えきの駅 食文化探訪 第6回 髙島屋横浜店安藤誠司 販売第4部長(食料品・食堂)インタビュー

 髙島屋横浜店は、髙島屋における売上高第2位(2022年2月期)の基幹店であり、国内屈指の売上高を誇る百貨店。

「先ず、横浜店の立地と商圏をお聞かせください。」

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(安藤部長)
 横浜店は、横浜駅西口に隣接しています。横浜駅は、日本有数のターミナル駅で、年間乗降者数も全国トップクラスです。

 横浜駅西口地区はここ数年で進化を遂げています。2020年6月に横浜駅に新たな駅ビル「JR横浜タワー」に「ニュウマン(NEWoMan)」「シァル(CIAL)」といった商業施設や映画館などが開業し、昨年3月の当店の食料品売場増床も加わり人々の流れや集客などに変化が見られています。この地域で相乗効果が生まれていると考えられます。

 コロナ禍で若干落ちたとはいえ、横浜店は入店客数が多く、1日平均約7万人とグループの中でもトップクラスです。それもあって店頭売上は、当社百貨店グループで最大となっています。

 横浜店は横浜市を中心とし神奈川県下を商圏にしています。横浜・川崎北部の様に鉄道が都内に直通している沿線にお住まいの方は、これまでは都内に買い物に行かれる傾向が強かったのですが、コロナ禍で首都圏の小売店が閉まっていたこともあり、一部の方が、横浜駅周辺に流れて来た傾向が見られました。

「横浜店の地下食料品フロアの現状をお聞かせください。」

(安藤部長)
 地下食料品フロアは、2019年9月から段階的に拡大し、2020年12月に本館エリアを「Foodies Port1」、地下街エリア部分を「Foodies Port2」に改称。昨年3 月に売場面積約5000㎡を誇る国内最大級のデパ地下としてグランドオープンしました。これまでの約1・5倍の広さです。新たに増床した「Foodies` Port2」では、年間延べ約300万人のお客様にご利用頂きました。( 別表参照)

 食料品フロアの増床で新たな来店客が生まれ、上層階への集客効果も見られます。

 逆に上層階の新しいお客様の地下食料品利用も見られます。当店1階化粧品売場、1階・2階特選売場を中心に、10歳代、20歳代のお客様が急増しています。特に夕方は顕著です。コロナ禍の影響で都内で買われていたお客様が地元横浜で買われるようになっているのか、西口商業施設の開発が進んだことで西口への来街機会が増えているのか、理由ははっきりわかりませんが、このお客様の一部は食料品売場にも寄って頂いています。このお客様の数を増やしていくことが今の課題のひとつです。

 「Foodies`Port1」は、老舗ブランドや定番の商品を中心に構成。今までの百貨店タカシマヤに来られるお客様、上質で安定感がある、安心な商品をお求めになられる方が中心のフロアです。

華正樓(横濱中華街ブランド)

 地元横浜、神奈川の店舗も多数ご出店いただいております。惣菜は中華ブランドで、崎陽軒( 横浜市)、華正樓( 同)、皇朝(同)。和洋惣菜では、梅や( 同)、尾島( 同)、勝烈庵( 同) 等。和洋菓子では、豊島屋( 鎌倉市)、鎌倉紅谷( 同)、馬車道十番館( 横浜市)、かをり( 同)、ありあけ(同)等。地元自慢のブランドをギフトとして、また、ご自分でもソウルフード感覚で召し上がられる需要もあります。中元・歳暮期には横浜・神奈川のブランドに限定したカタログ( 約70品目掲載) を作る程、地元ブランド志向は強いです。この中元期の会場では、中央の一番前に大々的に横浜・神奈川ブランドのコーナーを設けました。横浜店のお客様の地元愛がとても強いことが、日頃からのお客様の声や、お求めになる商品を拝見して感じられます。その郷土愛の一つとして当店を地元横浜の店として見て頂いていることをとても有難く感じております。

 「Foodies`Port2」は、主に今回新たに増床した区画。増床に当たって実施したお客様アンケートの結果、拡充のお声が多かったスウィーツやベーカリー、お酒の品揃えを増強しました。

 「Foodies`Port2」では、ハンバーグを目の前で焼いたり、綿あめをその場で作ったり、作り立て、出来立てのものをその場で食べる等、コト消費が拡大する中、ライブ感も意識しました。

