デパートのルネッサンスはどこにある? 2025年5月15日号-第115回 西武百貨店池袋本店、店長に寺岡労組委員長
4月23日、デパート業界に久々のビッグニュースが飛び込んで来た。
本紙で何度も単独インタビューを敢行した、そごう・西武労組の寺岡委員長がニュースの主役だ。
ニュース


そごう・西武は23日、旗艦店の西武池袋本店の店長に労働組合の寺岡泰博中央執行委員長をあてるという、異例の人事を発表した。
尚、現店長の久保田俊樹氏は顧問に退く。
寺岡氏は2023年にセブン&アイ・ホールディングス井阪社長による外資系ファンドへのそごう・西武売却に反対。旗艦店である池袋西武を休館しストライキに打って出た。そして同年8月31日、同社組合員とともに池袋の街をデモ行進した。
今回の人事は従業員の信頼が厚い寺岡氏を店長に据え、現在改装中で、年内完成を予定している西武池袋本店のオープンに万全を期す構えだ。それは筆者ならずとも透けて見える。
但し、筆者周辺ではリニューアル工事の大幅な遅れがささやかれている。夏過ぎに、食品売場等の再開はあるにしても、中~上層階の開業は、年内には難しいのでは、という観測が大勢を占める。
人事異動
人事は4月23日に開催された、そごう・西武の取締役会で決定され、就任は5月1日付。
寺岡氏は1993年に西武百貨店に入社し、スポーツ用品や婦人服売場を中心にキャリアを積み、併行して組合活動にも従事していた。
2018年から、セブン&アイの子会社となったそごう・西武の中央執行委員長を務めている。そごう・西武を巡っては2023年に親会社だったセブン&アイによるフォートレス・インベストメント・グループへの売却について、セブンの井阪社長からそごう・西武労組への説明がなく、組合側が情報開示を強く求めた経緯がある。
労組はセブン側の売却後の事業計画や、雇用継続について反発を強め、百貨店業界で61年ぶりとなる店舗でのストライキを実施した。
※この辺りの経緯については、拙著「セブン&アイはなぜ池袋西武を売ってしまったのだろう」(歴史探訪社刊)に詳しい。寺岡氏への複数回のインタビューも収録しているので、ご興味のある方は是非ご参照願いたい。
ストライキ
寺岡氏は一昨年(2023年)8月31日のストライキを主導し、実際にデモ隊の先頭に立った。 そして、そごう・西武がフォートレスに売却された後も、委員長として労使協議で従業員の待遇改善に取り組んできた。
そごう・西武は23日、寺岡氏の人事の狙いについて「会社の再生計画を十二分に理解し、創業以来の大規模改装を完遂する上での統率力を持つ。旗艦店舗の収益最大化をけん引できる」と説明している。
本コラムの常連の方は、「またその話か」と辟易されているとは思うが、池袋西武はフォートレスと連携するヨドバシカメラの本館北側への出店により面積が半減する。因みにレストランもヨドバシフロアとなる。
現在改装中の「ルイ・ヴィトン」や「エルメス」などの高級ブランド、化粧品、デパ地下の食品にアイテムを絞り込み、富裕層シフトし、高効率の「新しい百貨店へ」生まれ変わる。としている。
テーマは「INCLUSION(インクルージョン)」。特定の価値観で閉じられた贅沢ではなく、お客さま一人ひとりに、ひらかれた贅沢を提供するために。世界基準の百貨店へ。
あまり聞いたことのない言葉を、平気でキャッチコピーとして使うところが西武らしい。
いや、褒めているのです。西武ファンなので。
とにかく本紙としては、と言うか筆者としては、最大限のエールを寺岡新店長に送りたい。
そして再度インタビューをお願いしたいと思う。
2024年度百貨店売上ランキング
実は、本コラムはここからが本題だ。
デパート業界の、前年度の数字がまとまって来たので確認していきたい。
日本百貨店協会が発表した全国百貨店(70社、178店)の2024年1~12月売上高は、前年比6・8%増の5兆7722億円となり、4年連続のプラスとなった。コロナ禍前の2019年対比で3・6%増となり、インバウンドが数字を押し上げたことに疑いの予知はない。訪日外国人による売上は金額、買上客数ともに過去最高を記録した。
※【2024年度】全国百貨店売上高ランキング(速報値)の表をご参照願いたい。
※JR名古屋髙島屋は専門店街ゲートタワーモールの売上を含む、としている。蛇足だが、筆者的には横浜髙島屋の売上に相鉄ジョイナスの売上含める様な違和感がある。
※尚、そごう・西武は2023年度から売上高を非公表としている。
それでも西武池袋本店については年間売上1400億という推計値もあり、これが正確だとすれば、実質は全国8位の売上となる。
ちょっと不謹慎かもしれないが、ろうそくの炎は消える直前に明るくなる、という「たとえ」を思い出した。
ランキング上位は



