デパートのルネッサンスはどこにある? 2021年06月15日号-27

コロナ禍の1年 百貨店の今3 デパートの経営を蝕む緊急事態宣言の呪い

百貨店の多くは平日全館営業、土日は生活必需品を除き休業

【5月31日】

 東京、大阪など9都道府県に出されていた緊急事態宣言が6月1日、再度の延長期間に突入した。

 先月23日から発令中の沖縄県を含め、6月20日の日曜日まで続く。宣言が1ヶ月を超えた東京や大阪では、人流を抑制したことで新規感染者数は減少に向かっているものの、経済活動をストップさせた、ことにより、別の弊害を生み出している。専門家は緊急事態宣言の矛盾を是正するよう、声を上げている。

 緊急事態宣言の延長に突入する東京の31日の新規感染者数は260人となり、300人を下回るのは4月5日以来。大阪も同じく98人となり、100人を下回ったのは3月22日以来だ。何だかずいぶん昔の様な気がする。前回、前々回と比べ、宣言の効果が鈍くなっているのは明らかだ。

 大阪府の吉村知事は報道陣に「感染の大きな山は抑えられている。宣言延長になるが、感染再拡大を防いで減少を確かなものにする。逼迫している医療体制を解消していくことが重要」と府民に20日までの協力を求め た。

 本当に宣言の効果が出てきているのかは疑問だが、防災や危機管理の専門家からは「毎回毎回宣言を出せば引き締まるといった対応で、昨年から同じコトの繰り返しだ。政府も分科会も一切検証を行っておらず、宣言エリアの住民が、規制のない郊外、他県へと移動、越境して密を作っている、といった問題にも、何ら対策がされない」という厳しい指摘もある。 宣言延長で東京、大阪などの独自措置が一部緩和されたが、飲食店への時短営業や酒類提供の自粛などの要請は変わっておらず、支援内容にも大きな変化はない。

 時短営業は現状、デメリットの方が多くなっているという指摘も出始め、「むしろ営業時間を長くして客に分散利用させるべきだ。深夜帯の利用を促進し、一日の人の流れを標準化させれば、ある程度、企業の雇用も守られる。時短一辺倒と禁酒法の様な統制では事業主がもたない」として、逆に営業時間の延長を提案している。筆者も理にかなった提言だと思う。

 緊急事態宣言の最大の問題点は、業種や業態により規制や、受けられる支援に差があるのに、明確な説明がなされていない、ということだ。

 支援の網から外れた経営者や従業員は、いつまでも同じ状態が続くことで不満も出てくるし、「生活のために営業再開か、もしくは自殺しなきゃならない」といった、文字通り死活問題になってくる。第1波の時とは まったく違う状況になっており、こうした矛盾の是正が必要なのだ。

 その上で、知事が住民に対し、さらなる「お願い」だけを繰り返すことに「精神論みたいな話で指摘する矛先が違う。国民はすでに疲弊しきっているし、国に向かって矛盾の是正を指摘するのが先だ」という主張はもっ ともだ。

 東京を含む首都圏では、百貨店を始め、ほとんどの商業施設は、土日を含めた「営業再開」に舵を切った。このまま我慢をして「お上の決めたルール」を守っていても、「誰の得にもならない」からだ。

 ビートたけしのギャグ標語ではないが、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という状態だ。

【6月4日】

 開催まで50日を切ったオリパラについて、政府分科会の尾身会長は「パンデミック下のオリンピック開催は普通ではない」と発言。これに対し田村厚労相は、あくまで「自主的研究」として、正式な提言として受け取らない、とした。

 コトあるごとに、「専門家の意見を聞いて」を隠れ蓑に、後手後手のコロナ対策を取り繕ってきた政府首脳が、いざその専門家から自分達に都合の悪い発言があると、矮小化どころかスルーする。国民の意見も、専門 家の意見も聞かず、オリンピック開催に邁進する政府与党。ワクチン接種一本鎗で、日本は持ちこたえられるのだろうか。菅首相はじめ、行政トップの「こうした」ご都合主義の対応が続けば、国民はこの後もずっと、緊急事態宣言下に置かれることになりかねない。残念だがこれが「日本(政府)の現実」だ。

 言うまでもないが、政権与党を「選んだ」のは我々国民だ。責任は主権者たる我々にあるのだ。このことを、最低でも秋の選挙までは、覚えておいて欲しい。

 蛇足だが、今まで「ほぼ」政府の意向に沿い、その感染対策を指示してきたのは尾身会長自身だ。しかし、さすがにこのままオリパラが強行され、「感染爆発」を招いたら、責任が取れないと気付き、政府の反発を覚悟での「アリバイ」発言では、と言ったら「うがちすぎ」だろうか。何だかだれも信用できなくなって来た。

