英雄たちの経営力 第8回 蘇我馬子 その1
国家とは何か
こんな疑問を持つ人は極めて少ないだろう。国家とはあって当然のもので、その存在意義などを考えたこところで埒が明かないからだ。しかし考えてみてほしい。あなたが農耕民だと仮定したら、自分と家族、そして土地を守ってくれる存在は国家でなくてもよいのではないか。
それゆえ古代日本では、農耕という集団作業を行っていく上で、まず部族や村落という小さな共同体が生まれ、その中から皆を飢えさせないよう適切な判断が下せる長が選ばれた。長は共同体を外敵から守ると同時に、自らの財や特権を子孫に受け継がせるために武力を持つようになり、それが豪族へと発展していく。
結局、古墳時代( 三世紀後半〜七世紀中盤) に入ると、大和地方には地域ごとに豪族が盤踞(ばんきょ)し、勢力争いを繰り広げることになる。飛鳥地方だけでも、大王家、和珥(わに)氏、平郡(へぐり)氏、葛城(かずらき)氏、大伴(おおとも)氏、巨勢(こせ)氏、物部氏( 河内国渋川郡が本拠か)、そして葛城氏から枝分かれした蘇我氏などが、それぞれの勢力圏を保持していた。そうした意味では、大王家も当初は豪族たちとさして変わらない位置にあった。
ちなみに天皇という呼称は天武帝以降なので、この時代は大王が正しい呼び名になる。
続きは本誌紙面を御覧ください
作 伊東 潤
『黒南風の海 – 加藤清正』や、鎌倉時代初期を描いた『夜叉の都』、サスペンス小説『横浜1963』など幅広いジャンルで活躍
北条五代, 覇王の神殿, 琉球警察, 威風堂々 幕末佐賀風雲録 など。