デパートのルネッサンスはどこにある? 2025年3月01日号-第110 回 止まらない百貨店の閉店 進む転用(非百貨店化)

 前号で、名古屋エリアのナンバーワンデパート、と持ち上げた髙島屋だが、昨年の岐阜店に続き、来年には堺店を閉店することを発表した。

 三越伊勢丹、阪急阪神、大丸松坂屋など、4強の一角を占める老舗髙島屋 であっても、是々非々で地方店をスクラップすることは不可避なのだ。

髙島屋堺店が2026年1月に閉店

 髙島屋堺店は60年の営業に幕を閉じる。こうした地方百貨店の閉店連鎖は、残念ながら今後も止まることを知らない様だ。尚、後述するそごう川口店は、4年前の2021年2月に閉店している。

 髙島屋は年明け3日に堺店の営業を2026年1月7日で終了すると発表した。実質の営業期間は残り1年を切ったということになる。 堺店は南海高野線の堺東駅に1964年に開業したのであるから、人間であれば還暦を迎えたところだ。※画像①

①髙島屋堺店 2026年1月の閉店を発表した。

 売場面積は2万5000平方メートル(百貨店区画1万6000平方メートル、専門店区画9000平方メートル)。同じく堺市にある泉北店(1974年開業)との2店舗体制で、長らく大阪南部の地域のニーズに答え続けて来たのだ。

 売上高は1991年度の300億円がピークで、直近の2023年度は103億円に縮小していた。※百貨店区画の売上のみ。

 2020年度から営業赤字が続いていたことから、同店の建物賃貸借契約の満了を見据えて営業終了を決めた、という。あくまで筆者の感覚だが、百貨店は赤字が続く中で、年間売上が50~60億円を下回ると危険水域だ。「閉店」の二文字が経営者の頭をよぎるのだろう。

閉店の論理

 但し、この原理が当てはまるのは、地方の、それも独立系デパートに限った話である。
呉服系の老舗や電鉄系を問わず、大手百貨店の支店はもっとシビアな物差しで閉店の判断をしている。

 銀座、新宿、渋谷といった、全国屈指の繁華街を擁する巨大ターミナル駅であっても、例外ではないことは、本コラムで何度も伝えて来た。

 大手百貨店は、後述する大沼や一畑とはまったく別の「資本原理」で閉店判断をしているのだ。髙島屋に対して「地方郊外で売上100億あれば充分じゃないか!」と言っても、聞いては貰えない。

 彼らには「出来る限りデパートを存続する」などと言う「甘っちょろい」論理や義務感は存在しないからだ。失礼かも知れないが。

 もちろん客商売であるから、二義的には「地域の消費拠点を守る」という意識が皆無ではないが「儲からない事業からは潔く撤退」することが彼らのミッションであり、それはそれで当然のことなのだろう。

 破綻寸前まで営業した大沼や一畑が善であり、余裕があるのに撤退した髙島屋が悪であるという様な話ではない。

 判るのは「百貨店という選択肢を選ばない」という「非百貨店化」が都心、郊外、地方を問わず進行しているという事だ。これについては後述する。

様々な閉店模様

 高島屋堺店は、従業員156人は配置転換などで対応し、雇用は維持する、としている。この辺りは大手百貨店ならではの安心材料ではある。

 2020年1月に閉店した山形の大沼百貨店や、2024年1月に閉店した島根県松江市の一畑百貨店の様に、閉店時に従業員の即日解雇、という最悪のパターンは免れているからだ。もちろん、半年前に閉店を発表した一畑の方が、突然破綻した大沼より「まし」であるのは言うまでもないが。

 全国の百貨店は、大都市にある旗艦店がインバウンドや富裕層消費を背景に好業績であるのに対し、地方都市や郊外の中型店舗では苦戦が続いている。

 前述の様に髙島屋は昨年7月に岐阜高島屋を閉鎖するなど、採算の見込めない地方店の整理を進めている最中だ。髙島屋堺店は60年前の昭和39年10月に開業。駅前の利便性を生かし、地域密着の店舗として親しまれてきた。近年は、食料品フロアを全面改装や地域と連携した子育て支援施設の設置など、出来ることはやって来たのだろう。それが遂に力尽きた、という状況なのだ。

転用先は

 閉店後は、建物を所有する南海電気鉄道が跡地、建物をショッピングセンターに刷新することも発表されたが、具体的な店舗構成などは未定、とされている。 

商店街や近隣の住民からは、その半世紀以上の歴史を踏まえ様々な声が聞かれた。

「親子三世代通っていたが、閉店は寂しいし残念だ」という住民の思いだけでなく

「近隣に大型のショッピングモールが増えたからだろうか」

「髙島屋はブランド力があり年配客が集まった」

「SC化テナント化により客層が変わり、商業環境そのものが変わってしまう」など、的確な分析を披露する人も多かった。
 
 さて、前号の名鉄百貨店や高島屋堺店に続き、次は川口そごう跡のSC化についてだ。
 そごう川口店は、最後はコロナ過にとどめを刺され、2021年2月に閉店している。※画像②③

