渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第26回 富山編その8 )

 「富山市のソウルフード」というキーワードを使い、インターネットで検索をすると、まず挙がってくるのは「白エビ」や「ホタルイカ」だ。これはソウルフードというよりも、富山県の名産品だろう。少しずつキーワードを変えてみる。それで何度か目に入ったのが「もつ煮込みうどん」だった。

 意外だ。うどんは県内に「氷見うどん」という名物があるので、地元に根付く理由はわかる。だが「もつ」と「富山」のイメージを結び付けるのは難しかった。

 調べてみると「糸庄」という店が発祥らしい。富山市内に本店を含む2店舗、高岡市に1店舗を構えているという。本店は中心街から離れてはいるものの、大和富山店も接する国道41号線沿いにあり、徒歩10分圏内に路面電車の停車場もあるようなので、足を伸ばしてみることにした。

 相変わらず天気に恵まれ、街は晴天から降る光を浴び輝いている。その景色に目を細めながら路面電車に揺られた。デパートから遠ざかるごとに商業施設が大きく、または新しくなるのは、どの地方都市でも同じだろうか。前を行く乗用車が時折、広い駐車場へと吸い込まれていった。

 到着したのは午後1時をやや過ぎたころだった。国道に沿う形の幅広い敷地をいくつかの建物で共有していたが、糸庄の入り口がどこかはすぐにわかった。庇の長い日本家屋の玄関から行列が伸びていたからだ。

 とはいえ、外に見えているのは10人ほどだ。確かに人気のようだが、これならさほど待たずに済むかもしれない。昼時のピークを外れたのが良かったかと思いながら、列の最後尾に加わった。

「ここじゃないですよ」

 私が並ぶ直前まで列の最後だった男性が、ゆっくりこちらを振り向いて言った。彼が指さした方向に視線をやる。車の通り道を確保するためだろう。私が最後尾だと思っていた所から10メートルほど離れて、列の続きがあった。

 「全国うまいものフェア」でのマラサダドーナツを求める人だかりにも驚いたが、こちらはその比ではない。

 結局、店内のカウンター席に通されるまで1時間ほど待つことになった。平日の14時を過ぎたというのに、私の後ろにも列は連なっている。観光客も含まれてはいるのだろうが、スーツ姿の男女や軽装の家族連れが多いところを見ると「ソウルフード」の名に偽りはないようだ。

 これを私の地元・山形に置き換えると「冷たいラーメン」になるのだろうか。だがこちらは夏の長期休暇の間こそ観光客が大行列を成すものの、普段、まして平日の昼下がりに並んで食べる人の姿はほとんどない。

 「煮込みうどん」の方がお客の滞在時間は長くなるのだろうが、その点を差し引いても多くの地元住民の心をつかんでいるのだと混雑具合から伝わってくる。

「糸庄本店の持つ煮込みうどん」

 カウンターのすぐ向こうには、見てくれとばかりに調理の風景が広がっている。こんろには一人用の土鍋がずらりと並び、煮立ってしばらくしたものから客席へと運ばれてゆく。

 程なく私の目の前にも鍋が置かれた。まるで火にかけられているかのように、汁の表面で小さな破裂が続いている。湯気と共に、みそとニンニクの香りが漂った。肝心の豚もつは、探すまでもなく豪快に乗せられている。

「熱いんで鍋は触らないようにしてくださいね」

 店の主人らしき男性から声を掛けられた。私が初めてだとわかっているのかもしれない。

 隣に座った私と同じ年くらいのお客はずいぶんと慣れた様子で、別に注文したご飯の上にささっと豚もつを移動させ、まずはその頂上を箸ですくい口に運ぶ。それがひどくうまそうに見えた。

 糸庄は昭和47年の創業だという。50年の歴史の中で、誰かが始めた食べ方なのだろう。混雑した店内で、ふと目にした小さな文化がうれしかった。

 当然といえばそうなのだが、デパート及び中心街、そこから離れた糸庄とでは働く人やお客の雰囲気が少しずつ違う。

 何がそうさせているのだろう。私はこの街の成り立ちについて、もっと深く知りたくなった。
            
(続く)