英雄たちの経営力 第7回 白河上皇 その3
武士階級の勃興
搾取する方と搾取される方がはっきりしてくると、搾取される方は何らかの防衛手段を講じる。搾取される方とは農民であり、それを管理するのが元豪族の在地役人、すなわち公領の場合は郡司や郷司、荘園の場合は荘官になる。彼らも利権システムの末端に組み込まれているが、あまりに中央の搾取がひどいので、もっと取り分がほしくなる。
ちなみに搾取というのは何らかの見返りがないと、強烈なしっぺ返しを食らう。後の江戸幕府などは、「生かさず殺さず」とは言いながらも、危機管理能力に優れており( 諸藩によって優劣はあるが)、飢饉の時などは搾取ばかりではなく、蔵米の放出や「粥施餓鬼(かゆせがき)」といった様々な救恤(きゅうじゅつ)策を行うことで、農民たちの支持を得ていた。庄内藩などその好例で、上下一致した理想的な体制が築けていた。それが東北戊辰戦争での活躍に結び付いていく。
武士階級の勃興が、こうした土地をめぐる搾取構造にあったことは論を俟たないだろう。
武士の発生については「在地領主論」と「職能論」の二説があり、いまだどちらが有力とは言えない状況にある。
武士が現れ始めた十一世紀初頭だが、当時、各地の農村は公領か荘園だった。つまり有力貴族や権門寺院などと在地の開発領主との取り分をめぐる紛争が、武士階級を生んだというのだ。
分かりやすく言えば、近代社会と異なり、公権力の及ばない地方農村が、自らの土地や農民( 農奴) を守るためには「自力救済」( 自衛) しかなく、そのため武装せざるを得なかった開発領主が、武士になったというわけだ。そしてその武力は、人間が本然的に持つ欲望という性から、自衛だけでなく外部への膨張という形を取り、それが特定武士勢力の拡大、つまり地方豪族を誕生させていく。これが「在地領主論」になる。
これに対して「職能論」がある。
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作 伊東 潤
『黒南風の海 – 加藤清正』や、鎌倉時代初期を描いた『夜叉の都』、サスペンス小説『横浜1963』など幅広いジャンルで活躍
北条五代, 覇王の神殿, 琉球警察, 威風堂々 幕末佐賀風雲録 など。