デパート新聞 第2659号 – 令和3年3月1日

1月東京は33.8%減

 日本百貨店協会は、令和3年1月東京地区百貨店(調査対象12社、25店)の売上高概況を発表した。売上高総額は856億円余で、前年同月比マイナス 33.8%(店舗数調整後/16か月連続マイナス)だった。店頭・非店頭の増減は、店頭マイナス36.5%(88.6%)、非店頭マイナス1.0%(11.4%)となった。
()内は店頭・非店頭の構成比

百貨店データ

  • 3社商況1月
  • 1月店別売上前年比(%)
  • 都内各店令和3年1月商品別売上高
  • 関東各店令和3年1月商品別売上高

人事異動

㈱松屋

地方百貨店の時代 その11 – 公益と営利の両立

デパート新聞社 社主
田中 潤

 デパートは物を売るという一点で営利事業である。しかし、その活動の中には公益という側面が多くある。公益とは、不特定多数の人に最大の幸福をもたらすことを言う。デパートはかなりそれに近いところにいるのである。しかし、決定的に異なる点は、デパートは特定の顧客に対してサービスを行なうところであるという点だ。つまり、「誰のためにもなること」は、デパートの事業の目的に反してしまうわけである。

 確かにここを徹底的に追求していけば、デパートは純粋に営利事業であるということを否定することは出来ない。しかし今、世界的に企業は株主第一主義を排し、広く社会に対する役割を果たさなければならないといわれており、利益追求よりも地域や従業員、更に環境、自然を重視すべきであるという考え方は常識となりつつある。コンシャスキャピタリズム(思慮深い資本主義)である。つまり地域を強く意識して事業を行なわなければならない百貨店は率先してその傾向を強めていく必要があるのだ。

 利益追求は、売上追求とほとんど同意義である。目先の利益が重要度を無くしている今、経営者は売上至上主義からの脱却を地域と従業員との係わりの中で積極的に進めていくことがポイントになる。営業時間、休店日などの基本的事項から、売り場の商品の構成、人員の配置、地域の活性化のためのイベントなど、ローカルな場を意識した店の運営を具体的に一つ一つ心掛けるのである。

 加えて、多くの消費者はエシカル、倫理的消費を求めている。デパートに対して度を越した低価格の要求や無謀な接客を求めてはいない。消費者も、社会における自分たちの役割を変化させてきているのである。デパートが地域の環境に配慮した指針を示すことで多くの消費者は敏感に反応し、デパートと強い一体感を持つはずである。それでこそ、デパートを核とし、地域の特性を活かした街づくりが出来ることになる。デパートが地域のランドマークとしての役割を果たすことが、そのまま公益と営利の両立につながるのである。

  緊急事態宣言によって、飲食店は夜間の営業中止を余儀なくされ、その代わりに1日6万円の給付金を受給している。この6万円、事業者の規模に係わらず一律ということで大いなる不公平が生じている。

 店主一人で1日2万円程度の売上の店は、仕入原価や経費を差し引けば利益(店主の取り分)は数千円というのが当り前の時代だ。それが、毎日6万円の補助が出るというのだから、大変な利益増になってしまうことになる。一方、従業員を抱え広いスペースを使い、高い家賃を支払っている事業主は1日の売上20万円で粗利益が15万円あっても、経費が12万円かかれば利益は3万円となる。6万円の給付金をもらっても、売上0では固定経費が6万円以上かかれば毎日の赤字は積みあがっていくばかりである。つまり、売上も経費も多い店ほど給付金が一律では不公平になっていくのである。

 なぜ、新型コロナウィルスが発生して1年経ち、既に最初の緊急事態宣言が出てから10カ月も過ぎているのにこうした極めて当り前の矛盾に対する準備が出来なかったのか理解に苦しむ。飲食店以外でも緊急事態で重大な影響を受けている美容院・鍼灸院・マッサージ店などの事業者は給付の対象になりもしない。「少しでも迅速の対応をするために一律にした」などと、どの口が言えるのだろうか。おそまつ行政のツケはすべて国民に降り掛かってくるのである。

