㈱東武宇都宮百貨店宇都宮本店 - 明日を目指す百貨店探訪 第2回
地域密着産業である百貨店。特に地方百貨店は地方経済のバロメーターでもあるのではないだろうか。地域一番店である地方百貨店を全国津々浦々に訪ねてその様々な実情を発信するシリーズ。
第二回【東武宇都宮百貨店宇都宮本店】 トップに聴く
買い物の満足は勿論、買い物以外の「ふれあい」、「集い」、「体験」、「相談」の提供がMUS T
㈱東武宇都宮百貨店 守 徹社長
1961 年3 月生
立教大学経済学部卒
1985 年4 月 ㈱東武百貨店入社
2013 年5 月 同社取締役販売推進部長
2016 年5 月 同社常務取締役本店長
2019 年5 月 ㈱東武宇都宮百貨店 代表取締役社長
2020 年5 月 同社 代表取締役社長兼営業本部長( 現任)
「先ずは、店舗の立地をお聞かせ下さい」
(守社長)
当店は、宇都宮市の中心に位置する東武宇都宮駅と直結している。当店の周辺地域は、近くの二荒山神社を中心に、平安・鎌倉時代には神社の門前町として発展し、江戸時代には城下町として繁栄してきた。北関東の経済・文化の中心都市として発展してきた地域である。周辺には栃木県庁、宇都宮市役所、ビジネス街、小規模飲食店を中心とした商店街等が広がっている。JR宇都宮駅へは、当店から東へ徒歩1・5キロ程である。当店は岩戸景気の1959年に開店した。当店の周辺は1990年前後までは多くの百貨店を始めとする大規模小売店舗が立地し、各店間の激しい競争があったが、移転や撤退等が相次ぎ( 別表参照)、現在は、当店だけが営業をしている。
「現状をお聞かせください」
(守社長)
昨年度2020年2月期の売上は、約200億円。コロナ禍による売上減は20%であった。これまで、インバウンドによる恩恵はほとんどなかったので、インバウンドの落ち込みはないに等しい。コロナ禍により、新幹線で宇都宮から1時間内で行ける都内や埼玉県の浦和や大宮の百貨店に行っていた顧客が宇都宮に戻ってきている現象が起きている。売場からは、「久しぶりに東武に来た。」とのお客様の声も上がってきている。富裕層の都心から地方への回帰だ。ラグジュアリー関係の売上が、コロナ禍によって増えているのは光明である。ルイヴィトン、ティファニー等、特に高額商品の売れ行きが良い。結婚披露宴を行えず、その結婚費用をエンゲージリングの高額化に充てる動向がある。
「商圏と顧客層について」
(守社長)
当店の商圏は、宇都宮市内を中心とする栃木県全域と茨城県の一部である。顧客の60%は宇都宮市民だ。このコアの客層である宇都宮市の人口は、現在約52万人であるが、2050年には減少に転じてゆく見込みである。宇都宮市としては2050年においても人口50万人を維持する将来展望を描いており、地方都市の中ではかなり希望が持てる都市だと考えている。
顧客層は、60歳~70歳台が50%を占める。一番目が60歳台、二番目が70歳台、次が50歳台だ。この顧客層の高齢化を何とかしたい。それには、次世代顧客の獲得が必要であるが、いわゆるヤングママを中心とした若い客層や2世代、3世代の世帯が来店して頂けるように手を打ってきている。刻々と変化をしている生活様式の中で、今後は30歳~50歳台の新たな需要は必ず生まれる。5Fフロアには、手芸用品専門店「ユザワヤ」をテナントに誘致した。同フロアには、リビング用品、子供服、文具、キッズスクエア( 玩具・サンリオ)、イベントプラザ( 物産展や文化催事、幼児向けキャラクターショウ・工作教室開催) を集積し、新たな顧客ターゲット層に対応する。当社は、バスケットボールのトップリーグBリーグに参加する「栃木ブレックス」のオフィススポンサーであり、グッズ販売や選手と触れ合えるイベントを開催している。イベントの開催は、親子での来店に繋がる。将来の顧客になる子供客の来店は非常に大切だ。
「東武宇都宮百貨店宇都宮本店の特色について」
〈特色① 駐車場台数約1500台》
栃木県は自動車社会であり、全国屈指の所有率を誇る県である。当然それは、来客手段にも反映されており、来客手段の90%が自家用車である。そのためにパーキングは長年をかけて充実してきた。(契約駐車場と合わせ、約1500台の収容規模)
〈特色②外商お得意様の売上が多い〉
当店の強みは外商である。外商の売上は全売上の20%を占める。外商は約30名の陣容であり、約1万件の顧客を担当している。外商員1名あたりの担当件数が多く、上位顧客層への対応が中心となり、全顧客への営業が行き届いていないのが、今後の改善点である。この1万件の顧客は個人顧客がほとんどである。外商客限定の企画として、外商お得意様専用ホームページの開設や、文化講座の開催をしている。今後は、法人に対しても目を向けていきたい。法人顧客の新規獲得の切り口の一つに、企業ユニホームがある。企業ユニホームについては、栃木県内にある東武グループ企業のユニホームは長年取引があるので、そのノウハウを活かしていきたい。また、官公庁の入札案件についても積極的に参加していく。
