地方デパート 逆襲(カウンターアタック)プロジェクト そのその54 CA プロジェクトの松菱百貨店での具体的進行(その10)

モノを買いたくなるお客さんをどのようにして作るのか?

 デパートの経営者は、様々な分析をして、顧客ごとに「この人にはどういうものを買ってもらうことが出来るのか」ということを常に研究しています。例えば、都市のデパートは、富裕層とインバウンド(外国人)という二つの対象に絞り込んで高額品を売ることで成果を上げています。しかし、多くの一般的な日本人の中で積極的にモノを買う人がどのくらいいるのかということを俯瞰してみた時、現実は非常に厳しいと言わざるを得ません。

最近の物価の異常な上昇に比べて、多くの人々の所得は全く改善されていません。特に、就職氷河期やリーマンショックの頃に就職した30代後半から50代の人の多くは、給与収入から気兼ねなくモノを買えるような余裕はないのです。

半世紀前には、借金してでもモノを買いたい、と思う人が多数いました。欲しいモノの多くは新しいモノ、時代の先端をいくモノだったからです。しかし、今はそういうモノはなく、わざわざお金を工面してまで購買する意欲は起きないのです。つまり、顧客の多くは、お金も無いし欲しいモノも無い、という状態に陥っているわけです。今、デパートの立場は過去に例を見ない大変厳しい方向に進んでいます。こうした現状を打破すべく私が提案しているのが、顧客に対してコミュニケーションを取り続け、こちら(デパート)のことに興味を持ってもらうことです。その先に、モノを買う気になってもらう形を作っていこうということです。例えば今、日常的に本を読む人は減少し続けています。自分で書店へ行ったりインターネットショップの本のコーナーを眺めても、中々「この本を買おう」という気にはなりません。特に、自分の嗜好に合わない本あるいは全く気に留めないような本は、まず購入に繋がりません。

ところが、自分では全く関心のなかった本でも、友人が「この本面白いよ」と言った時、「では、読んでみようか」と思うことは少なくないと思います。そして、自分の判断では手に取りもしない本を思いがけず読んでみたら、自分の思考の中に新しい出会いが生まれることは無数にあります。そして、その著者の本を立て続けに読んでしまうことも少なくありません。つまり、欲しくなかったものが、いつのまにか欲しいものに変わっているわけです。

 お金は無いし欲しいモノも無い、というネガティブな思考を突き破る現象が生まれるのです。本は、多くの人にとってどうしても買えないほどの金額ではないので、一つの動機があればこのようにスムーズに購買が進む可能性があり、販売員としてコミュニケーションを進めるには良い商材です。そして、この声を掛ける役割をする人こそ「暮らしのサポーター」なのです。もちろん、本は一例であり、デパートにあるいろいろな商品も声の掛け方一つで顧客にとって欲しいモノに変っていく可能性があります。暮らしのサポーター戦略の狙いは、顧客の「欲しいモノは何もない」というネガティブ思考を消失させるところにあるのです。私たちは、まず松菱百貨店の「食べる本屋さん」で、この試みを進めていこうと考えているのです。

 顧客の立ち位置を深く洞察し、ナマのコミュニケーションを講じていくことは、ポストAIの最も有効なマーケティングと言えるでしょう。