無駄の物語 part7 災害ボランティア

犬懸坂祇園
作詞、作曲などをしております

 災害が起きると、被災者捜索や住宅復旧など様々な場面で災害ボランティアの方々が駆けつける。彼らの勇気と優しさにはいつも頭が下がる。しかし、こうした人たちへの経済的利益は全く補償されていない。フィーが払われるどころか、交通費や消耗品費、更には仕事を休んだことによる減給損は自己負担である。つまり、活動に参加することに対する有機的契約は全くないのである。

 経済的利益を得ることが目的ではない仕事は、通常あり得ない。彼らが行うことは、重大な使命感を担っている大変な仕事であるはずなのに、仕事とみなされていないことになる。つまり、その観点からは、彼らは無駄なことをしているのである。おそらくはっきり得られると思うのは、自己実現という達成感であろう。何物にも代え難い使命感を心に抱えて、災害現場に臨むのである。

 災害ボランティアの方々の行為がなぜ尊いのかは、この無駄なことをしているという観点からはっきりフォーカス出来る。つまり、人が潜在的に感じる自分が動くことに関する合理的基準を無視して動くからである。しかも、これは本来の自身の仕事以上に厳しい仕事であろう。特定の誰か、つまり自分が向き合っている人でなく、何の縁もない不特定多数の誰かのために自らの肉体と精神を提供するのである。

 災害ボランティアは自らの合理性を封じ、目に見えない誰かのために役割を担うのであり、ここにこそ筆者が唱える最上の無駄があると考える。この視点を日常の中でも誰もが持つことが出来れば、社会は本当に思いやりの溢れる幸せの場になるのだが。公益活動には、まさに無駄なことを進んで行おうとする自己統制意識が必要である。まだ、日本社会においてこうした教育が実践されていないことは非常に残念である。

連載:デパートのルネッサンはどこに有る? – 大丸松坂屋の2021年1月実績から、緊急事態宣言下のマイナス影響を探る

 本紙デパート新聞では、毎月1日号の1面に東京地区の百貨店の売上と、大手3大デパートである、三越伊勢丹、髙島屋、大丸松坂屋の概況を掲載している。本欄と合わせてご覧いただきたい。

 去年2020年3月から始まった「コロナ禍」も、間もなく丸1年が経過することになる。そんな中で、昨年4月7日に全国に発出された緊急事態宣言が、2021年1月8日に再度発出された。

 売上数値を比較する一年前の2020年1月と言えば、まだ日本のマスコミも(世界中のマスコミも同様だが)、中国の武漢で新型コロナウィルスによる感染者が…という、どこか他人ごとの、正に対岸の火事の様なイメージで捉えていた。

 それからは、2月3日にダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に到着し、新型コロナを巡って、オリンピック・パラリンピックの延期を挟み、日常と非日常との間の状況のまま、コロナ禍の1年が過ぎようとしている。

 従って、1年前の大丸松坂屋の売上は、コロナ影響ほぼゼロの、誰もがごく普通に日常生活を送り、夏のオリンピックの開催を疑いもしていなかった時の売上である。

 話を2021年の1月に戻そう。

 およそ7か月半ぶりの、2回目の緊急事態宣言の影響により、百貨店各店は再度、大幅な売上マイナスに陥った。もちろん今回は、理不尽な全面休業ではないものの、都心立地の店舗ほど、より深刻な客数減に、見舞われた。

 今回の緊急事態宣言は、首都圏一都三県や関西圏、名古屋、福岡等のいわゆる大都市圏に限定されたが、大手百貨店は正にその「大都市」に出店を集中させているので、その被害は甚大だ。以下、最も売上マイナスの大きかった、大丸松坂屋の1月の売上から、概況を整理していく。

続きは デパートのルネッサンスはどこにある? 2021年03月01日号 を御覧ください。

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