伊勢丹新宿本店、阪急うめだ本店、JR名古屋高島屋、三越銀座店がそれぞれ過去最高の売上高を更新した。
特に伊勢丹新宿本店はインバウンドによる売上が過去最高となったことと、それら免税売上を含めた富裕層による外商売上やラグジュアリーブランドや宝飾、アートといった高額品の売上が好調だったことが主要因だ。
一方で西の横綱「阪急うめだ本店」はインバウンド売上が店舗別で全国1位となる559億円(半期)を記録した。大阪エリアでのインバウンドの盛り上がりは後述する。
2023年と2024年の百貨店売上に関しては、ほぼ「大手百貨店の伸び=インバウンドの伸び」と見て間違いないだろう。
ナンバーワンの新宿伊勢丹は2024年度も、前年度に引き続き二桁成長をキープしている。
元々の売上実額の高さを考えれば「及第点」以上の成果と言って良い。但し、物理的な飽和状態(効率の限界)に近づいているとも言える。新宿店であれば、たとえ改装は出来ても増床が容易であるとは思えないからだ。
銀座と梅田
前年の2023年度にインバウンドパワーを実感させたのは、ついに1000億の大台に乗せた銀座三越(+35・6%)だ。前年17位からの7ランクのジャンプアップとなり、翌2024年度は200億上乗せし、更にランクアップしている。
関西勢では、2023年度のうめだ阪急と大阪髙島屋の20%超のアップから、商都大阪の懐の深さを特筆すべきだろう。素人考えでも、外国人観光客の「京都観光から大阪でショッピング」という流れは理解できる。
もちろん大阪自体が、グルメネタの宝庫であることは言うまでもない。
インバウンドの恩恵
ここからは、都心百貨店躍進の源泉である、インバウンド売上を軸に見ていこう。尚、インバウンド売上シェアナンバーワンは、髙島屋含めた大手4社ではない。
インバウンドシェア
松屋銀座 50%
大丸心斎橋43%
銀座三越 41%
うめだ阪急31%
博多阪急 26%
京都大丸 23%
インバウンド売上高
うめだ阪急559億
新宿伊勢丹383億
大丸心斎橋359億
松屋銀座 300億
銀座三越 243億
髙島屋を除く大手3社、J.フロント リテイリング、三越伊勢丹、エイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)のグループ別の免税売上シェアを比べてみる(髙島屋は残念ながら非開示)
J.フロント
大丸心斎橋が実績トップであり、京都、札幌が続く。売上高全体に対する免税売上高の占める割合は、当然観光人気の順を示している。
心斎橋43・4%
京都 23・3%
札幌 16・3%
名古屋飛ばし?
一方、グループ相方の松坂屋勢は、名古屋店の売上高は年間1300億円超の基幹店だが、免税売上高は半期で59億円と、その割合は6・2%程であり、インバウンドの恩恵は正直低い。
髙島屋
JR名古屋タカシマヤは数値を公表していないが、インバウンド売上は昨年から倍増している。結論として、元々インバウンド影響の少ない名古屋において、松坂屋名古屋店とJR名古屋タカシマヤとの差は歴然としている。
ゲートタワーモールを含め、名駅でインバウンド客のショッピングは済んでしまう。買い物以外のグルメも名鉄、近鉄、地下街含め、名古屋駅周辺の充実ぶりは明白だ。よほど旅慣れていないと、松坂屋のある繁華街の栄や大須にさえ、足を運ぶメリットはほとんどないと言って良いだろう。
名古屋の方には申し訳ない。筆者の感想だ。他の百貨店でも、インバウンド需要の偏りは明らかだ。
三越伊勢丹
基幹店の伊勢丹新宿店でインバウンド売上が最大で、その占める割合も19%と高い。とは言え、売上高で新宿に次ぐ日本橋三越本店はそうでもない。
インバウンド売上2位は半期で240億円以上を売り、免税割合が40%を超える銀座三越。銀座人気は明白だ。
H2O
阪急うめだ本店のインバウンド売上は、半期で559億円と業界トップを誇り、免税割合も30%超となった。
因みに、博多の阪急も26%と高い。
松屋銀座
銀座の松屋の免税売上は半期で300億円超、免税シェアはなんと5割を超える。
本紙別面でも特集を組んでいるので、そちらも是非ご参照いただきたいが、松屋銀座は今年5月1日に100周年を迎えた。
2024年度は、同期比20・3%増の1224億円と、タッチの差でランキング表からは漏れてしまったが、1992年以来の最高値更新が、100周年に花を添えた。
翳り
百貨店の免税売上高に関しては、東京では銀座新宿、大阪では梅田やミナミが圧倒的であり、その他の地方都市であれば、アジア客の玄関福岡と、観光目的地である京都近郊や札幌に集中しているのだ。
さて、頼みの綱であったインバウンドであるが、トランプ大統領の「関税恫喝政策」による円高や、世界景気の先行き不透明感により、3月は3年ぶりの減少となった。
※以下、本紙5月1日号2面のインバウンド月報から抜粋する。
日本百貨店協会が4月23日に発表した3月の百貨店免税売上高は、2022年3月以来3年ぶりにマイナスに転じ、前年同月比は10・7%減の442億2千万円となった。
買上げ客数自体は前年同月比13・4 % 増の51万5千人で、3月としては過去最多となった。ということは、下がったのは客単価である。
3月の購買単価は21・3 % 減少し85千円で、2020年2月以来の低水準となった。ブランド品や高級時計などの高額品の買い控えは明白だ。
本当に余計なコトかもしれないが、北朝鮮や中国やロシアだけでなく、民主主義国家の代表だと思っていた米国に、独裁者が誕生してしまった様に感じているのは筆者だけだろうか。
世界は、経済と政治を別々に語ることができない。不安な日々はまだまだ続く

デパート新聞編集長