税と対峙する – 23

平成16年5月20日号(第2273号)

税込み価格は顧客の想像力を欠如させる
デパートの価格表示にはひとつひとつ文化がある

 税込価格の強制は日本人が持っている価格に対する意識を変えてしまった。価格文化の破壊である。むろん物の金額というものは単なる概念である。そこには無機的な意味しかないと考える人もいるだろう。しかしながら商品を売るために長い歴史を重ねてきた百貨店にとって一つ一つのプライスは「ただの商品の値段」を離れた付加価値的な意義がある。それは、¥9800や¥19900といった割安感のプライス設定といった単純なレベルではなく顧客との信頼関係に基づくもっと奥の深いものである。千円市、一万円市など「ピタリ」の金額で買えるものに対する安心感のあるイメージや、「3つで1000円」などのように価格と商品の微妙なバランス感覚などもデパートと顧客のハートとの間で熱いやりとりが内在しているものである。

 一方、どの商品でもそうだが顧客にとっては「この商品はいくらくらい」と考える場合、たとえばこのネクタイは8000円とかこのスーツは15000円というように税込の発想はない。そこに税込の8400円や15750円というプライスがつくことは値札をみた時に直線的に消費者の感覚に入っていかない危険がある。つまり顧客自身がその金額なら買おうと思うイメージに対し税込プライスはロボットのような数字感覚を押しつけてしまい、顧客の創造力と購買意欲をしぼませてしまうのである。

 こうした抽象的理論は商品の流通という経済性の中では正鵠を射ていないといわれるかもしれない。しかし少なくともデパートという所は、ただ物を売るだけの場所ではない。付加価値という最高のサービスを伴って商品を顧客に提供し、満足いただくところである。それだけに顧客の感覚に水を差す税込価格は、デパートがもつ価格文化の灯を消したという点で、はかり知れないマイナスをもたらしたのではないだろうか。