地方デパート 逆襲(カウンターアタック) プロジェクト その23 テナントを入れるリスクと売り場の再編

 地方デパートとテナント誘致の関係については以前も論述しましたが、今回もう少し掘り下げてみます。

 地方デパートがテナントを誘致する際、2つのリスクがあります。1つは、テナントに自社の専門販売員をつけてもらう場合、テナントに支払ってもらう手数料、つまりデパートの利益率の問題です。例えば、売上に対して20%くらいもらえればまずまず、10%くらいのことも無いとは言えません。

 もう一つは、商品だけ預り、デパートの社員を販売員としてつけるという形です。この場合は、25%~30%の利益率を得ることも多いのですが、テナントにつけた社員の給与がそのままデパートの負担になるわけです。現在は、後者の形が非常に多くなっています。テナンドがわざわざ自らの社員を派遣または現地採用してまで、そこのデパートに投入する意欲はないからです。

売上1,000
原価700
粗利益300
社員の給与350
50
労働分配率は、100%超える
デパートがテナントに社員をつけた場合のデパートのそのテナントに関する収支の具体例

 この場合、そもそもデパートの販売員にはそのテナントの商品に専門知識が無いので、売上をあまり期待できないだけでなく、デパートが人手不足の場合には他のテナントとの掛け持ちになってそのテナントの商品に集中できなくなります。テナントも人件費はデパートに任せているので、何も言えません。そして、いざ1年間やってみてデータを見ると、売上から原価を差し引いた粗利益額はその社員の人件費よりも少ないということがしばしばあります。つまり、人件費さえも賄えない大赤字ということです(図表参照)。もちろん、その社員が他の仕事もしていたならば一概には言えませんが、少なくともそのテナントが利益を生んでデパートに貢献している状況とは言えないでしょう。

 一方、テナントも利益は取れると言っても在庫をデパートに委託し、資金の回収が出来ないなど、あまり良い状況とは言えません。こういう状況が続けばデパートもテナントも、将来的な継続についてはかなりネガティブになります。つまり、テナントを入れるということは、本当に慎重にしないとお互いのためにはならないということです。こうしたことに陥るのは、デパートにテナントから商品を買い取って在庫として持つ覚悟がないことが要因ですが、既にそれができる環境に地方デパートはありません。

 そこで、決断すべきことはテナントの統廃合です。いくつかのテナントを1人の社員が見ることが出来る形に、売場を作り直すことです。そして、そこで上手く機能できないテナントには、残念ですが退店してもらうということです。もちろん、自社で人をつけているテナントについては現状維持で良いのですが、もし、テナントに人をつけてもらわなくても済む形にできるならば、デパートとしてはテナント負担の人を外す代りに利益率を高くしてもらうことを提案するのも一法です。商品の利益率を高くし、自前の社員を教育して、複数のテナントの商品に関する専門知識を身につけてもらい、少数の社員がなるべく多くの商品の接客が出来るようにするということがこの方針の要諦です。その中で、合理的に余剰人員を見つけ出し、デパート全体の人員不足を解消させていくのです。