デパート新聞 第2662号 – 令和3年4月15日

2月全国は10.7%減

 日本百貨店協会は、令和3年2月の全国百貨店(調査対象73社、196店〈令和3年1月対比±0店〉)の売上高概況を発表した。売上高総額は3223億円余で、前年同月比マイナス10.7%(店舗数調整後/17か月連続マイナス)った。

百貨店データ

  • SC販売統計2月
  • 都市規模別・地域別売上高伸長率
  • 神奈川各店令和3年2月商品別売上高

横浜髙島屋 食料品売り場が1.5倍に

2021年3月中旬、日本最大級のデパ地下・パン売り場が誕生

ベーカリースクエア入り口

 横浜髙島屋は、相鉄ジョイナス地下一階の一部(1700㎡)に出店し既存の食料品フロアと一体的な売り場とする計画を進めてきたが、今回最終4期目となるエリアを2021年3月8日(月)にプレオープンし、3月24日(水)にグランドオープンした。「ライブ感」にこだわり、「出来立て・焼き立て」を提供するブランドを中心に14区画がオープンし、食料品売り場は5000㎡と約1・5倍(2019年8月比)に増床し、日本国内でも最大級となるデパ地下が完成した。
国内最大級のパン売り場「ベーカリースクエア」が出来たほか、海外でも人気のブランドや横浜髙島屋デビューのスウィーツ店、話題のヴィーガンも取り入れた地中海・アラビア料理のデリカテッセンや“おこわ専門店”が手掛ける大きな鉄板でライブ感を演出する洋食店がオープンした。

40ブランド500種類以上のパンが日替わりで揃う国内最大級のパン売り場

 約400㎡の売り場に、地元横浜で人気のブラフベーカリーや女性に人気のジュウニブンベーカリーをはじめとする約40ブランド・500種類以上のパンを取り揃える国内でも有数の規模を誇るパンコーナー「ベーカリ-スクエア」が誕生した。横浜駅前の好立地の売り場に多品種のパンが揃い、ワンストップで買い物が出来る利便性が多くの買い物客を集めている。店内厨房で焼きあげるパンの香ばしい香りが広がる売り場内では、イートインスペースも併設されており出来立ての味を楽しむことが出来る。パン業界の未来を切り拓く「カナガワベーカーズドック」(地元パン屋売り場)

カナガワベーカーズドック

カナガワベーカーズドック
カナガワベーカーズドック案内

 パン売り場の中心に売り場の約35%を占めひときわ人だかりが目立つのが「カナガワベーカーズドック」である。ここは、パン職人とパン好きの顧客をつなぐ㈱ハットコネクト(本社横浜)と横浜髙島屋が共同で開発した、神奈川県下のパンを集めた編集型ショップで、約30ブランド・約200種類のパンが日替わり週替わりで登場する。

 神奈川県内には「確かな腕」と「素材や製法にこだわる」パン職人が多い一方で、知名度や従業員・後継者不足や、利益が出ないため廃業せざるを得ない店が少なくない。そうした中で、地元のパン職人を知ってもらうことや販売機会を創出すること、パン業界の未来を切り拓くことを目的にカナガワベーカーズドックがオープンした。売り場には町のパン職人の顔写真とコメントがパンの横に飾られ、顧客はひとつひとつパンと店の紹介とを見比べながら買い物ができる。パンの包装にはQRコードが印刷されており、原料や店の情報を知ることが出来、安心して買えるようになっている。中には、「横浜髙島屋で買って美味しかったから買いに来た」と直接来店する顧客もいるという。

 売り場の担当者である赤堀悦子販売担当係長は「パンはその日の焼き立てを集荷して店に並べます。パン屋さんは売り場に人を出す必要もなく、パンを作るだけでいいのです。神奈川には、本当においしいパン屋が沢山あります。横浜高島屋に是非来てほしいと望んでいらっしゃるお客様の声に応え、もっともっと多くのパン屋に出店を声掛けたい」と意気込む。

予想を大きく上回る売り上げ

 売り場が開業して約1か月の売れ行きは、コロナ禍にも拘わらず目標の1・5倍に上る好調ぶりである。客層は、主婦、ファミリー層、勤め帰りのサラリーマン・OLと多様である。いろいろなパン屋が一堂に会し、多品種で毎日来ても飽きないことや、知らないパンとの出会いや、新たな発見を求めパン巡りする楽しみを作り出しているようである。

次世代育成とSDGsへの積極的な取り組み

 次世代育成の観点から、地元の国際フード製菓専門学校(横浜市西区)の学生が製造した「ホワイトカリーパン」や「くるみそパン」などオリジナル商品の販売も行っており、毎日売れ行きや顧客の声をフィードバックすることで将来を担う専門学生の育成支援に取り組んでいる。現在は少ないものの閉店後の売れ残りパンについては、冷凍してネット販売や、堆肥化しカボチャ、サツマイモ、ハチミツ等を育てる農業に利用する環境保全活動、食品ロス削減など「SDGs(持続可能な開発目標)」の取り組みも積極的に展開することとしている。

大型競合店との差別化図る

横浜高島屋が位置する横浜駅西口に、2020年6月に開業した駅ビル「JR横浜タワー」(地上26階建商業施設1階〜10階、オフィス12階〜26階)などに対しては、次世代育成などの取り組みにより若い世代を取り込むことで差別化を図ろうとしている。

地方百貨店の時代 その14 – アダムスミス 重金主義からの脱却

デパート新聞社 社主
田中 潤

 デパートは、商業でありモノを売って売上を作ること或は利益を上げることを事業の目的としている。このことが、あまりに強く社内外に定着したことで、誰もこれを疑わない。しかし、地方百貨店の再生には、この常識を覆すことが必要である。

