デパートのルネッサンスはどこにある? 2025年5月01日号-第114回消える百貨店・残るデパート

デパートは絶滅危惧種なのか?電鉄系百貨店再考



本コラムで何回もテーマにしているが、既に首都圏では、東急、小田急、京王、東武などの大手私鉄が、自社のターミナル駅直上の商業施設を、百貨店から複合ビル(ホテルやオフィスと商業施設、アミューズメント等)へと転換する方向性を打ち出している。
ビルの建て替えを機に、百貨店「以外」に業容の変更を目指す渋谷東急、新宿小田急、京王といった電鉄系百貨店の動きは止められない。
同じ電鉄系でも、池袋の東武百貨店の方向性はちょっと異なる様だ。東武には同じ池袋の地で長らく商売敵であった西武百貨店の半減改装が進んでおり、百貨店の継続という選択肢に意味があるからだ。
他の私鉄各社とは異なり、東武にとって「ライバルの縮小は絶好のチャンス」である。何しろ、池袋駅の1日平均乗降客数は180万人超あり、大量の人流があるエリアの一等地にあるからだ。
それでも「西武亡き後(失礼! 実際は面積減)の池袋エリアで独り勝ち」というシナリオは正直中々難しそうだ。只でさえ巨大な東武百貨店は、現状ユニクロやダイソー、匠大塚、ノジマといった大型テナントに支えられているのが実態だからだ。以前は「ニトリ」も店内にあった。
東武の命運は西武から東武に移転する海外ブランドが「いったいいくつあるのか」にかかっている、といったら大げさに聞こえるだろうか。もちろんヴィトンとエルメスを除いてだが。
電鉄系も様々

東武グループは、池袋の戦略について一つのヒントがある。それは、スカイツリーを擁し、インバウンド客に加え、東京観光を楽しむ邦人客が押し寄せる「東京ソラマチ」の大盛況だ。
観光と商業のコラボレーション施設の、数少ない成功例と言っても良いだろう。東武はグループのシナジーとして、池袋東武において、ソラマチの成功例を生かしたいと考えているはずだ。今後遠くない将来に。
一方、関西の雄である阪急(阪神)は、電鉄系でありながら(この表現が既に失礼にあたるのか、とも思うが)既に三越伊勢丹、大丸松坂屋、髙島屋と並ぶデパート4強の一角として、確固たる地位を築いていることは言うまでもない。うめだ阪急を「関西の伊勢丹」と呼んでも良いが、これもまた失礼になるかもしれない。
同じ関西の、近鉄についても、2025年2月1日号『「関口宏のこの先どうなる!?」を紙上再録 後編』で脱デパート化を目指す近鉄百貨店のフランチャイズ事業の詳細をお伝えしている。
私鉄各社もそれぞれ個別事情が異なり、東急、小田急、京王の様に「百貨店を止める」だけ、が正しい訳ではない。
閉店の論理
2025年3月1日号「止まらない百貨店の閉店 進む転用(非百貨店化)」で筆者はこう記している。
呉服系の老舗や電鉄系を問わず、大手百貨店はシビアな物差しで閉店の判断をしている。銀座、新宿、渋谷といった、全国屈指の繁華街を擁する巨大ターミナル駅であっても、例外ではないことは、本コラムで何度も伝えて来た。
大手百貨店は「資本原理」で閉店判断をしているのだ。彼らには「出来る限りデパートを存続する」などと言う「甘っちょろい」論理や義務感は存在しないからだ。
もちろん客商売であるから、二義的には「地域の消費拠点を守る」という意識が皆無ではないが、「儲からない事業からは潔く撤退」することが彼らのミッションであり、それはそれで当然のことなのだろう。
判るのは「百貨店という選択肢を選ばない」という「非百貨店化」が都心、郊外、地方を問わず進行しているという事だ。この考えをベースに、まずは都心で生き残る条件を考えてみよう。
もちろんインバウンドの恩恵が少ない地方、郊外は別の前提が必要だが。
都心で生き残る条件
- インバウンドに適した立地、かつ街としての賑わいを維持できること。
- 富裕層に支持される品揃え(有力なラグジュアリーブランドの確保)。
- 顧客と強いパイプを持った外商部隊とカード戦略を持っていること。
- デパ地下を下支えできるトラフィック(交通量=集客)があること。
の4つであろうか。
更には、東京都心で想定される立地とエリア特性だが。
ターミナル立地1
都心繁華街と住宅エリアとの結節点であること→新宿、池袋、渋谷、二子玉川
ターミナル立地2
純粋なビジネスエリアと繁華街を擁する交通の要衝→東京、銀座、日本橋、横浜
「いやいや、副都心新宿は巨大なビジネスエリアだろう」というご意見もあるだろう。都庁も含め官公庁もあるし。その辺 は大目に見て欲しい。
新宿はハイブリッドターミナルであることは認めよう、日本一の新宿伊勢丹があるのだから。
極端に言えば、これらの要素を満たさない百貨店は大都市のターミナルから近い将来消えることになるだろう。であれば、地方の独立系百貨店は、更に過酷な条件に晒されている、と言って良い。
さて、池袋に話を戻そう。
なぜ池袋西武を売ってしまったのだろう?


