えきの駅 食文化探訪 第12回 天満屋岡山本店 食品チーム 高原剛部長インタビュー

天満屋岡山本店は、株式会社天満屋が運営する、岡山県岡山市にある百貨店。天満屋の基幹店であり、売上、売り場面積ともに中国地方屈指の百貨店である。

「天満屋岡山本店の立地と食品売場の商圏をお聞かせください。」

食品チーム 高原剛部長

(高原部長)
天満屋岡山本店は、JR岡山駅東口から東へ約1・5㎞の位置にあります。東側には、岡山城や後楽園、公官庁が広がっています。当店は、約400店舗から成る表町商店街(別表参照)に隣接しており、当店と表町商店街が一体となったエリアと岡山駅東口駅前エリアが岡山の2大商業核を形成しています。駅前商業エリアとは行政が主催するイベントに共に参画する等して共存しています。駅前の活性化にも当店が参加することで地域全体の賑わいに繋がると考えています。

 中心商圏は岡山市内です。岡山駅から僅か15㎞、電車で15分の倉敷駅の駅前には弊社の倉敷店(倉敷市)がありますが、岡山本店と比較すると店舗の規模がかなり違います。倉敷市内のお客様はデイリー商品を地元の倉敷店でお求めになりますが、食品、アパレルを問わず岡山本店にしか取扱いが無いブランドのお求めについては、品揃えが充実する本店に、土日祝日を中心にお越し頂いています。広域商圏は岡山県全域です。県北部にある津山店(JR津山線津山駅〜岡山駅約60㎞)は岡山本店との関係性が倉敷店のそれと同じです。香川県から瀬戸大橋を渡ると岡山県です。(香川県の坂出駅から岡山駅まで50㎞、JR瀬戸大橋線で40分。)とても有難い事に、香川県をはじめとする四国からのお客様が大型のイベント開催時などにお越しになります。テレビ局が岡山県と香川県の両域に放映するので、テレビを通じて香川県の方が岡山県の情報をキャッチし易いことも影響していると考えています。ちなみに広島県の福山店が弊社の規模・売上から見た2番店です。

「食品売場の顧客年齢層」

(高原部長)
中心顧客の年齢層は、60歳代70歳代です。これは本店の全般的な特徴です。今の60歳代70歳代の方々は、現役で仕事をされ、心身共にお若く実に活動的です。次世代顧客を取り込むために、SNSを活用して情報発信をしていますが、30歳代から40歳代のお客様に向けての企画を立てたとしてもガッチリと60歳代70歳代のお客様も反応されます。

「食品売場の戦略と強い売場、特徴的な売場をご紹介ください。」

ボンシャペリー「tututalt フレーズ」

(高原部長)
食は地域性が非常にありますので、何を持ってきてもどこでも売れるわけではないと考えています。現在ご来店頂いている顧客の欲しているものをしっかりと品揃えする事が大命題と考えています。

 ギフトの需要は百貨店の大きな売上のひとつですが、人口減少や中元・歳暮需要の減少でその売上に変化が起きています。当然、競合環境も無風ではありません。このギフト需要をしっかり取り込む必要がありますが、同時によりデイリー性を大切にしたい。ギフトを買いに来るだけでなく美味しいものを食べたい、健康的で体に優しいものを飲みたいといった需要に対して手軽に買える様な売場に少しずつ変えていく。これが今のニーズであると考えています。

 洋菓子売場の一部を9月にリニューアルしました。今回リニューアルで2ブランドを入れました。宗家源吉兆庵グループの「源吉兆庵乳業(岡山本店: 岡山市) 」の「ヨーグルトフォーシーズンズ」は、ヨーグルトデザートとヨーグルトスイーツを揃えます。(産学連携の欄にも記載。)和菓子の「宗家源吉兆庵(本社東京銀座、工場:岡山他」の洋菓子ブランドの「B o n Chaperai(ボンシャペリー)」は、チュチュタルトフレーズが人気です。

強い売り場

 和洋菓子の売場はブランド力、ブランド数でバランスよく充実しています。代表的なのは、岡山でお土産、ご進物に良く使われる和菓子の2大ブランド。「大手饅頭伊部屋(岡山市、天保8年/1837年創業)」の「大手まんぢゅう」です。大手まんぢゅうの名は備前藩池田侯より賜わったと伝わっており、全国のメディアで取り上げられるブランドです。また、「きびだんご」は岡山県内の約20社が製造していますが、当店では、「廣榮堂(岡山市、安政3 年/ 1 8 5 6 年創業)」に長年にわたり入店頂いています。どちらも岡山郷土銘菓です。

