デパート新聞 第2661号 – 令和3年4月1日

2月東京は13.5%減

 日本百貨店協会は、令和3年2月東京地区百貨店(調査対象12社、25店)の売上高概況を発表した。売上高総額は878億円余で、前年同月比マイナス13.5%(店舗数調整後/17か月連続マイナス)だった。店頭・非店頭の増減は、店頭マイナス15.2%(86.7%)、非店頭マイナス0.8%(13.3%)となった。
※( )内は店頭・非店頭の構成比

百貨店データ

  • 3社商況2月
  • 2月店別売上前年比(%)
  • 都内各店令和3年2月商品別売上高
  • 関東各店令和3年2月商品別売上高
  • 2021年2月インバウンド売上、購買客数は13か月連続のマイナス

人事異動

  • ㈱三越伊勢丹ホールディングス
  • ㈱三越伊勢丹

ミニコラム – 大手百貨店はEC売上を拡大中

 本号4面記事でも触れているが、今、百貨店の主力商品であるファッションが売れない。大手百貨店でも、リアル店舗での衣料品比率を見直している。いや、アパレルシェアを見直さざるを得ない、というのが本当だ。

 一方で各社とも、リアルがダメならECで、という動きも加速させている。もちろん、コロナ禍を追い風としていることは、明白だ。

 大手百貨店のEC事業拡大は急進し、2020年度のEC売上高は三越伊勢丹が前年比60%増の310億円、髙島屋が同じく270億円の当初予想を上回る伸びを見込んでいる。両社とも早期にこれを500億円体制に乗せ、実店舗のマイナスをリカバリーしたい考えだ。

 コロナ禍により、中元歳暮などのギフト需要だけでなく、衣食住にまつわるデイリーアイテムすべてのジャンルで、「自家需要」が伸びているのだ。大手百貨店は自社サイトを刷新し、掲載商品の拡大、利便性の向上に努め、真の意味での「情報発信」を事業の柱に据えた。

店頭とECをシームレスに

 三越伊勢丹は2020年6月に、新たなオンラインサイトとアプリを同時に立ち上げた。オンラインと店頭をシームレス化し、リアルと同様の買い物体験を提供する、としている。顧客の購買行動に合わせたプラットフォームを作り、店頭とECを自由に行き来して貰うのが狙いだ。

 同社は、ECでの掲載商品を、20年度中に10万から15万に増やし、衣料品、雑貨、食品など、百貨店で扱うほぼすべての商品を網羅。ポータルサイトとしての機能を強めている。

 一方で「今後は型数の拡大だけではなく、質と効率も追求する」とし、拡大一辺倒から戦略を転換した。一つ目は食品(ISETAN DOOR)や化粧品など、定期的購入や、まとめ買い要素の強い商品である。もう一つは衣料品など単発で奥行きがない商品であり、この2つのジャンルは、別々に区分けして掲載、登録する。

 売れ方が異なる二つの領域の「ささげ」(採寸、撮影、原稿作成の略称)コストがほとんど変わらないため、衣料品は絞り込んで効率を重視するのだ。

スマホで利便性追求

 髙島屋は、中元歳暮ギフト、パーソナルギフト、デイリーアイテムを3本の柱とした上で、「特選ブランド」の新規導入に特化する。
 21年度にECサイトを全面リニューアルした同社の村上社長は「スマートフォン・ファーストで利便性を高める」としている。サイト内の記事(コンテンツ)を充実し、メディアコマースを通じて、商品の基本情報だけ ではなく、特定の商品やサービスの拡充に注力する、という。

巻き返しを期す大丸松坂屋

大丸松坂屋は20年度のEC 売上高が70% 増の100億円となる見通しだ。リアル店舗参加型で、地方の各支店の特産品を特集する「地産市場」の、ECでの掲載をスタートした。