 「百貨店の今」を語る前に、緊急事態宣言下の「日本の今」を語って今回で3号目となってしまった。続けて、本編をお読みいただきたい。三越伊勢丹、大丸松坂屋と続き、今回は髙島屋を飛ばして、第4極である、 そごう・西武だ。

 苦戦を強いられている、大手百貨店の中で、そごう・西武は、もはや「周回遅れ」の感がある。
親会社であるセブン&アイの決算から読み解く。

【2020年度(コロナ禍)】

 営業収益は4404億円( 前期比26・6%減)、営業損益にいたっては67億円の赤字( 前期は1・7億円の黒字) に転落した。経営不振は前年より更に深刻化している。

 コロナ禍で客数が大きく減り、主要店舗は軒並み減収。旗艦店の「西武池袋本店」も、外出自粛の影響により売上高が前期比24%減の1385億円に激減した。特に落ち込み幅が大きかったのが、売上高が4割減となった「西武渋谷店」だ。渋谷店はコロナ禍以前、店舗売上高のインバウンド比率が1割を超えていたため、訪日客需要の蒸発による打撃が大きかった。

 そごう・西武の2021年2月期の既存店売上高は、2019年に消費税増税後の反動減があった10月を除き、すべての月で前年実績を大きく下回った。

 宣伝費や陳列装飾などの経費削減のほか、「そごう徳島店」をはじめ不採算となった5店舗を閉店したものの、売上高の激減には抗えなかった。もはやリストラの余地も乏しく、長引く経営不振で店舗のスクラップを続けた結果、現在のそごう・西武の国内店舗数は10店と、2006年のセブン&アイHDによる買収時から3分の1にまで縮小した。

 コロナ禍での外出自粛が打撃となり、そごう・西武の旗艦店「西武池袋本店」の前期売上高は2割以上減った。

 売上の減少が続く「西武秋田店」と「西武福井店」は、店舗面積を縮小して改装を進めている。もはやリストラでの収益改善余地も限られるだけに、コロナ禍でも堅調な販売を見せる富裕層向けビジネスの拡大など、具 体的な売り上げ確保策の打ち出しが急務だ。この「富裕層シフト」については、前々号の三越伊勢丹、前号の大丸松坂屋の回でも、両グループのトップが言及している。セブン&アイHDは、アメリカのスピードウェイ事業買収をこの6月までに完了させ、その後に新たな中期経営計画の発表を予定している。

 2020年2月期を最終年度としていた前回の中期経営計画では、イトーヨーカ堂もそごう・西武も、掲げた利益目標を大きく下回る結果となった。成長事業の見通しだけでなく、「お荷物事業」の再建の道筋をどう示すのか。中期経営計画発表時に開かれる会見での、経営陣の説明に注目が集まる。

 以上は2021年2月期の発表であり、当然スタートからコロナに明け暮れた2020年度の「不振、苦境」である。しかし、そごう・西武は他の大手百貨店グループ(三越伊勢丹、大丸松坂屋、髙島屋、阪急阪神)とはいささか事情が異なる。インバウンド売上が蒸発し、非常事態宣言によりやむなく休業した「コロナ禍」の以前から、そごう・西武のセブン&アイグループ内での「お荷物状態」は始まっていたのだ。

 1年前(コロナ前)に遡り、セブン&アイが頭を悩ます、そごう・西武の実態を探る。

【2019年度(コロナ前)】

そごう・西武は2020年2月期の営業収益が6001億円(前期比2・5%減)、営業利益が1・7億円(同94・7%減)にとどまり、目標とした2020年2月期の営業利益130億円の1%程度でしかない。

地方店舗

 そごう・西武については、2021年2月期に西武大津店(滋賀県大津市)など、関西を中心に5 店舗を閉鎖した。2005年に30店あった店舗網は、2021年2月末には10店舗まで減少した。秋田県と福井県の 2店舗は残すが、店舗面積を縮小する計画だ。親会社であるセブン&アイは、もはやそごう・西武にかける余力はないのだ。

都心店舗

2020年2月期に売上高1823億円を稼いだ旗艦店の西武池袋本店に加え、そごう横浜店や、そごう千葉店は収益性や客数についてグループでも、「最上位」の評価を下している。こうした主力店舗では、化粧品や高級品、食品の販売強化のための投資が継続して行われていた。

