昭和24年10月創刊

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編集部より

編集長の注目企業インタビュー その2 – 新里製本所 続編

 「百貨店大量閉店時代」はまだまだ終わりが見えない。むしろ、始まったばかりなのかもしれない。今回ご紹介する新里製本所が属する製本業界も、デパート以上に先行きが心配される業種である。しかし新里社長 は、そうした逆境をばねにして、新しい「コンセプト:考え方」を模索し続けている。
ということで、いろいろなコンセプトを持つ新里社長に再び話を聞いた。

株式会社新里製本所 新里知之 代表取締役

 出版不況と言われて久しい。コロナ禍のステイホームによっても、書籍離れに歯止めが掛かったとまでは言い難く、前述の様に「本」を取り巻く環境の厳しさは周知の事実だ。しかし年末号でご紹介した新里製本所は違っていた。今号のインタビューも、百貨店業界に限らず、いろいろな業種業界の参考になるだろう。

 2021年も押し詰まった年末、文京区白山の新里製本所を再び訪れた。正味1時間半ほどのインタビューの間に10本以上の電話がひっきりなしにかかって来る。(筆者はひっきりなしという表現を始めて使った気がする) 多忙を極める年末に大変申し訳ない気持ちと、電話相手の多様性に新里社長の「守備範囲」の広さを感じた。

1.デパート、SCウォッチャー

 新里社長の趣味は大変高尚だ(あくまで本紙としてはだが)。休日に百貨店やショッピングモールを見学に行くことだという。製本業と商業施設の関連性は、あまり高くないのでは、という印象だが。まさか、デパート新聞のインタビューだということを意識した、リップサービスかと思いきや、2021年12月15日号でお伝えした通り、新里社長は至って真面目なのだ。

 新里社長「女性の方は、そこにしか入っていないブラントを目当てに、百貨店に行きますけど、私なんかだと『そもそも百貨店に行く理由』が無いんですよね。ちょっと贅沢なレストランでの食事とか、もちろんデ パ地下には行きますけどね。」「女性はウインドーショッピングとかしますけど、男はしないですよね。目的の無い買物という考え方はしないですからね。」ということだ。「最近は、二子玉川だけでなく武蔵小杉に行きましたが、カップルやファミリーが来ていますよね。今の百貨店には、その人たちが行く「目的」がなくなってしまったんですよね。」と中々手厳しい。「ショッピングモールというのは疑似商店街だから、いろいろな客層が集う受け皿が用意されているじゃないですか。フードコートが良い例で、いろいろな好みの客が、別々のメニューを注文しても、一緒に食事が出来るんですものね。素晴らしい発明だと思います。」筆者はそこで、お子様ランチ発祥の地である「デパートのお好み食堂」を想起したものの、今のデパートではそういった食堂が絶滅危惧種となってしまったことを改めて思い出した。町の商店街がショッピングモールに姿を変えて生き残った様に、デパートのお好み食堂もフードコートに転生して、現代のファミリーに親しまれているのかなぁと、感慨深い。

 百貨店は、その長い歴史の中で、どこかで道を間違えたのでは、と考えている筆者の頭の中を覗いた様に、新里社長はこう続けた。「東京大丸でも渋谷西武でも、HONcept(ホンセプト)を「良い」と評価してくれるのは若手(非管理職)の社員の方なんですね。おじさん達には、『何が良いのか』判らない様ですから。(笑)」ここは筆者も頷くしかない。新里社長の言う通りなのだろう。デパートマン(ここではオジサン管理職を指す)の感性の「限界」を見た気がした。オジサン同士なので言い訳をしておくと、もし筆者が担当者であったとしても「HO N c e p t = 売れる」という判断には至らないだろう。これが、今のデパートに若い客層が「寄り付かない」遠因なのかもしれない。デパートオジサン達は自分達の「感性」が古くなってしまったことに気がつかないからだ。どの業界でもそうだろうが。

 では、我々オジサンはどうすれば良いのか?
この後、世代論から「若手の育成」に話が飛ぶ。

2.サッカーから学んだ人材育成

 新里社長の「人の育て方」は独特だ。彼は若手の育成と称して、リーダーである誰しもが行う「指示、指導」をしない。それは「こうしなさい」ではなく「どうしたら良いと思う」か、を部下に問うことから始まる。それは社長自身が「自分のやり方がベストである」という「決めつけ」を是としていないからだ。