課題と意義

 顧客ニーズの多様化に対応するには、店頭、ECなどの商品・顧客データの一元化が大前提だ。遅れていた情報の一元化についても、取引先や外部システムとの連携を含め、各社再構築を急いでいる。

 対面接触のないECやSNSでの顧客とのコミュニケーションは商品の「高付加価値アピール」だけでなく、そうした商品を扱う背景や、ストーリーをバイヤーや実際に販売する現場のマネジャーが発信する「コンテンツ」の拡充が欠かせない。

 リアルがECになっても、百貨店の特性である「きめ細やかな接客」は不変であり、不可欠である。アマゾンの様な、といっては失礼だが、ある意味「つっけんどん」な接客手法が、「有名デパート」のECでは許されないのだ。逆にそうでなければ、百貨店のECに存在価値はない。誰でもなく、「顧客」がそう思っていることを、忘れてはならない。

ISETAN DOOR

三越伊勢丹アプリ

地方百貨店の時代 その13 – 仕入をする力

デパート新聞社 社主
田中 潤

 デパートで商品の仕入を担当する社員のことをバイヤーと呼ぶ。バイヤーの力量で品揃えが変わり、売上が伸びるということは当り前の話だが、バイヤーの能力は別の部分からも問われる。それは、財務的能力である。

 当り前の話だが、顧客が欲しがる商品、誰もが魅力あると思う商品を仕入すれば、売上は上がる。しかし、最終的に利益を上げるためには、次の点を確実に押さえなければならない。

 まず、在庫管理である。仕入をした商品は出来る限り、しかも、少しでも早く販売しなければならない。仕入をした資金が凍結されてしまうからである。ある商品群がどんなに沢山売れても、最終的に売れ残った商品を廃棄するようなことになれば、損失は一気に膨れ上がる。例えば、仕入原価70円の商品を10個仕入して1個100円で売り(粗利益30円)、7個売れても残りの3個が売れ残り廃棄すれば利益は0になるという見当である。結局、販売するために掛かった諸経費や使われた資金の金利を考えれば大赤字である(別表参照)。

 また、仕入の条件も重要であり、粗利益40%の商品は20%の商品と比較すれば1/2の売上機会で同額の利益を生むので、数量を仕入しなくても利益が獲得できることになる。利益だけでなく仕入金額も抑えることができるので、売場を構成するための資金も少なくて済むことになる。売場の商品を如何に粗利益率の高い商品で固めていけるかということが大きなポイントとなるわけだ。こうしたことを考えなくてもよいようにと、消化仕入という方法が広く利用されるようになった。

 売れ残れば返せる、そもそも仕入の資金も不要という表面的にはリスクが極端に少ない方法なのだが、結果的にバイヤーの売場商品に対する自己責任の気持ちは大きく減退する。「ああ、あの商品が全然売れない。どうしよう」と胃を病み、夜も寝れなくなるようなことはなくなる。結果、経営的には資金負担のリスクは回避できても、売上を作るための積極的な行為はなくなってしまうのである。

 さて、地方百貨店は改めて、バイヤーの力を活かした店づくりを考えていくことが必要である。

 そもそも、地方百貨店では特定の顧客と向き合う機会が多いため、地域の特性に応じた仕入を考えることは当然の課題であり、メーカーに任せた仕入自体リスクが高いのである。不特定多数の顧客をターゲットにする首都圏の百貨店の仕入方法はなじまないのである。

 「本降りになって出て行く雨宿り」江戸時代の川柳である。
雨が降り出し、傘がないので雨宿りをしていたら、雨足は衰えるどころかむしろ激しくなってきた。これ以上は待てないと、雨中にやむなく出て行く景である。

 今回の緊急事態宣言解除は説明するまでもなく、この川柳の如しである。変異種という新たな脅威が日に日に大きくなっていく中で、どのような事態が生じるのか予想するだに恐ろしい。