特徴的な売場

 地元産の商品はできる限りの品揃えをしています。鮮魚については、魚売り場の店長やバイヤーと共に直接地元の漁協さんを訪ね、「お客様はこれが欲しいと言っている」、「このシーズンには、これが獲れる筈だ」、「我々は、獲れたら一生懸命に売る!」と話をしてきました。岡山県では鰆《さわら・成長するに従ってサゴシ(青箭魚)(サゴチとも・40 – 50 c m ) 、ナギ(50 – 60 cm)、サワラ(60 cm以上)と呼び名が変わる出世魚》を生で食します。春から初夏の産卵期に瀬戸内海に入って来る時期に獲り、刺身で、寿司ネタで食べる文化があります。岡山県民食です。他県では、ほぼ粕漬等の漬け魚需要です。刺身でたべる習慣はありません。隣の広島県の福山店で鰆の刺身を置いても大して売れません。福山店は鯛ばかりが売れる。隣の店の品揃えはこちらでは通用しない。この様な食文化の違いを大切にして品揃えをします。

ままかり の酢漬

 鰆は他県では雑魚扱いだが生で食する岡山市場では高く、一番高く買ってもらえる岡山市場に集まるようになっています。鰆のシリーズギフト品などの加工品を加工品業者さんと連携して取り
組んでいます。
ママカリの酢漬けは土産で良く売れています。ママカリとはニシン科の魚のことです。西日本ではママカリと呼ぶことが多く、関東ではサッパと呼ばれています。意外に食用にする地域は少なく、関東では獲れても雑魚。しかし岡山県では酢漬けや塩焼きにして食べられる郷土料理なのです。旬な時期は初夏から晩秋です。
牡蠣は虫明湾の虫明漁港漁協(瀬戸内市)牡蛎が有名。SDGsが注目を集める今、MSC海洋認証を取っている牡蠣は国内ではここだけ。《MSC(海洋管理協議会)「海のエコラベル」は、水産資源と環境に配慮し適切に管理された、持続可能な漁業で獲られた天然の水産物の証》

 その牡蠣をPRして売る。岡山県の牡蛎は大きな3河川が瀬戸内海に流れ込み、ミネラルが豊富なため大きくなるスピードが速く一年牡蠣です。
https://nozomisui san.com/musiage/
(虫明産の牡蠣は三年牡蠣も有名。広島産は二年牡蠣)

 瀬戸大橋の真下にある下津井港漁協(倉敷市)と組み、旬の時期には有名な桜鯛(鯛は年中獲れますが)についてしっかり販売しています。この漁協の蛸も海流が強く身が締って美味しいことで有名です。佃煮を作る生産者にその蛸を買ってもらい、蛸の甘煮を作ってもらい販売します。

半世紀ぶりに復刻した岡山名物「天満屋饅頭」

 天満屋オリジナルの「天満屋饅頭」を2020年12月から再販売しています。インターネットでなんでも手に入る令和の時代に、「お客様に天満屋の店頭でしかお買い上げ頂けないもの、体験できないものは何だろう?」という事を考えたのが始まりでした。そんな時、約75年前まで焼成機で焼きながら店頭販売する「天満屋饅頭」という地元のお客様に親しまれたお菓子があったという話を聞きました。勿論当時のレシピはなく、諸先輩に味、形、大きさ等を聞きながら令和の時代に相応しい「天満屋饅頭」の開発に取り組みました。素材を吟味し、試作を重ね、どこか懐かしい優しい味に仕上げることができました。素材はできるかぎり地元産を使いたく、小麦粉は岡山県産の「でえーれー粉(でえーれー:岡山弁で物凄い。)」、牛乳も岡山県産の「蒜山(ひるぜん)ジャージー牛乳」ブランドを使用しています。(日本全国の乳牛頭数はホルスタイン種134万頭に対し、ジャージー種は約1万頭しかいない。)店頭では自動の焼成機が8秒に1個のペースでまんじゅうを作ります。お陰様でファンが順調に増えています。(6個入り360円から販売。)

