地方デパート 逆襲(カウンターアタック) プロジェクト その26 自分を買ってもらうこと

販売シーンでの顧客の心理

 CAプロジェクトの理念の一つが、「自分を買ってもらう」ことです。今回は、これについて細かく分析していきたいと思います。

 デパートは小売業であり、商品を販売し経営を成立させる事業です。では、モノではなく、人を買ってもらうとはどういうことでしょう。

 商品を買っていただく際、まず販売員はお客様と向き合います。ECは派生的なものであり、デパートの基本は対面販売です。その際、顧客は、自分に対する販売員の接し方を細かく観察することになります。どのくらい自分を大切にしてくれるのかという観点です。それは、これから買うことになる商品が自分にとって適切でお金を支払う価値があるかどうかの判断を販売員に委ねることになるからです。初めから買いたいものが決っていて、そうした段階が不要な人も少なくないかもしれませんが、デパートでの購入というのは、そもそもがいわゆる買い回り品であり、今すぐ買わなければならないということは少ないという前提での話として考えてください。

 つまり、モノを買う前に、まず販売員の資質を見極める時間が常に存在するのです。そして、その販売員のことを信じ始めるという過程を経て、モノに対しても真剣に向き合い購入に至るわけです。

販売員を買うプロセス

 ただし、この段階は本編でいう「販売員を買った」とはまだ少し異なります。いや、これがスタートなのです。その販売員から商品を購入した顧客は、次の買い物の時、その販売員からまた購入するタイミングを持つかもしれません。しかし、販売員はそれを待つのではなく、自分の方から顧客に御礼の手紙や次の催事のご案内などの連絡を控え目にかつ粘り強く行い、顧客とのつながりを積極的に作っていく必要があります。

 そうしたアプローチによって、販売員と顧客とは少しずつ親密になります。購入の是非に関わらずコミュニケーションの時間が増え、顧客の悩みや心配事なども話してもらえる関係になっていきます。その段階になると、顧客は販売員と一緒にいる時間を欲し始めます。つまり、販売員と一緒にいる時間を買いたいと思うようになります。販売員と会うため、話すために自身の経済的利益を費やすことに抵抗もなくなります。そうして、販売員と会うことがモノを買うことと一致していくのです。

コミュニケーション事業の神髄

 この時、まさに顧客が販売員を買ってくれたことになります。そうなれば、心地よい時間を買うために、顧客は販売員のために商品を積極的に購入してくれます。それは、販売員とのコミュニケーションを楽しむための一つの手段であり、自然に薦められたモノにも納得して購入してもらえる流れが出来上がっているというわけです。これこそ、デパートがコミュニケーション事業であることを明確に示す象徴的な仕組みです。

 当然ながら、顧客は販売員から購入したモノに大いに満足し、販売員への感謝は時間の経過とともに大きくなっていかなければなりません。顧客が販売員を買うということは、コミュニケーション事業へと移行していくデパートの最も象徴的な場面と言えるでしょう。