書く」ということは集中して全力を振り絞るということである。この時、「雑」は最も忌むべき概念となる。

 自分の思いを伝えることや情報を与えることという文字の効用とは視点を変え、心を込めて字を書くことを考えると、それは利益を求める行為ではなく、相手に対して自らの思いを捧げる儀式に過ぎないことは明らかである。だからこそ、読んだ相手は、その文面から書いた人の思いやりを感じ取るのである。無駄なことだからこそ謙虚に字を書く

 字を書くということを、自分の考えていることを相手に伝える以外には意味のないことと考える人は少なくないだろう。電子メールで送った方が余程きれいで読みやすく、相手にダイレクトに伝わる、と考える人も いるだろう。この合理的思考を打破し、無駄なことだからこそ字を書くということを謙虚に行っていきたい。
昔も今も合理的では人間関係は拡がらない

 『徒然草』にこんな件がある。「手のわろき人の、はばからず文書き散らすはよし。見苦しとて人に書かするはうるさし。」これは、字が下手でも手紙はどんどん書くことが良いことである。字が下手だといって他人に代筆させては良くないという意である。当時は皆達筆ぞろいだったので、上手・下手の感覚は今とはおよそ異なるので置いておくとしても、手紙は自分で書かねばならないと言い切っているところに、今回のテーマにつながるコミュニケーションの真理が見える。「人に書かする」とは、まさに電子メールを指しているようだ。

 合理的にやっていては、人間関係は拡がらないということは、今も昔も同じようである。

連載:デパートのルネッサンはどこに有る? – 東京に4 度目の緊急事態宣言発出 五輪「無観客」に

85%の期間が緊急事態宣言とまん延防止等重点措置

 前号本欄で『緊急事態宣言再延長 翻弄される百貨店』で、デパートの半年間にわたる苦境を伝えたが、半月と立たないうちに新たな緊急事態宣言が発出されてしまった。

 正直4度目の緊急事態宣言を、オリンピック開幕直前のこのタイミングで発出するとは思わなかった。コロナ対応を「後手後手」と批判され続けた菅首相が、「先手先手」と言いたいがため、と、つい深読みしたくなる様な「即決」パフォーマンスだ。

 デパートの再生と復活をテーマにしている本稿だが、コロナ禍一色のこの1年を、緊急事態宣言を含めた、「行政の対応」を抜きに語るのは、前号同様もはや不可能だ。

 特に今年に入ってから3度目となる今回の緊急事態宣言については、宣言の連発と、延長に次ぐ延長という対応もあり、益々その「効果」が疑問視されている。それは非日常がまったく日常化してしまったからだ。

 本紙前号( 7 月1 日号) の本欄で、1月から6月までで、緊急事態宣言の期間は、半年間の71・8%になると述べた。これはまん延防止等重点措置の期間を勘定に入れないで、である。今回の8月22日までの再発出を受けて、再び計算してみよう。
※今回は厳しく「まん防」の期間も含めて。1月から8月の8ヶ月は243日、宣言も重点措置も出ていない日は37日、差し引き206日間が、我々が「生活を制限されていた」期間だ。シェアにして何と84.8%。

 8割以上の期間を、酒類を提供するな、土日は営業するな、閉店時間を早めろ、と様々に営業を規制され、挙句の果てに「贅沢品は敵だ」という戦時下の様なレッテル貼りで、スケープゴートになって来たデパート達。

 もちろん、お役人の査察や告発を受けた飲食店も、同様に苦汁を飲まされ続けてきた。皆、「禁酒法」や「贅沢狩り」の中で、何とか商売を続けている。

 苦々しい現状ではあるが、本紙も業界紙のハシクレとして、このニュースを粛々と伝えて行きたい。真の意味でのデパートのルネッサンスは、脱コロナからリスタートすると信じて。

続きは デパートのルネッサンスはどこにある? 2021年07月15日号 を御覧ください。

特別寄稿 NY視察2019から見る、百貨店のさらに恐ろしい未来

第5章の3 – ニューヨーク郊外ショッピングモールの衝撃その3

株式会社クリック&モルタル
代表取締役 大和 正洋

 前回に引き続きニューヨーク郊外のショッピングモールを視察しました。

ポストモール – コネチカット州ミルフォード

 コネチカット州最大のショッピングモール、ポストモールにきました。シアーズとターゲットがキーテナントであり、ボスコフスも出店していました。

 この「ポストモール」では、まさに、10年後の日本の厳しい未来が見えました。トイザらスもキーテナントの一つとなっていましたが、すでに閉店しており、後継テナントが見つかっておらず残念な感じです。その 影響もあり、全体的に車の数は少なく、定休日かと思わせる雰囲気でした。

続きは 特別寄稿 NY視察2019から見る、百貨店のさらに恐ろしい未来 第5章の3を御覧ください。

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