デパートのルネッサンスはどこにある? 2025年3月15日号-第111 回 デパートのルネッサンスを再び宣言する

〈5年間の総括〉

 今から5年前、私は2020年3月15日発行のデパート新聞紙上に「ルネッサンス宣言」を掲載した。
 新たに連載を始める「デパートのルネッサンスはどこにある?」の序文として。これがデパート新聞編集長としての最初の仕事となった。

 そして、その「ルネッサンス宣言」の文末をこう締めくくっている。

『我々デパート新聞は「みんなで」デパートのルネッサンスを考えて行きたいと思います。デパートには公益性が不可欠です。悪しき島国根性で、自分だけが儲かりたい、幸せになりたい、ではなく「みんなで、みんなの」幸せを追求していくのが、みんなが憧れていたデパートの真の姿ではないでしょうか。デパ地下や化粧品フロア以外でも、お客様が目を輝かすデパートを、みんなで考えて行きましょう。』

 お気づきだと思うが、この「ルネッサンス宣言」だけは「ですます調」で書いている。文体の整合性まで考えずに見切り発車でスタートしていたのがバレバレだ。

コロナを越えて

 そして、あっという間に5年がたった。デパート=百貨店を取り巻く環境は、当時より更に厳しさを増している。

 「コロナ過が沈静化し、インバウンド需要が戻り、百貨店業界は絶好調なのでは?」と反論する購読者諸氏も居られるかもしれない。

 毎度お馴染みのエクスキューズで恐縮だが、それは大都市圏に集中している三越伊勢丹、大丸松坂屋、髙島屋、阪急阪神などの大手百貨店に限った話であり、地方都市のデパートは閉店ラッシュに歯止めがかからない状況が続いている。

 これについては後述するが、そもそもコロナ前から、そうした地方百貨店は、インバウンド景気とは無縁であったことは言うまでもない。

 但し、地方百貨店衰退の原因として、百貨店自体の認識不足、努力不足、そして何より変革を厭いとう社風があったのではないか、と言うことも忘れてはいけない。

 ひとつだけ確かなことは、コロナ過が苦境にあったデパートに「閉店」という選択肢を選ばせる「最後の一押し」になったことだ。残念ながらそれは間違いない。

逆襲(CA)

 さて、私たちデパート新聞のスタンスは「ルネッサンス宣言」を掲げた5年前と変わっていない。いや実際はそれよりも1歩も2歩も踏み込んでいる。

 それは本紙の1面を見れば判るだろう。デパート新聞社の田中社主による連載「地方デパート逆襲プロジェクト」が次号4月1日号で50回を迎えるからだ。

 逆襲(カウンターアタック)略して「CAプロジェクト」は現在三重県津市の松菱百貨店で2年に亘り活動を続けている。

 それは単なる集客イベントや催し物企画や、運営サポートではなく、本紙の主体的な活動だ。

 今本紙が最も注力しているのは松菱4階の紳士服売場の真ん中にオープンした「食べる本屋さん」だ。詳細については、本号1面に掲載した「コミュニケーション書店『食べる本屋さん』スペシャルトークショーを開催」の記事を参照して欲しい。

 本紙の「デパート文化をこの国から無くしてしまわない様に、微力ながら注力したい」という思いは、今もまったく変わっていない。

〈総括〉

 前述した様にこの5年間、閉店を決めた百貨店は増え続けている。

 2020年1月26日に経営破綻で閉店した大沼百貨店のあった山形県は、全国初の百貨店が存在しない県となった。また、同年8月末にそごう徳島店が閉店し、デパートゼロに徳島県が加わった。そして一畑百貨店の閉店により島根県が3 県目となったのは2024年1月14日だ。最後に髙島屋岐阜店が同年7月をもって閉店し4県目となった。

