地方デパート 逆襲(カウンターアタック) プロジェクトその7 顧客と相扶け合う関係               

デパートは消費者に扶けてもらえるのか

 牛乳の消費が進まず、廃棄する。電力や飼料が値上りし、原価が上がる。酪農家は未曽有の危機を迎え、廃業する人も増えているようです。私たち消費者は、少しでもこれを助けようと牛乳を飲もうと声を掛け合い、牛乳を使った製品を作ることを心掛ける事業者も増えています。牛乳が本当に無くなったり、高額になれば困るのは私たちだからです。つまり、事業者を応援するといいつつも、自分たちのために酪農家に頑張ってもらわなければならないのです。翻って、デパートのことを考えると、果してデパートは消費者にとってそういう存在になっているのでしょうか。少なくとも、惜しまれつつ店を閉めていくデパートは、地域の方々にとって結局そういう存在になり得なかったのではないでしょうか。或いは、自分から「デパートが無くなれば皆様にも大いなる不利益が生じるので、どうぞ助けてください」と声を上げたことはあったのでしょうか。

相手を思いやってこそ扶けてもらえる

 デパートが公益を行うということは、常日頃地域の方々に有形無形のサービスを行ない、強い信頼関係を作りあげることです。デパートだけの合理性を押しつけず、顧客のためを真から思って、ある意味デパートにとって無駄なことをする、そうした積み重ねの結果デパートが苦しい時は顧客に窮状を訴えて助けてもらう…そういう関係を作ることにつながるのです。その点で、デパートの社員が公益を意識して日々を過すということは非常に重要なことなのです。

 ところで、顧客に助けてもらうということは、今までも外商員などはいくらでもやってきたことです。「予算がいかないので、この催事でどうか一つ買ってください」等々顧客と強く結びついた外商員はいくらでも顧客に助けてもらっていました。それは、常日頃から外商員が顧客に誠心誠意のサービスをしてきたからなのです。

 かなり前からデパート経営者はそうした関係を、過剰な売り込み、押し売りになると心配し、良くないことと決めつけてきたきらいがあります。公益活動という見地から、もう一度顧客との信頼関係を構築していくことを考えていこうではありませんか。
それは、まさに相扶け合う関係なのです。

地方デパートと地域の人々との絆

 売上至上主義は、既に地方のデパートにおいては無関係の概念です。
限られた商圏とそこに住む人たちとの中でしっかりした関係を作り、バランスよく運営する態勢を築くことが出来れば、将来に向かっての存続は強い可能性を持つことになります。
地域に根付いた行動について考えてみます。デパートは、不特定多数の人が出入りする場です。つまり、たくさんの情報が入ってくると同時に、そうした情報を上手に発信することでビジネスにつながるチャンスも少なくないのです。そうしたアドバンテージをデパート自身があまり理解していないという声もしばしば聞こえます。
例えば、地元の業者がおもしろい商品を取り扱っているのに見向きもせずに、大都市の人気店に有り難がって出店をお願いする。地元の方々のことを大切と唱えながら、地方の特性を考慮したマーケティングを行なわない等々プライドが高いエリート意識といった批判とともに、デパートの視野の狭さが再三指摘されているわけです。

公益の心構え

 存続が危ぶまれる状況にもかかわらず、当事者意識が脆弱なのです。地元と結びつく、地元の中に入っていく、そして、扶けてもらうという肝を据えた意識改革を決断すべき時なのです。そこでは、「損して得とれ」という商人道も問われます。合理的ビジネス方針は禁句です。顧客のために自分たちがいかに無駄を出来るかという非合理な活動方針を行なう覚悟が必要です。それは、ただ商品を安くするとか、なんでも顧客のいうことを聞くとか、そういう安易なものではありません。
デパート人として、自らが顧客と真摯に向き合うことに尽きるのです。礼節をもって、ある意味では顧客と対等な関係になることなのです。しっかり顧客と向かい合って、その人のためにできることを考え、行動するという事です。それこそが、デパートが行う公益事業なのです。公益は、ボランティアとは全く違います。
ボランティアは、自己の目的のため誰かのために力を尽くしますが、自己の判断でいつでも辞めることが出来ます。公益事業はまず助けるべき誰かがあって行動し、それを覚悟をもって継続し、自らの行動に責任をもたねばなりません。デパートがこうした公益事業のスタンスを明確にすれば、必ず地域の方々はデパートを扶けてくれます。いやそれどころか、事業として大きな利益を得ることも決して難しいことではないと思います。