デパート新聞 第2686号 – 令和4年5月1日

3月東京は11.3%増

 日本百貨店協会は、令和4年3月東京地区百貨店(調査対象12社、24店)の売上高概況を発表した。売上高総額は1225億円余で、前年同月比11.3%増(店舗数調整後/7か月連続増)だった。店頭・非店頭の増減は、店頭10.3%増(88.7%)、非店頭19.6%増(11.3%)となった。

百貨店データ

  • 3社商況3月
  • 3月店別売上前年比(%)
  • 都内各店令和4年3月商品別売上高
  • 関東各店令和4年3月商品別売上高

地方百貨店の時代 その38 – 貸借対照表の思考

デパート新聞社 社主
田中 潤

貸借対照表

インカムゲインを求める経営戦略

 日本経済は長らく、いかに売上を上げるか、利益を出せるかということを時間軸の中で目標を作って邁進してきた。企業は、1年間と期間を区切って収益・費用・損失を計上し、最終的利益をいくら出すことが出来るかという損益計算書によって、その価値を評価されるシステムを続けてきた。これを動的会計と言い、インカムゲインを求めることに重点を置いた経営戦略である。

 しかし、そもそも経営という考え方が始まった当時、即ち大航海時代は一つの航海によってどれだけの財産を稼ぎ出すかという、財産の増加そのものに焦点を当てた貸借対照表が重視されたのである。財産が増えたことによって、一定の配当を支払った後に、また次の航海に踏み出すための元手が出来るからである。

キャピタルゲイン獲得への移行

 企業の資産・負債・資本をある時点で明確にして、その財産状態を確認し経営を判断するという考え方を静的会計と言う。企業が今後も存続していけるかどうかというリスクが顕在化している今の時代は、1年間でいくら稼いだかということより、その企業が将来にわたって生き続けていけるかを明確に判断できる静的会計の視点の方が重要となっている。利益を獲得するという基本方針から、資産の安定化に着目するキャピタルゲインの獲得へと重心は動くことになる。

 デパートは今までインカムゲインへの圧倒的願望に支配され、貸借対照表を中心にモノを考える意識が極めて低かった。モノを売るという事業であったゆえの宿命とはいえ、もはやその方針は白紙に戻す覚悟が必要である。その視点から言えば、場所貸しという経営方針は一理あるということになるが、文化を発信するというデパートの基本的使命を鑑みると、場所貸しは自らのオリジナルの文化の創造を損ねるリスクが非常に高い。むしろ、貸借対照表にある有形資産である土地・建物・備品などは、地域との交流の中で有機的に活用して行きたい。それ以上に、現状の貸借対照表上には記載されていないデパートの有する人材と地域への信用、それまで培ってきた文化観、この3つの資産価値を改めて精査し、そのデパートにとって最も価値の高い資産から、まず有効活用していく方針を立てることが的確と言えるだろう。

(上図を参照)

 貸借対照表上、無形固定資産は今までの形では全く評価されていない。将来的には人財資産・地域信用資産・文化観資産の3項目6億円を財産として評価し計上することで、利益剰余金も6億円増加し財務的にも強固となり、信用度は増加する。

 現行の会計基準では、こうした資産を計上することは認められていないが、それはあくまで公式発表でのことである。多くのステークホルダーに対する宣伝の一つと考え、デパートの真の姿を見せるディスクロージャーとして気にせずやれば良いのである。ただし、そのための評価方法については、外部の専門家を交えて客観的な形状基準を明確にするべきであることは言わずもがなである。

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 自然の変化を最も色濃く感じるのは、町を歩いているとそこかしこで、目にするこの時期の若葉の成長度合である。銀杏や百日紅などつい昨日までの枯木が新芽をつけたと思ったら、あっという間に青々と新葉を広げている。見ているこちらの心は洗われるのだが、時間の経過の無情さも実感させられる。

 新型コロナウイルスの蔓延後の日々は、世界中の人々の人生の貴重な時間が失われてるだけに日々緑が広がる様も手放しでは喜べないのかもしれない。

 そういえば、俳句には青葉闇なる季語もあるが、今の私たちの心を上手に言葉にしているようでもある。

連載小説 英雄たちの経営力 第2回 豊臣秀吉 その4

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連載:デパートのルネッサンはどこにある 46 – 立川高島屋S.C.が「百貨店区画」の営業を終了

2023年1月末で半世紀に及ぶ歴史に幕

 高島屋は、4月11日に立川高島屋S.C.の百貨店区画の営業を2023年1月31日で終了すると発表した。1970年に高島屋立川店として開業した同店は、徐々に百貨店区画を縮小する一方、テナント区画を拡大していた。

 2018年の大型改装によって10フロアのうち百貨店区画は既に3フロアにまで集約されていた。サイズ感としても、百貨店を三十貨店に縮小したイメージだった。

 高島屋は「立川駅周辺の再開発に伴う商環境の変化や、次世代顧客獲得を踏まえ、専門店に特化した商業施設への移行を決めた」という。もはや3フロアでさえ「百貨店の体」を維持できないコトの、言い訳にしか聞こえないのは、筆者だけだろうか。

 立川高島屋S.C.は百貨店区画3370坪、テナント区画6044坪の計9414坪の中規模商業施設である。百貨店区画は地下1階の食料品、1階の特選ブティック・化粧品・婦人雑貨、3階の婦人服の3フロアで構成していた。百貨店区画の2021年度の売上高は80億円だった。それ以外は2階も含めテナント区画であり、ニトリ、ユザワヤ、ゴールドジム、ジュンク堂書店など51店舗が営業している。百貨店区画には正社員を含めて約140人が働いており、正社員は配置転換、地域雇用従業員には雇用支援を行う、としている。

続きは デパートのルネッサンスはどこにある? 2022年05月01日号-46 を御覧ください。

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