JAとの連携の店は、「地消地産」がコンセプト

「おかやま地消地産の店」は、2JA(JA岡山・「JA晴れの国岡山」とJA全農おかやまと連携し、2021年3月にオープンした岡山県産の食材のみを扱う店です。長引くコロナの影響で県外市場への売り込みに苦戦している県内の野菜・果物産地や生産者を応援し、また、岡山のお客様へのより鮮度の高い地元食材を提供できる場としています。店名由来は、地産地消(地域で生産された農作物を地域で消費)から視点を変え、地消地産「地域で求められる農作物を地域で生産する。」ことを目標に命名しました。「地域の人が昔からこんなものを食べていた。」、「こういうものが食べたい。」、「昔はたくさん作っていたのに、岡山ではできなくなって来た、流通しなくなってきた。」、「お客様は、今こういうものを求めているよ。」。そういった意見をJAを通じて収集できたらいい。それを産地に伝える、そんな仕組みをみんなで作ろうじゃないか。流通のギャップを埋められる売場を一緒に作りましょうとの思いで作ったお店です。岡山県産米(里海米など)岡山大学農学部生産の野菜・果物岡山県産野菜・果物作州黒大豆、同加工品(黒々茶など)岡山県産卵、畜産加工品瀬戸内市産カマボコ・天ぷら岡山県産加工品(果物ゼリーなど)岡山県産調味料等の「岡山産」だけをお届けする専門店です。岡山にはあまり知られていない良いモノがたくさんあります。一生懸命に作った生産者の思いをもっと知って頂き、岡山のモノづくりを応援したいとのコンセプトの店です。
凍結覚醒法で栽培する「岡山完熟バナナ」、「もんげーばなな®」は人気商品のひとつです。(取材日は翌日の入荷待ちでした。)「寒さに強く、亜熱帯でなくてもどこでも作れる!」との触れ込みで栽培したところ、何の問題なく生産ができました。 

「恒例の地元産品を集めたフェアをご紹介ください。」

今後も継続したいSDGsのフェア

(高原部長)
 5月に、「岡山天満屋サスティナブルウイークス( 11日〜22日、全館にて)」と「アースディ岡山×TENMAYA〜サスティナブルを考える〜(14日、15日、7階催場)」を開催しました。両企画共にサスティナブルに関連する衣食住の実演・販売・展示行いました。この11月には更にこれらをバージョン・アップして、「サステナブルウイーク〜未来のためのサステナブルな暮らしを〜」と銘打ち開催しました。食としては、有機野菜、牡蛎、有機米を使った日本酒等、一生懸命にSDGsの目標に取り込まれているメーカーに声をかけ出店して頂きました。今後もこのSDGs企画は続けていきたいと考えています。

『岡山の生産者支援の取組み=地域商社「せとのわ」』

(高原部長)
「せとのわ」は岡山の生産者の販路開拓、全国に商品を知らしめることを最初の目的として2020年11月に設立した地域商社です。瀬戸内の資源を活かし、「新たな価値」と「新たな商流」をうみ出す「プラットフォーム」をつくりたい。

 そんな想いを込めて「せとのわ」という社名をつけました。

 参画5社の天満屋、ちゅうぎんフィナンシャルグループ、山陽新聞社、アイディーエイ(デザイン)・中国四国博報堂はそれぞれの得意分野を活かします。弊社からは食品ブランドを開発するために食品の経験者が出向しています。5月のSDGsの関連フェアには、「せとのわ」出向者から紹介された地元企業が出店しました。

炭酸水で割って飲む日本酒大典白菊吟醸酒「&Soda」の誕生

 蔵元の白菊酒造(高梁市)と「せとのわ」、天満屋が「新しい日本酒文化を作りたい」という思いから、日本酒をもっと気軽に、もっと自由に、デイリーに楽しめる日本酒として、お客様が好きな濃さで自由に楽しめる、炭酸割専用日本酒「&Soda」を開発し10月1日から発売を開始しました。

 味は自信があります。卸問屋を巻き込んでしっかりとプレゼンして貰い、既に県内の小売店にはもれなく置いて頂いています。今後は飲食店がこの日本酒をメニューにして欲しい。そうすれば、家庭にも普及していく。この発売をきっかけに、岡山の方々にもっと気軽に日本酒を飲んで頂きたい。ゆくゆくは岡山の日本酒の消費が少しでも拡大していければと考えています。今後は、全国販売に向けて「せとのわ」が動いて行ければ新たな展望が開けると期待しています。商品専用のHPでは飲み方の動画を流しています、また、販売店を掲載しています。
http://www.andsoda.jp/