 緊急事態宣言下でも、どうせ人が出ていたのだからという諦めムードで解除が強行された感もあるが、政府はもう少し感染リスクを真剣に打ち出すべきではないだろうか。マスクを取り外す時期を記者に尋ねるような人間が仕切っているようでは、希望は到底持てないけれども…。

無駄の物語 part9

犬懸坂祇園
作詞、作曲などをしております

  豊島岡女子学園では毎朝5分間、運針を授業として実施している。運針とは、真っ直ぐに綺麗な針目で縫っていく手縫いの基本動作である。上達するほどにスピードも増し、針目、長さ、姿勢など総合的な完成度を増していく。1mの布に針を運び縫い終われば、糸は引き抜かれ、また始めから同じことを繰り返すという際限なき活動である。元々、家庭科での必修の所作として取り入れたようだが、本当の目的は禅の修行のような精神集中であったことは間違いない。

 筆者がなにより感動したのは、出来上がった瞬間にそれまでやってきた作業を元の木阿弥にする潔さである。しかし、よく考えてみると、「出来上がり」という目的意識はなく、作業しているその時々にいかに全力で取組むかが目的なので、出来上がりは通過点に過ぎないのであろう。

 資本主義の基本である利益を生む或いは利益を生かし生産物を作るという合理的思想とは対極にある、無駄なことを全力で行うという非合理思想である。つまり、具体的な作業からは何の生産物も発生しない益なきことであるが、それを行った一人一人の学生の心の中に一期一会の集中が宿る。無駄なことを一生懸命することの意義を知ることは、それぞれの人生において豊かな出会いと絆を生むことになるだろう。

 同校の取組みこそ、今の日本人に欠けている非合理性の徳の体現と言えるだろう。ところで、同校の大学進学先を見ると、その成果があまりにも早く出ているのは明らかだ。運針が具体的成果を合理的に実現してしまっていることには少しだけ懸念もあるのだが…。

連載:デパートのルネッサンはどこに有る? – コロナ禍で加速する百貨店ファッションの空洞化

 百貨店の苦境は、コロナ禍が追い打ちとなり、今現在も加速している。百貨店は今後、その生き残りをかけて、事業モデルの変革に取り組んでいかねばならない。大手百貨店3強の一角を占める三越伊勢丹はトップの交代を発表したばかりだ。これを大きな変革の一端と見るのは、深読みであろうか。

 2021年に入っても、新型コロナウイルスの感染拡大が、苦境続きの百貨店の経営を、大きく揺るがしている。緊急事態宣言による、外出自粛やリモート勤務の普及により、主力の衣料品販売は極端な不振に陥り、これまで共に成長を享受してきた大手アパレルメーカーも、百貨店からの撤退を余儀なくされている。特に地方百貨店は、ファッションテナントの大量閉店により、深刻な事態に直面している。

続きは デパートのルネッサンスはどこにある? 2021年04月01日号 を御覧ください。

特別寄稿 NY視察2019から見る、百貨店のさらに恐ろしい未来

第4章 – ニューヨーク市内の話題店(その2)

株式会社クリック&モルタル
代表取締役 大和 正洋

アメリカで元気で、日本にはまだ来ていないお店を見てきました。今回は、ニューヨーク市内を中心に紹介します。

 なお、コロナの影響は甚大で、2019年訪問時にリサーチした環境は大きく変わり、現在は店舗が無くなっているいるケースもあることをご理解いただければ幸いです。

前回に引き続き、ニューヨーク市内の旗艦店を中心に紹介します。

EXPRESS – ギャップが展開するカジュアルアパレル

 ギャップが展開するカジュアルのレディースファッションブランド「エクスプレス」ニューヨーク市内にかなりの店舗数を展開しておりました。実際に店内を見てみると商品的な差別化があまりされておらず、売り上げは厳しいと思われます。まだまだ日本に来るには難しいブランドではないかと感じました。

続きは 特別寄稿 NY視察2019から見る、百貨店のさらに恐ろしい未来 第4章 を御覧ください。

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