 5年間を振り返り、店舗名と閉店日を記した。

2020年

●大沼山形本店(山形県山形市)2020年1月26日 山形が全国初のデパートゼロ県に※画像1
●ほの国百貨店(愛知県豊橋市)2020年3月15日
●新潟三越 (新潟県新潟市)2020年3月22日 113年の歴史に幕 ※画像2
●東急東横店(東京都渋谷区)2020年3月31日 渋谷駅の大規模改修工事を受け86年の歴史に幕
●髙島屋港南台店(神奈川県横浜市港南区)2020年8月16日
●中合福島店(福島県福島市)2020年8月31日  ※画像3
●西武大津店(滋賀県大津市)2020年8月31日 大津西武の閉店を扱った小説「成瀬は天下を取りにいく」が本屋大賞を受賞
●西武岡崎店(愛知県岡崎市)2020年8月31日
●そごう西神店(兵庫県神戸市)2020年8月31日 関西発祥のそごうの最後の店
●そごう徳島店(徳島県徳島市)2020年8月31日 徳島がデパートゼロ県第二号に

画像4川口そごう

2021年

●いよてつ髙島屋大洲店(愛媛県大洲市)2021年1月25日アクトピア内での営業を終了
●ファミリー丸広日高店 (埼玉県川越市)2021年2月14日
●そごう川口店(埼玉県川口市)2021年2月28日 ルネッサンスの前号でお伝えしている。※画像4
●さいか屋横須賀店(神奈川県横須賀市)2021年2月21日に閉店も、顧客からの継続要望を受け3月6日に「さいか屋横須賀ショッピングプラザ」として営業を再開し現在も営業中。レアケースだがカウントした。
●恵比寿三越(東京都渋谷区)2021年2月28 日
●三田阪急(兵庫県三田市)2021年8月1日
●松坂屋豊田店(愛知県豊田市)2021年9月30日

画像5小田急百貨店新宿店本館跡

2022年

●福屋浜田店(島根県浜田市)2022年1月30日
●三春屋(青森県八戸市) 2022年4月10日
●天満屋広島緑井店(広島県広島市)2022年6月30日
●小田急百貨店新宿店本館(東京都新宿区)2022年9月30日(本店はハルクで営業継続) ※開発計画に伴い本館は解体、跡地は48階建ての高層ビル(2029年竣工予定) ※画像5

画像6 東急百貨店渋谷本店

2023年

●東急百貨店渋谷本店(東京都渋谷区)2023年1月31日 
 本店は解体され跡地には2027年に地上36階地下4階の複合施設となる予定 ※画像6
●立川髙島屋(東京都立川市)2023年1月31日 
 立川髙島屋ショッピングセンター内の百貨店区画をテナント化
●藤丸百貨店(北海道帯広市)2023年1月31日 
 老舗として十勝全域から集客も122年の歴史に幕。

2024年

●一畑百貨店(島根県松江市)2024年1月14日  
 島根県が山形、徳島に続き3県目のゼロ県となった。
●名鉄一宮店(愛知県一宮市)2024年1月31日  
 跡地は2025年度中に新たな商業施設の開業を目指す。
●スズラン高崎店(群馬県高崎市)2024年1月31日で営業終了し新店舗は3月6日に開業。
●髙島屋岐阜店(岐阜県岐阜市)2024年7月31日
 岐阜県が山形、徳島、島根に続き4県目のゼロ県となった。
●丸広百貨店東松山店 ( 埼玉県日東松山市)2024年8月18日 

2025年

●井上百貨店 2025年3月末 ※長野県松本市はパルコも前月閉店している。
●丸広百貨店上尾店 
 秋に百貨店としての営業を終了し「まるひろ上尾SC」に業態変更予定

画像7 店名を消された池袋西武


 今気がついたが、思っていたより都心デパートの閉店シェアが高い。尚、池袋西武は2024年に大部分が改装休に入った。 ※画像7

2か月に1店舗

 5年間に全国でざっと30店舗が閉店した勘定となる。1年間に6店舗であるから、およそ2か月に一店舗のペースで、日本のどこかでデパートは閉店しているのだ。

 もちろんこの間に、全国のイトーヨーカドーはそれ以上に閉店している。なぜデパートの消失だけ「大騒ぎ」しているんだ、と訝( いぶか) る方もおられるだろう。

 これまで閉店した数多(あまた)のダイエーや西友やヨーカ堂といったGMS(総合スーパー)は一顧だにせず、デパートだけは特別扱いなのか、と。ごもっともだ。

 筆者の考えはこうだ。

GMS

 GMSは昔は「量販店」と呼ばれ、食品を始めとした「生活必需品」をまんべんなく扱っていたし今もそうだ。

 近所のコンビニやドラッグストアには無くても、ヨーカ堂や西友にはたいていの品は置いてある。

 周辺住民の生活を支えている、という点では、水道、電気、ガスと同様「ライフライン」なのだ。そうであればなおさらライフラインより重要で大事なモノなどあろうはずがないではないか、というご意見が聞こえる。

