地方デパート 逆襲(カウンターアタック)プロジェクトその30 成瀬は天下を取りに行く

 最近、若い人たちの間では、昭和レトロの品々への人気が高まっているようです。アナログのレコード、ランプのようなカレーの器、ダイヤル式電話機、アドバルーン…。どこにでも当り前にあった一時代を彩った品々が現代では希少価値となり、新たな注目を集めているのです。

 もちろん、古いものなら何でも良いというわけではありませんが、50年近く前の高度成長期に生み出されたコンテンツには、普遍的な文化としての素養があるのではないでしょうか。全くそれらを知らなかった若い世代が初めてそうした品々に出会い、現代の価値観で魅力を感じていることは大変興味深いことです。

 ところで、今年の本屋大賞が発表になり、宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」が受賞しました。本屋大賞は、全国の目利きの書店員が選ぶ賞で、読者サイドから見て一番素敵な作品を選ぶという立ち位置であり、文字通り今、日本で最も勢いのある本ということができます。

 大津市にある西武百貨店の閉店にまつわる人間物語であり、デパートが極めて重要な存在感を示しているところに注目せざるを得ません。中学生や高校生がデパートの閉店に対して強い感慨を持ち、行動する。それを取り巻く30~40代の大人も特別の思いをもってデパートと自身の在り方を問うていく…。その営みは、誰もが地域におけるデパートの役割の重要性を認識しているからに他なりません。そうした借景の中で、主人公成瀬が同世代の若者が一様に身につけさせられた行動規範とはかけ離れた生き方をしている姿が、若い読者に強烈な共感を呼んでいるのではないでしょうか。

 成瀬は、人の目を気にしません。自分の思ったことをストレートに行ないます。スマフォを持たず、人とのコミュニケーションでは直接の触れ合いを心掛け、物怖じせずに誰に対しても実に自然体で向き合っていきます。日常生活で生身の関係を持つことを恐れ、インターネット上のコミュニケーションでも常に相手の思わくに神経をすり減らしている若い人たちに一つの理想の生き方というメッセージを与えているのではないでしょうか。

 物語の舞台がデパートであるということに大変興味深いものがあります。作者の宮島さんは、昭和の頃のコミュニケーションの豊かさをデパートのそれと合わせて、現代に甦らせたいと思われているのではないでしょうか。そして、多くの若者が同書に感銘を受けているという事実は、周りに振り回されない非合理的な人間関係に渇望感を覚えているからではないでしょうか。古き良き普遍性のある文化が世代を超えて支持されているということ、そしてその中心にデパートがあるということが証明されたとも言えるのではないでしょうか。

 CAプロジェクトの推進を勇気づけられる素敵な出来事です。