〈特色③催事場が北関東最大〉
当店の催事場は400坪の広さがあり、自由自在な展開が叶っている。柱が1本も無いのはかつてのボーリング場の名残り。1日の来店客数は、平日8千人、休日は12000人余りだが、催事の開催時は、これらを上回る。人気催事の時は、平日でも15000人が来場される。催事の予告は紙媒体( 新聞折込チラシ) が主力であり、この効果はいまだに実に大きいと考えている。パーキングから直接催事場に入れるのも強みになっている。
「今期以降の計画について」
〈計画①〉
コロナ禍の影響により、アパレルを中心とした取引先が疲弊しておりその経営環境は厳しくなっている。これまでのMDの構成では、もはや立ち行かなくなってしまった。これらの打開策として、我々百貨店が意志を持って運営する部分と、テナントに任せる部分とを明確にすることが必要と考えている。具体的には、B1Fから5Fの食品、婦人服、紳士服、リビング用品、呉服、美術、貴金属は百貨店の守備範囲とし、6Fから8Fはレストラン街を含めテナントにお任せする。
〈計画②〉
また、常々、店頭の魅力、価値を高めるために「モノ、コト、ヒト、ミセを磨こう!」と言っている。「モノ」は、変化する顧客の需要に対応する品揃えだ。「コト」は、体験、集い、ふれあい。「ヒト」は接客。接客には一流を求めている。一流の接客とは、お客様の期待以上の接客ができることを考えている。「ミセ」は、店舗の環境。店が綺麗、明るい、居心地の良い空間であること。ここには楽しいものがある感覚。サービス施設や、トイレが清潔であるのは重要である。これらが揃って初めておもてなしの体制が整う。
〈計画③〉
また、これまでいわゆる「顧客接点」が店頭100%に近い状態であったが、今後は早急に、ライン、ツイッター等のSNSを駆使してお客様との相互コミュニケーションを図っていきたい。
「地域活性化を目指す」
当店の周辺は、小規模飲食店が多数混在しているエリア。ここに行政と協力していかに集客をしていくかが課題。当店はこの商業地の中心的な役割を担っていく。地域の活性化があって初めて当店の繁栄がある。
当店から東側に向かってアーケードが伸びており、オリオン通り商店街がその中心にある。そこにあるオリオンスクエアは市が運営する各種イベント向け屋根付き広場であり、毎週末にイベントを開催し常に人を集めている。当店も集客に繋がるためのイベント開催の場(6F屋上憩いの広場)を提供している。
今後も、地域のニーズに合ったものを提供していく。その為に、店頭を磨き、その価値を高めていく。買い物の満足は勿論、買い物以外の「ふれあい」、「集い」、「体験」、「相談」の提供。これらがMUSTであると考えている。
(敬称略)
東武宇都宮百貨店宇都宮本店
【店舗データ】
- 店舗名 東武宇都宮百貨店宇都宮本店
- 所在地 栃木県宇都宮市宮園町5-4( 東武宇都宮駅直結)
- 開店 1959 年11 月
- 売場面積 32,633㎡ フロアB1 階~ 9 階
- 売上高(2020 年2 月期) 約200 億円(前年比20% 減)
【沿革】
- 1959 年11 月 開店(6,021㎡)
- 1972 年 新館OPEN 宇都宮最大の売り場面積になる。
- 1977 年 売上が地域一番店となる。
- 1995 年 西館増床グランドOPEN。(32,633㎡)テーマは” 素敵生活百貨店”。
スカイパーキングOPEN - 2001 年 プラザパーキングOPEN。契約駐車場と合わせ、2,000 台駐車場になる。
- 2009年 開店50 周年「 この街で、これからも。」がテーマ。
【東武宇都宮百貨店宇都宮本店の売場面積及び周辺の大規模小売店の変遷】
東武売場面積
1974 年 山崎百貨店( 閉店) 13,472㎡
1987 年 十字屋( 業態転換後・閉店) 25,633㎡
1987 年 丸井( 閉店)
1994 年 福田屋百貨店本店( 郊外移転)
2000 年 上野百貨店( 閉店) 32,633㎡
2001 年 ams 西武(閉店)
2002 年 西武宇都宮店(閉店)
2003 年 ロビンソン百貨店
2005 年 109UTSUNOMIYA( 閉店)
※現在は宇都宮市管轄イベント施設「オリオンスクエア」
2010 年 ラパーク長崎屋宇都宮
ドン・キホーテ(総合ディ