「天満屋岡山本店は南北1・5㎞に伸びる表町商店街の中央に隣接しています。アーケードに約400店舗が存在するこの大規模商店街とはどのような連携をしていますか。」

地域活性化の取組み

(高原部長)
表町商店街「特招会」は、表町商店街と天満屋のカード会員様特別招待会(特招会)』とのコラボレーション企画です。定期的に天満屋で行なう天満屋カード会員さま向けの特別招待会。いわゆる『特招会』。この開催時に、表町商店街の店舗が参加し、表町商店街の一部のお店でお客様にお得な割引を実施されています。

 来年秋には商店街の南端に新市民会館(おかやま芸術創造劇場)が開館します。この地域の方にとっては街の賑わいが新たに生まれる期待度が高いと思われますが、既存のこの商店街の中で、マグネットにならなければならないのは天満屋です。しっかりとこのエリアに、天満屋での買い物を目的として足を運んで頂き、商店街と一緒に物販のみならず、10月の「備前岡山だんじり祭り」等のイベントで商店街全般を楽しめる取組みを継続的にやっていくことが大切であると考えています。

「産学連携の取組みをお聞かせください。」

①ノートルダム清心女子大学×JA岡山によるブレンド無洗米

(高原部長)
「地産地消」「米の消費拡大」「食育」をテーマにした「未来の食育プロジェクト」で共同研究により生み出された無洗米商品「晴々(はればれ)ロマン」(2kg/スタンドパック/チャック付き/無洗米)を令和4年3月から販売しています。本商品は、同大学の食品栄養学科の学生9人が主体となり、「働く世代のために手間がかからず、冷めても美味しい」をコンセプトに考案。

 複数のブレンド構成の中から、「冷めても美味しい」品種・割合として、アケボノ(ハッキリ食感)7割、きぬむすめ(もちもち食感)3割を選択。「働く世代のために手間がかからない」ことを目的に無洗米とし、包装は保存に便利なチャック付きスタンドパックを採用。「晴々ロマン」のロゴは、ブレンドを意味する2つの米はハート型に重なっているイメージです。

 先ず、学生とJA岡山との間でブレンド米の話が浮上し、全農岡山パールライスでお米の勉強を開始。こんなものを作りたいとの発想に行き着き、ではそれは果たして商品になるのか。商品にするには何に留意すればよいかの段階で、当店の出番となり、流通とはこういうものですと学生にレクチャーをしました。比率を変えての食べ比べで黄金比率を見つけようと頑張っている学生の姿を見てきてとても頼もしく感じました。当店では「おかやま地消地産の店」で販売しています。

②岡山大学×天満屋グループ企業×天満屋による岡山県内初の都市養蜂

 3月から、岡山駅前東口の天満屋グループ企業「丸田産業」のビルの屋上で、養蜂(巣箱4群・8万匹)を行っています。7月末までに8回の採蜜を行い、予想をはるかに上回る330㎏ものハチミツに恵まれました。これは、同社と岡山大学、天満屋で連携して立ち上げた「おかやまミツバチプロジェクト桃太郎ハニーラボ」というプロジェクトです。SDGsの開発目標11 (住み続けられるまちづくりを)、13 (気候変動に具体的な対策を)、15 (陸の豊かさを守ろう)を目指しています。

 採蜜したハチミツを5月から当店食品売場「岡山贔屓」で販売しています。9月からは当店食品売場「ヨーグルトフォーシーズンズ」で当店限定品としてこのハチミツを使用した「おかやまハニー&レモンヨーグルト」を発売しています。「ヨーグルトフォーシーズンズ」では、この「おかやまハニー&レモンヨーグルト」が圧倒的な売れ行きを見せており、早い時間帯で売り切れることもしばしばです。また、8月には、天満屋グループのホテル2社「ホテルリマーニ(瀬戸内市)」、「せとうち児島ホテル(倉敷市)」と連携しこのハチミツを使った「おかやまハニーキャラメルパウンドケーキ」、「おかやまハニーナッツ」を「岡山贔屓」で販売して
います。

店舗データ

①企業名  株式会社天満屋(創業1829年)
②店舗名  天満屋岡山本店
③所在地   岡山市北区表町2-1-1
④アクセス JR西日本 山陽本線 岡山駅下車、東へ約1.5㎞
 岡山駅よりバスにて天満屋バスステーション下車他
⑤店舗開店年 1925年
⑥売場面積  30,055 m(表町路面店含む) 
⑦フロア   B1F~7F
※周辺地域の人口:岡山市72万人、倉敷市22万人、岡山県186万人