英雄たちの経営力 第12回 大隈重信 その3
鉄道敷設
大隈の事績のうちでも、近年とくに注目が集まっているのが東京・横浜間の鉄道敷設だ。
近代化を図る上で、物流の重要性は計り知れない。すなわち日本は四方を海に囲まれているため、海運や河川舟運が物流を支えてきた。だがそれにも限界がある。川のない場所に物を運ぶためにも、鉄道は必須だった。
また封建制が終わったことを国民に周知させるためにも、さらに廃藩置県への道筋として、もはや藩境がないことを知らしめるという意味で、鉄道は効果的だと思われた。
大隈らは東京を起点とし、東海道沿いに京阪を経て神戸に至る幹線と、京都から敦賀に至る支線の敷設を第一期計画とした。大久保はコストに不満で反対したが、岩倉と木戸の支持を取り付けることによって明治二年十一月、鉄道の敷設は閣議決定された。
問題は資金だったが、これはイギリスとの借款契約によって賄うことになる。当初は契約書の不備からイギリス人実業家に騙されかけたが、パークスの紹介でオリエンタルバンクが支援に入り、事なきを得た。かくして外債公募から約二年を経た明治五年( 一八七一) 九月、東京・横浜間の鉄道開業式が行われた。
鉄道の敷設が日本にもたらしたものは大きかった。今でも「文明開化」と言えば鉄道や機関車が連想されるように、鉄道が新時代到来の象徴となり、国民全体の意識改革につながっていった。
大隈は単にビジョンを提示するだけでなく、実現に至るまでのロードマップが描けるところに強みがあった。そこには「いくら借りて、いくら儲けて、いつまでに返す」といった資金計画まで綿密に練られており、こうした実務の才能が能書きばかりの志士が作った維新政府にとって、いかに重要だったかを痛感させられる。
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作 伊東 潤
『黒南風の海 – 加藤清正』や、鎌倉時代初期を描いた『夜叉の都』、サスペンス小説『横浜1963』など幅広いジャンルで活躍
北条五代, 覇王の神殿, 琉球警察, 威風堂々 幕末佐賀風雲録 など。