郊外店のテナント化

 一方、郊外型と呼ばれる西武所沢S.C.や西武東戸塚S.C.では、改装を行いユニクロなどのテナント比率を高めている。

 この西武S.C.については、昨年、2020年8月1・15日合併号でも取り上げている。

※以下再掲

【百貨店の「生き残り策」の一例として「テナント化」を考える。ショッピングセンター化とも呼ばれるが、実態としては従来百貨店自身が自主編集していた売場に代わり、その区画にテナントを誘致し、ショップの運営を任せることだ。

 今までも、ブランドショップや飲食店、食品総菜店など、この方式を併用していたが、近年テナントシェアは増大の一途を辿っている。都心一等地の有名百貨店でさえ、ロフト、ユニクロ、無印良品、ニトリ等のメ ガストアを誘致する例が増えている。

 デパート側は大型の集客核が増え、周辺商品の需要喚起に繋がる上に、大幅な人件費削減の達成が可能である。顧客側も生活必需品が、交通至便な駅前で手に入るのだから、運営側、消費者側ともにWIN – WINな結果と言える。

 2020年6月上旬にリニューアルが完成した西武東戸塚S.C.はテナント化した百貨店の典型例だろう。これは前年11月に一足先にリニューアルを終えた西武所沢S.C.に次ぐ西武・そごうのショッピングセンター型百貨店の2号店だ。

 所沢西武S.C.目玉は大型家電量販店であるビックカメラの他に、かつては同じ西武セゾングループであったロフトや無印良品をはじめ、GU、ユザワヤ、ABCマート含め120店舗を導入した。これでB1Fの食品から2、3Fのレディスファッションゾーンを除き、館全体の75%をテナントに譲り、定借化した。本業である百貨店の自主編成売り場を、4分の1に縮小した西武S.C.は、例え一部マスコミが「ハイブリッド型百貨店」と、もてはやしても、筆者の目には「もはやデパートとは呼べないのではないか」という思いが強い。】

 鳴り物入りで実行されたテナント化だが、業界内からは「視察に行ったが店内はガラガラで、そのうちテナントも出て行くのではないか」との声も上がる。

セブンの試練

 ある小売業界関係者は「イトーヨーカ堂は売上高が大きいだけに、改善すればリターンが大きくなる。しかも、食品など生活必需品を取り扱っており、ターゲットとなる客数も多い。だが、そごう・西武は主力以外の店舗は元々業績が悪く、今後の期待値も低いため、首都圏の店舗の一部を除き、最終的には売却せざるを得ないのではないか」と指摘する。

 アフターコロナの時代には小売業全体が、これまでのビジネスモデルからの脱却を迫られる。リストラ頼みでは、利益成長もいずれ限界を迎える。これまでの「国内のセブン- イレブン頼み」という構図を変えることができるのか。セブン&アイHDに新たな試練が待ち受けている。

 そごう・西武にとっては、コロナ前から既に「試練」は始まっていたのだ。それにコロナが追い打ちをかけた格好だ。

デパートという海

 量販店である「イトーヨーカドー」から、日本におけるコンビニエンスストアの草分けである「セブンイレブン」で、圧倒的な業界1位の座に君臨したセブン&アイ。彼らが最後に乗りだしたのが百貨店という海原だ。 遂にセブン&アイが、高級ブランドまで扱う「小売の王様」の一端を担うこととなったわけだ。しかし、そこは富裕層を顧客とする老舗競合が跋扈(ばっこ)し、元々ブルーオーシャンとは到底呼べない業界だ。彼らはデパート業界という、レッドオーシャンどころか、サルガッソーの様な「深み」にはまってしまった。

※サルガッソー海
北大西洋に位置し、4つの海流に囲まれているため、船が抜け出せなくなる「魔の海」であるとの伝説がある。

 加えて、百戦錬磨のセブン&アイであっても「新型コロナ」によるパンデミックの襲来は、さすがに予想出来なかった。もちろん予想していた小売業界人は誰一人居なかったわけだが。

並行世界(SF)

 歴史に「タラれば」は、もちろん禁物だが、その「もしも」を考えるのは筆者だけであろうか。寿命が尽きそうな(失礼!) 百貨店業界ではなく、楽天やZOZOの様な「ネット通販」に参入していたら、と。アマゾンに対抗する一大ECグループを作っていたら、と。歴史に「後出しジャンケン」の議論が不毛なことは、充分承知しているつもりだが。当時、ダイエーとの量販店の覇権争いを勝ち抜き、更にコンビニというブルーオーシャンを開拓し、業界トップの地位を得たセブンであれば、次のチャレンジは小売の「チャネルを変革する」ECという大海原が相応しかったのではとつい考えてしまうのだ。自分は業界紙の記者ではなく、SF作家になった方が良かったのかもしれない。
今真剣に悩んでいる。

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