(念のため、西武は純然たる「電鉄系」ではない)
購読者諸氏は良くご存じの様に、池袋西武はその建物ごと既に(実質?)ヨドバシホールディングスに買収され、大規模な改装工事の真最中である。
従って2024年度、西武百貨店池袋店はフル営業をしていない。2025年の下期に予定されているリニューアル後も、ヨドバシカメラのテナントとして同ビルに「入居=出店?」というカタチになり、百貨店としての売上は大幅に縮小されることは必然だ。そもそも2025年度中のオープンを危ぶむ声まで聞こえて来た。
池袋西武の売場面積は8 8. 0 0 0 ㎡( 約26,600坪)から4 8,0 0 0 ㎡( 約14,500坪)にほぼ半減されるため、百貨店売上のベスト10に顔をだすことはないだろうが。
因みに、2022年の売上ランキングでは西武百貨店池袋本店は全国第3位(1、768億)だった。
前述したヨドバシ問題というか、実際は当時の親会社であるセブン&アイの「そごう・西武売却」がいかにデパート業界全体にとって「負のエポックメイキング」だったかが判っていただけるだろう。
いや、筆者は今現在でもメイキング(つくる)ではなくディストラクション(破壊)だと思っている。ターニングポイントという言葉では言い足りない気がするのだ。そして、これからの百貨店業界は「大閉店時代」に入った、とでも表現すべきなのかもしれない。
存在意義
そごう・西武売却、そして池袋西武半減騒動後に、結果作られるのは池袋に何軒もある家電量販店であり、その代わりに破壊され、失ったモノは「デパートの存在意義」だった様に思える。
まぁ、こんな事を思うのは筆者だけかもしれないが。私たちの暮らす経済社会の中では、資本の論理で決まった事は覆すことはできないだろう。だが、資本の論理がだれにとっても正しいという訳ではないことは、肝に銘じておきたい。
毎回恐縮だが、家電は×で百貨店なら〇だと言っているわけではない。地主、地権者、ビルオーナー、デベロッパーといった人々(や企業)の思惑やビジネスに「いちゃもん」をつける資格は筆者にはないからだ。
只、街に(そこに暮らす人々を含めた「街」というものに)とって何が必要なのかを、自社の利益や自身の地位にのみ拘泥する企業とその経営者の判断に委ねなければならなかった事が、残念でならない。
その後のセブン
今回のディール(と言うのか?)を主導したセブン&アイの井阪社長は、およそ2か月前の3月6日に退任を発表した。
そして新社長のスティーブン・ヘイズ・デイカス氏は第一声として「(セブンは)このところ市場シェアを失い、会社の勢いを失っている」と発言している。ストレートに。
一方井阪氏は「国内の事業構造改革に一区切りついた」と退任の弁を述べた。ヨーカドーの不採算店のスクラップと不採算事業であるそごう・西武の売却を指しているのだろう。
外資からの買収の話も決着しないうちに「投げ出した」いや「逃げ出した」のではないかと思うのは、筆者の「下衆の勘繰り(ゲスのかんぐり)」という事にしておこう。
もしかして、創業家による会社の非上場化の話など、筆者などには思いもよらない、資本の原理よりもっと「きな臭い」力が働いているのかもしれない。
井阪さん、今までお疲れ様でした。
効率化の果て
大都市のターミナル駅は、稠密な鉄道網が張り巡らされた日本独特の高効率な商業立地を生んだ。
そもそもそのターミナルの有効活用が電鉄系デパートの出発点だった。それでも今、百貨店(という業態)は投資効率が低く利益が出ないと「資本主義の論理」で判断されれば、不動産業も含む私鉄グループ各社はこれを「従来型の百貨店」のまま放置することは許されない、という結論になる。
であれば、東急の渋谷戦略は当然の帰結なのだ。遠くない将来、本業として起業した老舗呉服系デパート以外は、すべてショッピングセンター化してしまうかもしれない。
それか家電量販店か。要因として従来から言われているのは、前述した不動産価値から考える経営判断「そこは百貨店で儲かるのか?」であった。只筆者は、それ以上に人口減少からくる現場の「人手不足」の方が大きくなっているのではないか、と危惧している。
それが、日本のデパートを廃業に追い込む、最後の一撃になりうるかもしれない。これについては、老舗の呉服屋系デパートも例外ではない。
日本という国が、少子高齢化対策を怠って来た、というか「見て見ぬふり」をして来たことの「つけ」は、どこかで払わなければならないのだ。
「どこか」と言うよりは「誰かが」ではあるが。
そしてそれも今すぐに。

デパート新聞編集長