地方デパート 逆襲(カウンターアタック) プロジェクト その13 顧客とのふれあい 2

 今回も、私がデパートに勤務していた頃の若手社員の体験談です。件の若手社員は入社1年、まだ新入社員といってもいい頃の話です。

 彼は、食料品売場に配属され、売場での販売や品出しの業務をしていたのですが、ある時売場の通路でタバコを吸っている男性を見かけました。風体は、明らかに堅気ではありません。当然店内は禁煙であり、放置すれば煙を感知し、非常ベルが鳴る状況です。

 しかし、誰も近寄れません。その時、売場の年配女性から「〇〇君、注意してきてよ」と彼に要請がきました。高校球児で鳴らした、彼の威勢のよさが買われたのでしょうか。彼は意を決して、男性のところに行って、「タバコを消してください」とお願いしました。

 すると、男性は「灰皿がないよ。両手を出して、灰皿にしろ。」と彼に命じました。一瞬の躊躇いの後、彼は男の前に両手を出して、その手の平を丸めました。驚いた男は慌てて床にタバコを落として、靴で消して、彼に吸い殻を渡して立ち去っていきました。その時には、多くの売場の社員・顧客が二人のやりとりを見ていました。

 事態を収めた彼に対して、その勇気とやや滑稽なやりとりについて、デパートの売場のあちこちでしばらく話題になったそうです。いや、そればかりか彼の行動はその後も売場の女性たちから女性たちへと語られ続け、彼は仕事をするにおいてもとてもやりやすくなったとのことでした。この彼は数年後退職し、20代で塗装会社を起業し、30数年経った現在まで社長として新たなステージで活躍しています。

 デパートというのは、人が集まる交差点です。そこで、繰り広げられる日々の営みの中でデパートマンは自信を磨き、顧客からも職場の仲間からも信頼されるプロの販売員になっていくのです。