 筆者には空耳ではなく購読者の声が聞こえる。それは間違っていないし、筆者も否定出来ない。

画像8 閉店した西友

※因みに、執筆中に関連するニュースが届いた。
 ウォルマートが一時買デパートのルネッサンスを再び宣言する収し再建を目指していた西友を、九州を拠点とする新興のディスカウントスーパー「トライアル」が子会社化したのだ。※画像8

 因みにイトーヨーカドーは、この2年で30店舗以上を閉店している。

不要不急

 では、デパート= 百貨店では何を売っているのか。GMSやコンビニよりも大事なモノを売っているのか?食品も衣料品も身の回り品も、確かにGMSより高価な物を売っている。ブランド品もそうだ。そしてそれは生活必需品ではない、という事だ。

 デパートには全然行かないしここ最近買ったこともない、という方も相当数居られると思う。そうした方々にとってデパートは不必要だと、コロナ過で流行った「不要不急」の集積だという見方も出来るだろう。

 おしかりや誤解を承知で、敢えて極論を申し上げると、デパート百貨店は「夢や思い」を売っているのだ。

 ちょっと詩的な表現となって恐縮だが。

カルチャー

 デパートが、都心だけでなく、その地方や地域のカルチャー(文化)の発信地、集積地であったというご意見や見解を、我々は百貨店が閉店する度に見聞きしてきた。意外かもしれないが、地方の方がよりその傾向が強い様に感じる。

 閉店のニュースで地元住民が語るのは「親に連れて来て貰った」「友達と待ち合わせした」といった「懐かしさ」とそのデパートがなくなってしまうことの「寂しさ」が大半だ。

 西友がなくなって寂しがる人は皆無ではないだろうが、どちらかといえば「困った」「別のスーパーは遠い」といった買い物難民的な意見が大半だ。

無駄なモノ

 だからデパートは元々から不要不急であり、なくなって寂しくても困りはしないのだ。こと毎日の生活に関してはデパートが無くても困ることはないのだ。デパートは「無駄なモノ」なのだ。

※コスパ、タイパの悪いも本当に悪なのか?という問いに対しては、デパート新聞社主の記した書籍「無駄の物語」「みんなのデパート」そして最新刊「資本主義からの脱出」をお勧めする。ご一読いただければ、公益の観点から、筆者がデパートを特別扱いする理由を判ってもらえるかもしれない。

「さみしい」

 デパートの閉店はなぜ地元のニュースとなり、なぜテレビ局は一様に街 頭インタビューで市民、顧客の「なくなってさみしい」の声を拾おうとするのか。

 ノスタルジーからだろうか。廃線や寝台列車の引退等で鉄道ファンが群がるのと同じなのだろうか。そういった側面はもちろんあるだろう。

 筆者の感覚だと、若い時に通っていた学校の廃校に近いモノがあるのではないかと。友達や家族との共有体験の喪失を憂うれうのではないかとも。

新宿と松本

 2月28日に新宿アルタと松本パルコが閉店した。特急あずさで2時間37分の距離だ。
 東京では、今やスポンサーにも嫌われて大変な状況であるフジテレビの人気番組「笑っていいとも!」の収録が行われていた、ということで大きく取り上げられていた。

 「いいとも」全盛期のフジテレビと、今の凋落ぶりを際立たせたいという制作意図が見える。一方松本では地元のNHKが特番を組み、松本のパフォーマーであるアオイヤマダをスタジオゲストに迎え、テナントスタッフのパルコ最終日を密着取材していた。

 松本は今月3月31日に井上百貨店の閉店も発表されており、この春からは「松本城とイオンの街」となる。

 それのどこが悪い、という話ではもちろんない。是非はともあれ、日本中の地方都市で起こっている、この「松本現象」を知って、考えてもらいたいのだ。

 これで良いのか、何か違う街の成り立ちや行く末があるのかを。
人口減少と過疎化(大都市への一極集中)と高齢化の中で。