 こんな社長、中々いないと思う。新里氏はこのスタンスを息子(失礼、ご子息)たちのサッカーコーチから学んだと言っている。会社の経営にもサッカー式マネジメントを取り入れている、と印刷の業界紙のインタビューでも答えている。

 曰く「子供たちの思考を潰さない様に、とにかく自分の頭で考えさせる」「決して親やコーチが上から押しつけず、子供たちの自主性を尊重する」と。そして、そのコーチから受け継いだサッカー理論を元に、自らサッカーチームを作り、10年で120名を擁するビッグチームに発展させた。因みに新里社長の次男はJリーグ(J2)のミッドフィルダーとして活躍している。

 新里社長は、初めて訪れる飲食店では、自分の好きな物=食べたい物を注文せず、店員さんに選んで貰う、という。自分の意見よりも、他人の意見を聞くと、考え方が広がる、ということなのだ。サッカー少年、飲食店スタッフ、自社の若手、すべてに同じ理論で臨み、そして徹底している。聞けば「なるほど」と思うが、これを実践するハードルは意外と高い。
HONceptがブランドとして認知度を増して行くのも、新里社長の謙虚さや共感力が相手を魅了するからではないか、と思えてくる。大事なコトが相手にきちんと伝わる、これが大事なのだ、と彼と話していると 実感させられる。

3.人生を楽しむコツ

 先程の飲食店でのエピソードは、もう一つのキーワードを孕んでいる。それがサブタイトルで掲げた「人生を楽しむコツ」だ。自分で選んだのではなく、目の前に差し出されたモノ(この場合は料理に限らずだが)を 楽しむ。この意識というか極意を極めるのが、人生を楽しむコツ、なのかもしれない。一見、主体性がない様に思えるが、何でも自分の思い通りにビジネスや人生をコントロール出来る人間は、ほんの一握りに限られる。だからこそ、新里氏の「目の前に出されたモノを楽しむ」というスタンスが、我々凡人にも通じる、「人生を楽しむコツ」であり、だからこそ皆がそれに共感出来るのではないだろうか。

 例えば、本紙12月15日号に掲載した、新里社長インタビューの前編でお伝えした、富士吉田市の宮下織物の生地を使ったコラボレーションもそうだ。今後も、全国各地のその地方特有の生地を使って、新里製本による新しいHONceptが次々に生まれるかもしれない。何が言いたいのかと言うと、HONceptには、全国にある魅力的だが、世間に知られていない生地に光を当てる機能というか、触媒の様なチカラがあるのではないか、と。

4.花神

筆者はここで、司馬遼太郎の「花神」を思い出した。
1977年にNHKの大河ドラマにもなった。花神は中国の古語で、日本の「花咲か爺さん」のことだ。物語は、昨年末に終了した大河ドラマ「青天を衝け」と同 じ幕末モノだが、今回の渋沢栄一以上に無名な、お世辞にも「偉人」とは程遠い、村田蔵六=大村益次郎の生涯を中村梅之助が演じた。無名とは言っても、仮にも日本の歴史に名を刻んだ幕末の英傑と比べるのは、ご本人も「こそばゆい」思いをされるだろうが、あくまで筆者の印象なのでご勘弁願いたい。

 日本全国の埋もれた生地にHONceptを媒介として耳目を集める。日本の津々浦々に花を咲かせる「花神」の様ではないだろうか。

 前回のインタビューで触れた、渋谷西武や東京大丸以外にも、新里製本に注目している業界がある。以外なコトにそれはエンターテインメントの世界=芸能界だ。有名な若手俳優のフォトダイアリーやジャニーズのファンクラブ限定写真集を、新里製本所が製作しているのだ。

 こうした、ある種の価値観を表す書籍には、上製本の特別な風格が似合うのだろう。今流行りのエンディングノートや、スケジュール帳やダイアリーなどに、オリジナリティを求める顧客は数多くいると思われる。

 そしてもう一つ、今流行りのサスティナブルの観点からも、上製本であるHONceptは注目される素地がある。今なお、手帳やダイアリーの表紙は、リサイクルの出来ないビニール素材がほとんどである。SDGs意識が高まっている現在、完全リサイクル可能なダイアリーは、人びとに必要とされるのではないだろうか。

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