 「Foodies`Port2」の特徴的な売場をご紹介します。

 和洋酒売場は、売場を約2倍に広げ、日本酒約600種類、ワイン約1000種類と品揃えの豊富さに加え、日本酒は特約店契約を結ぶ限定流通銘柄を約50種取り扱っていることが特徴です。また地下街の公共通路に面した場所に移転したことで、これまでご利用いただいていたお客様に加え、たまたま通りかかったお客様の利用も増えました。この新規のお客様がリピートして利用していただいていることは、この売場が評価されている証しの一つと捉えています。併設するフードペアリングバー「ベイヤ(BAY-ya)」も人気があります。運営しているのは新潟県長岡市の老舗米店で、とりわけ米へのこだわりは強く、長岡市小国地区の棚田で育てられたお米を使った料理も食べられる点もお店の特徴です。ランチタイムの穴場です。「ベーカリースクエア」は、「カナガワベーカーズドック」( 後述) や「サンジェルマン」等約40ブランド、約500種類のパンを揃えており、国内でも有数の規模のベーカリー売場です。1日約1万個の販売で毎日賑わっています。「スウィーツマーケット」では、昨年3月のグランドオープン時には、日本初登場、横浜エリア初登場、百貨店初登場のスウィーツブランド等を揃えました。( 現在の横浜タカシマヤ限定ブランドは別表参照) トレンド感のある新業態スウィーツをこのオープンに合わせて開発していただいたものもあります。

食料品特化型セレクトショップ「hama-pla」

 今年の7月には、国内2号店・百貨店初出店のとなる台湾カステラの人気店「グランドカステラ」をオープンしました。「hama-pla(ハマプラ)」は、コンビニ感覚で気軽に立ち寄り、購入頂ける食料品特化型のセレクトショップです。バス発着所から横浜駅に通じる人通りの激しい地下街のメイン通路に面した利点を活かし、平日は朝7時30分から営業。通勤通学途中の方が多く利用されています。また当店周辺のオフィスワーカーのランチタイム需要も意識しています。

 「Foodies`Port1」にある華正樓の肉まんを蒸かした状態で販売しているほか、百貨店ブランドの弁当、惣菜を購入できるのも百貨店が手掛ける店舗ならではの特徴です。

「髙島屋グループはSDGsの達成に強く貢献・寄与できるテーマに取り組まれています。横浜店での食に関する具体的な取り組みをご紹介ください。」

①廃棄間近のパンを原料とする発泡酒「リブレッドRe:BREAD」の販売

発泡酒「リ・ブレッド」醸造の様子

・本来使用する麦の23%をパンで代用
・協力工場:「ON TAP 江戸東京ビール」(江東区)
・容量:330㎖

RE:BREAD

(安藤部長)
 パンは消費期限が短いものが多く、廃棄ロスが発生しやすく、その削減が課題です。廃棄されるパンを再利用して、新しい商品をつくり出し、その商品を当店で販売する循環型の取組みができないか。また、お客様に興味を持っていただけ、喜んでいただけるものをつくれないか。加えて、社会貢献になるからではなく、商品そのものに価値を見出し購入していただけるものを作れないか。これらの視点でベーカリーの取引先と考え、取り組んだのが、廃棄となるパンを原料として醸造した発泡酒です。昨年8月の発売以来、約800本を販売しています。(別表・参照)

②地域活性化に向けて

(安藤部長)
 横浜市西区の子供食堂「ハレの日ケの日」に消費期限間近となったパンの提供を行っています。カナガワベーカーズドックとサンジェルマンのパンを子供食堂を利用する方々にお召し上がり頂く事で廃棄ロス削減の他、地域住民のコミュニティ創出に寄与し、地域活性化にも繋げていけたらと思っています。毎週金曜日の営業終了後に50個前後を先方のスタッフにお渡ししています。

③パンの堆肥化「ぱんクル(パン+リサイクル)」

(安藤部長)
 期限切れのパンを定期的に山梨県にある農場に送り、酵母と納豆菌等土づくりに良い菌を加え、菌の力で発酵させることで堆肥化。この堆肥を使い良質な土壌で耕作したキャベツ、春菊等を収穫し、地元神奈川県内のベーカリーの協力のもと、これら野菜を使用したパンを商品化。年に2回のペースで、環境に配慮した循環型のパンとして販売をしています。

④中小パン屋さん支援のカナガワベーカーズドック

(安藤部長)
 ベーカリースクエアエリアにあるカナガワベーカーズドックは、㈱ハットコネクトと共同で開発した神奈川県下のパンを集めた編集型ショップです。約30ブランド約200種類のパンが日替わりで登場しています。確かな腕と素材や製法に拘るパン職人が多い一方で、知名度や従業員・後継者不足などの理由で廃業をせざるを得ない街のパン屋さんが少なくありません。そうした中で、地元のパン職人を知ってもらう事、販売機会を創出する事、パン業界の未来を切り拓く事を目的にした編集型ショップとなっています。

⑤産学連携の取組み

(安藤部長)
 カナガワベーカーズドックでは、定期的に当店の近隣にある国際フード製菓専門学校の学生さんが作るパンを販売しており、次世代の人材育成と地元活性化にも力を入れています。

「横浜店の食料品の戦略をお聞かせください。」

増床リニューアルによる新規のお客様を横浜タカシマヤのファンに!

