渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第20回 富山編その2)

 大和富山店の「全国うまいものフェスタ」を一回りしてみる。店によって行列の長短にばらつきはあるものの、全体で見れば大盛況と言えるだろう。

 私の訪ねた時間に最も人だかりを作っていたのは、東京からやって来た「キモズハワイ」だった。皆のお目当てはマラサダドーナツらしい。今回が初出店だそうで、チラシでも大きく扱われている。

 ——こういう条件がそろえば、山形でも人が群がるだろうな。
 そんなことを考えながら、買い物客たちのざわつきを縫って歩いた。

 さかのぼって2019年ごろ、私の地元で唯一残っていた山形市七日町の大沼デパートは、地下の食料品売り場を除けばほとんどお客の姿が見えなかった。結果的に明くる年に破綻するわけだが、それでも「全国うまいものフェスタ」や「北海道物産展」となれば、まるで床から人が生えてきたかのように催事場が埋まっていたものだ。

 大沼デパートが閉店して以来、食の催事特有の活気に触れるのは久々だった。ふと購買意欲をあおられて高揚している自分に気が付く。こうさせる雰囲気は、どのような仕組みで生まれているのだろう。首をかしげていると、ちょうど一周して出口だった。

 同じフロアにレストラン街がある。そちらへ歩いてみてやや驚いた。岐阜タカシマヤで見たのは、誰もがイメージするような「地方デパートのレストラン街」といった、郷愁を感じさせてくれるものだった。しかし大和富山店のそれは、余白と照明とを見事に組み合わせた、洗練された空間だ。特にブッフェ形式で食事を提供する店はいかにも都会的で、実際に、会社の昼休みであろうスーツ姿の若者たちが連れ立って中へ吸い込まれていくのを、何組か目にした。

 それから、エスカレーターで1階ずつ下りながら売り場を観察した。催事場へ上ってくる時も感じたことだが、これまで見てきたデパートに比べて、2階以上の売り場に滞在しているお客が多い。

 普段からこうなのだろうか。もしくは集客力のあるイベント開催中であるがゆえの、いわゆる「シャワー効果」なのだろうか。仮にそうだとしても興味深いのは、店員と何かしらコミュニケーションを取っているお客の割合が多い点だ。商品についての相談なのか、顔見知り同士の雑談なのかまではわからない。ただ、とても現代的に磨き上げられた売り場の中で、対面販売を常としてきたデパートの伝統的なやり取りが徹底されている。そんな印象を抱いた。

 紳士服売り場を歩いていると、ちょうど接客を終えた男性店員と目が合った。私よりも10 歳は年上だろうか。笑顔の一礼を受けて、これはチャンスだと近寄ってみる。
「にぎわってますね」と話を振ると、「普段はなかなか」とやはり催事による活気なのだと教えてくれた。

 男性は富山県第2の都市、高岡市の出身だという。以前は高岡にも大和があり、幼いころから親しんでいたそうだ。小学生の時は親に連れられて行くことがほとんどで、その際には必ずよそ行きの服に着替えさせられたらしい。楽しみはご褒美として遊ばせてもらうゲームコーナーだった。

 中学に上がって友達同士で出掛けるようになると、学校から体操着のまま突入したという。

「デパートの他にも、お好み焼き屋だとかプラモデル屋だとか、商店街には友達と集まれる場所がたくさんあったんですよ」

 彼は懐かしむようにほほ笑みながら「あの時は」と付け加えた。 

  2002年に開業した高岡のイオンモールは、2019年のリニューアルで「北陸最大級」と呼ばれる規模になったという。それまでとそれから、商業の情勢がどのように変化したかは、頭に浮かんだその通りだ。

 店先でシャツを手に取るお客が見えたので、仕事のじゃまをしてはまずいと思い、礼を言ってエスカレーターへ向かった。

 いろんな場所を訪ねるたびに、商店街のうつろいを聞くと寂しい気持ちになる。ただ今回は少しだけ違っていた。路面電車を降りて初めに話し掛けた婦人の件が頭にあったので、先ほどの男性がまともに受け答えしてくれたそれだけでどこかうれしくなっていたのだ。 

——出だしこそつまずいたけど、ここから盛り返せるだろう。

 だが間違っていた。
 先に打ち明けておこう。今回の取材で私がまともに話を聞けたのは、この時が最後になる。
(続く)