 近代先進国では、商業を発展させていく過程で金銀・貨幣をとにかく集めることを戦略とした重金主義が発達した。固有のモノよりも、金銀・貨幣こそがすべての財の中心を成すと考えることが商売の基本となったのである。

 つまり、モノの価値を評価するということを疎かにして、お金をかき集めることを優先させていった。本当に価値があるのは、貨幣と交換できるモノそのものだ。貨幣を富と錯覚することは、貨幣を得ることを最優先して商売をすることに直結する。

 デパートにおいての売上至上主義はまさにこの思想を源としており、デパートの文化性を広めた創業者たちの理想は埋没してしまった。1970 年代からの拡大資本主義の歪みともいえよう。

 結果的に、デパートから最も大切な文化資産である遊びや無駄の思想が否定されることにもなり、非常につまらない場をもたらすことになった。翻って、今のデパートはモノを売ることさえも放棄し、スペース貸しで事業を成立させようと躍起になっている。そこには、重金主義と同じ視点の貨幣獲得至上主義が垣間見えるのである。自らが交換価値のある優れたモノを集め、顧客が心地よく楽しめる場を提供するという本来のデ パートの在り方は、重金主義とは相容れない。誰もが当然に感じるこの人間としての幸せの場づくりを、まず優先させる店づくりが必要なのである。

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 今年も花を楽しむこともなく、葉桜の時期を迎えている。
桜たちは、この30年ばかりで、満開の時計の針を1週間以上縮めてしまった感がある。気候の変動を最も身近に感じさせる現象の1つと言えるだろう。

 初々しい姿の新人社員がオフィス街を賑わせる景も、コロナ禍は奪ってしまっている。

 記憶の中にある季節感が、環境破壊というゆっくりと確実に進んでいる病魔のために失われていこうとしている。

 自然そのもののせいではないはずの人為的な過ちを断罪しないと取り返しがつかない時が迫っていることが少しずつ見えてきた。

無駄の物語 part10

犬懸坂祇園
作詞、作曲などをしております

バーチャルオフィス体験

 コロナ禍でテレワークが増える中、新しい仮想空間の中でアバターを使ったバーチャルオフィス生活を体験するシミュレーションソフトが生まれた。

 常に仕事をするというのでなく、休憩したり、同僚と話をしたり、通常オフィス内で行われる日常生活を体感することで、コミュニケーションの生の感覚を自覚させることが狙いのようである。

 パソコンを使ってのリモート業務は、いかに無駄なくモノを仕上げていくかという合理的発想に支配された時間になる。その中で、本来の人間の営みであるコミュニケーションを通して無駄な時間の大切さを想起さ せる、ということが大きな目的であろうことは容易に理解できる。

 仕事とは、自分一人の思惑ですべてを作り上げていくものではなく、そこにいる仲間との協同作業である。自分だけの合理的基準を築き上げてゴールに向かって一直線に進んでも、本当のゴールは別の場所にあったという結論になることも多い。無駄な営みの意味

 一見、くだらないように思われる仮想空間での営みによって、無駄なことと思えていた1つ1つのことが全体の流れを構築するためには欠かせなかったということが見えてくるはずである。

 よく、様々なゲームをすることで発想力を鍛えるとか、集中力が増すとか、いろいろな理屈をつけて、その効果を合理的に結論づけようとするが、そんな難しい理屈は不要である。

 合理性のないゲームは、全力で無駄なことをするものだからこそ、その人に付加価値をつけてくれるのである。

人事異動

エイチ・ツー・オーリテイリング㈱

㈱阪急阪神百貨店

㈱三越伊勢丹ホールディングス

㈱三越伊勢丹

連載:デパートのルネッサンはどこに有る? – 百貨店は『絶滅危惧種』なのか

あるアンケート

 百貨店の利用について、1万人以上に聞いたアンケートがある。その調査によると、百貨店に半年に1回以上行く人は約45%、月に1回以上行く人は 20%弱となった。百貨店の利用率は減少傾向が続いており、2018年からは年々、減少幅が大きくなっている、という。

 他の商業施設ではなく、百貨店を利用する場面としては、「デパ地下を利用する時」が38.9%、「菓子折り、お土産、差し入れなどを購入する時」「プレゼントを購入する時」がそれぞれ20%台だった。よく読むと、菓子折りや差し入れも、実体としてはスイーツ( お菓子) である。つまり、自家需要の総菜で4割弱、食品のギフト需要で2割強ということである。結果、実質百貨店利用の60%が食品= デパ地下での購買であることが判る。

 本紙前号(4月1日号)でも触れた様に、ファッション離れが加速する百貨店にあって、デパ地下がデパートの生命線となっている事の証左であろう。

 最近、百貨店以外で購入するようになった商品がある、と回答した人は、百貨店利用者の50%弱おり、前述のファッションに限らず、コロナ禍での顧客の脱都心志向が、脱百貨店傾向を、生み出していることが読み取れる。

 百貨店の魅力については、「高級感がある」(41.8% )「商品の品質が良い」(29.0% ) などがあげられ。逆に不満については、「価格が高い」が64.1%で、「店員が煩わしい」(13.1% ) を大きく上回った。店員が煩わしいは減少傾向であり、以前にも増して「百貨店= 高価」の図式が顧客の意識にあるようだ。

 興味深いのが、利用頻度が高い層になるほど「欲しいブランドを扱っていない」という回答の比率が高くなっていることだ。このまま高額購買者の百貨店離れが進めば、正にその存在意義が問われる事態と言える。

 ※因みに、回答者のプロフィールを見ると、男女比が男性55%に対し、女45%。年齢別では20代までが3%、30代9%、40代22%、50代30%、60代以上36%となっている。

続きは デパートのルネッサンスはどこにある? 2021年04月15日号 を御覧ください。

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