(安藤部長)
 増床したことなどにより、新たなお客様が来られていますが、「Foodies Port2」をきっかけにご来店頂いているお客様を本館を含めた横浜タカシマヤのお客様として、定着して頂くことを目指しています。そのための戦略として昨年から「Foodi esPort1・2」両フロアを含めた買い回り・回遊を意識して、様々なプロモーションを実施しています。( 別表参照)

 例えば、6月に開催した「シトラスパレード」は柑橘類を使った商品を「FoodiesPort1・2」の各ブランドで展開。面で展開することで、買い廻って頂く戦略です。昨年、特に話題となったのが、「マリトッツオフェスタ」と「ドーナツフェスタ」です。王道商品をバリエーション豊富に展開するだけでなく、変わり種の商品( マリトッツオやドーナツの形状をした惣菜など)も展開することで各売場が参加。フェアで販売する商品がどこのブランドで売られているかを記載したマップを作ることで、お客様がそのマップを片手に「FoodiesPort1・2」を回遊される仕組みを作りました。

 また、昨今、コロナ禍で内食需要が拡大、その手軽さ、美味しさから「冷凍食品」の需要が増加しています。百貨店として冷凍食品をどう扱っていくかは、当社としても課題認識をしています。その中で㈱テクニカンの液体急速冷凍凍結の技術に魅力を感じ、「凍眠フードフェア」をこれまで2回開催しました。デパ地下の惣菜、弁当、パンの冷凍品や産地で冷凍した魚介類、㈱テクニカンの運営店舗「トーミンフローズン」で扱う人気商品などを展開し、お客様が何を求められているのかを探りながら、ビジネスベースに向けてのトライアルをしているところです。また近年、栄養価が高く、環境負荷が低い大豆ミートなど植物性由来の代替肉が注目されていますが、本年2月にネクストミーツ㈱と協業し、大豆ミートのフェアを開催しました。約30ブランドが大豆ミートを使用した商品を展開。ここまでのメニューが揃った展開は、これまであまり例がなく、とても話題となりました。今後の食ビジネスをにらんだ取り組みになったと思っています。

 増床リニューアルに向けて、「新しいこと」「流行りそうなこと」を意識した品揃えやサービスの提供を考えてきました。この習慣が食料品を担当しているメンバーに根付いてきており、様々な新しい企画が実現できていると感じています。今後も皆で知恵を出し合い、お客様の期待を上回る取り組みを続け、横浜タカシマヤのファンを一人でも増やしていきたいと思っています。

(敬称略)

この一年の主な食料品プロモーション

2021.7マリトッツォ フェスタ約20ブランド・約50種類の個性豊かな「マリトッツオ」。1週間で8,000個以上のマリトッツォを販売。好評につき1週間の延長販売
2021.8カレーパンフェスタ約30ブランド・約50種類。横浜人気カレー店とのコラボ商品や激辛カレーパンなどを販売。
2021.10“循環型のパン”「ぱんクル」第1弾販売期限切れのパンで野菜を栽培。“循環型のパン”
2021.11ドーナツフェスタ32ブランドから横浜高島屋限定商品含む約90種類のドーナツを販売。
2022.2「凍眠フード」フェア 「凍眠フード」フェア 第1弾握り寿司やスイーツ、日本酒のほか出来立て“デパ地下グルメ”の冷凍販売。
2022.2代替肉フェア「にくらしいほど肉らしい 大
豆ミートはこんなにおいしいフェア」
総勢30ブランドより約40品の代替肉メニューを販売。
2022.4あんぱんフェア「あんぱんの日」にちなんで、24ブランドから約50種類のあんぱんを販売。
2022.5「凍眠フード」フェア 第2弾百貨店初“デパ地下”グルメの冷凍サービスも実施。
旬の魚介類や名店の味を急速冷凍。
2022.6“循環型のパン”「ぱんクル」第2弾販売期限切れのパンで野菜を栽培。“循環型のパン”
2022.6シトラスパレードオレンジやレモンなどの柑橘類をふんだんに使った商品約80種類を提案。

店舗データ

髙島屋横浜店 外観

①店舗名 髙島屋横浜店
②所在地 横浜市西区南幸1丁目6-31
③アクセス JR線、京急、東急、相鉄、横浜市営地下鉄、みなとみらい線 横浜駅西口徒歩1分
④開店年月日 1959年10月
⑤売場面積 57,618㎡ B2F~8F
⑥売上高 1,186億円(2022年2月期)
※店頭売上は髙島屋NO.1
⑦1日当り来店客数 約7万人
※周辺地域の人口:横浜市377万、川崎市154万、藤沢市44万、鎌倉市17万