地方デパート 逆襲(カウンターアタック) プロジェクト その15 地方デパートは人を買ってもらう

顧客のことを考える

 地方百貨店の社員が顧客の立場に立って考える存在であるギバー(与える人)になるための最大のポイントは、社員一人一人の心構えです。つまり、デパートの商品を抜本的に変えるとか店を大規模に綺麗にしていくとか、具体的なことは末梢の問題です。まず、一人一人が顧客に対しても、社内においても相手のことを考えることを優先させるような理念をデパート内で徹底させることに尽きます。一言で言います。その人自身が商品になること、つまり、自分を買ってもらえる存在になることです。

 私たちが子供時代に慣れ親しんだ遊びに「花いちもんめ」というものがあります。手をつないで集団でコミュニケーションをとり、相手陣営に対して「あの子が欲しい」というやりとりをしました。自分が欲しいと相手から求められるのは、本来敵対関係にある相手の側に行くわけですが嬉しいものでした。まさにこのイメージであり、誰からも欲しがられるような社員になるのです。

 さて、人を売るわけですから、誰も来ないデパートの中で一日中顧客の来店を待っていてもしようがありません。自らが外に出て顧客の元に通っていき、コミュニケーションをとる。—そうしたシステムを作ることが不可欠です。これが、私の提唱する暮らしのサポーターなのです。

 顧客とコミュニケーションをとるためには、まず相手のために出来ること、サービスをしなければなりません。ギバーとしての役割を示すわけです。もちろん、商品を無償で差し上げるわけにはいきませんが、顧客の家を訪ねて無駄話をし、その中でちょっとした生活のアドバイスをしてあげる。或いは、電子機器などの使い方を教えてあげる。家の中の掃除も手伝ってあげる…様々な触れ合いの中で信頼関係を徐々に築いていけるはずです。そして、その延長線上に自らが買われ、それにつれてモノも買われる流れが整っていくのです。

デパートの公益性を伝える

 地域において信頼されているデパートという組織だからこそ、こうした関係を築くことが可能になります。もちろん、デパートとしてこうした取組みを積極的に行っていることを地域に発信していくことは重要です。その際、リニューアルオープンといった形で、「地域のために新しいサービスを始めます」といった広告も大切ですが、行政や自治会なども巻き込んで、デパートの信頼性・知名度を活かした広報活動を続けていくことがより重要です。

 デパートの立ち位置は、デパートが不特定多数の人々の幸せのために活動している公益組織であるということを胸を張って唱えることで鮮明になります。営利法人が公益サービスをしてはおかしい、などというのはもう過去の話です。自分たちの事業は、地域のためのサービスを行うことを最優先に実践していくことである、という覚悟を示すのです。

 「大都会のデパートはモノを売る。地方デパートは人を売る。」―これこそが、地方デパートの将来の形になっていくはずです。そして、それは顧客とデパートが相扶ける関係になることを意味しているのです。