②在りし日の「川口そごう」2021年2月に閉店した。

③主なき「川口そごう」跡 4年たって2025年5月にららテラスで再開予定。「ワクチン接種会場は旧そごう1階です。」の立て看板が時代を物語る。

川口そごう跡はららテラスに転用

 三井不動産は、百貨店の旧そごう川口店跡を「ららテラス川口」に転用する。三井不動産は川口市のJR川口駅東口前の旧そごう川口店を全面改装し、商業施設「ららテラス川口」を2025年5月の予定で開業する。店舗面積は約2万1500平方メートルで、ファッション・雑貨、食など約100店舗が入居予定だ。

 建物は建て替えずに、内装と一部外装を改装し、MDを刷新する。地下2階~地上11
階で、延べ床面積約6万8800平方メートル。

 店舗は地下1階~8階部分で、地下1階は食品スーパーを含む食物販とフードコート、1~3階をファッション、ビューティー、雑貨店などが入 る「デイリーセレクト」フロア、4~8階は大型専門店を中心とした「ファッション&ライフスタイル」フロアとする。

 昨年12月17日に全出店テナントのうち71店を公表した。そのうち、ファッション、雑貨などは45店。いくつか店名を上げると「アーバンリサーチストア」「ユナイテッドアローズグリーンレーベルリラクシング」「ABCマート」「ムラサキスポーツ」それに家電「ノジマ」などが入る。

 大変失礼な言い方になって恐縮だが、店名を見る限り「金太郎飴」の様なラインナップであることは否めない。

 スーパー・食物販は22店舗となり「成城石井」「富澤商店」や元々の百貨店顧客対応のためか「西武・そごうショップ」などが出店する、という。

三井不の規模別対応

 百貨店閉店のニュースでは「近隣郊外にイオンなどの大型ショッピングモールが進出」という判で押した様な閉店原因が語られるが、実際に跡地転用に手を上げるのは家電量販店か三井不動産であるケースも多い。

 今回の川口そごうの場合、三井不動産は一昨年に建物のそごう・西武の持ち分などを取得した。同社は既に川口駅西口側にドミナント型の商業施設「ララガーデン川口」(店舗面積約2万7000平方メートル)を運営している。※画像④

④ララガーデン川口 ららテラスとの棲み分けに注目だ

 ららテラスは足元商圏客の日常生活需要に対応する中小規模の「ライフスタイル型商業施設」に分類されるタイプで、南千住や武蔵小杉に続き、昨年JR南船橋駅直結のららテラスTOKYO―BAY、3月には晴海フラッグ店を開業している。今年6月には東京メトロ北綾瀬駅前に北綾瀬店を出店するなど、出店ラッシュが続く。

 郊外でも、都心の一等地でもない人口密集地の駅をターゲットにしていることは明解であり、ららテラスは他業者が敬遠する中小規模のSCとして強みを発揮しているのは明解だ。

 ここで三井不動産商業マネジメントが運営する商業施設を大きい順に紹介しておこう。

ららぽーと

 郊外型の大型商業施設で、売場面積1万坪、店舗数150店以上で、高感度ファッションから非日常のエンターテインメントまでを展開。

ララガーデン

中規模の郊外型商業施設で、売場面積5000坪~8000坪、店舗数100店でデイリー要素に加え、医療などのサービス機能を付加。

ららテラス

売場面積2000坪~4000坪で、店舗数50~80店で生活利便性の高い店舗と食料品やドラッグストアを中心にライフスタイル提案型の店舗を揃える。

 尚、今回川口そごう跡に出店するららテラスは、面積が6000坪あり、ガーデンとテラスの中間サイズである。が、名称による混乱を回避するために、ひと回り小規模の「ららテラス」を採用したと思われる。

 蛇足だが、中規模タイプのララガーデンだけが、「らら」がカタカナの「ララ」なのだ。理由は筆者も知らない。

非百貨店化

 渋谷の東急、新宿の小田急、大阪の近鉄(阿倍野本店以外)、名古屋の名鉄と、東西を問わず電鉄系デパートの「脱百貨店」の動きは止められないどころか、加速している感が強い。

 例によってエクスキューズしておくが、東急は東横店と本店ともに閉店したのだが、小田急は本店機能をハルク館に移したので、元々本店があった区画に再び百貨店は造らない、と言うコトなのだ。

 であれば、厳密には「脱百貨店」というよりは「非百貨店化」と呼ぶべきなのかもしれない。そうした「非百貨店化」の動きが、川口そごうの跡地でも現実のものとなった格好だ。

 但し2021年2月に閉店した時点で、セブン&アイ傘下でのそごう・西武のリストラの流れの一環であったので、自社物件として、用途を変更する他の電鉄系とは、お家事情が異なることはお判りだと思う。

 池袋西武がヨドバシに売られてしまった様に、今回はそごう跡地を三井不動産が買った、というだけのことだ。呼び方はどうあれ、百貨店は消滅してしまった。

戦略と勝算

 そういえばこの川口では、駅前立地の大好きな、ビックカメラかヨドバシカメラは出店の検討はしなかったのであろうか。いやいや、川口は都心のターミナル駅ではないし、そもそも近隣にはヤマダ電機の大型ロードサイド「テックランド」が2店舗、更にヨーカ堂系SCであるアリオ川口にはジョーシン電機も出店している。

 家電量販店にとって、必ずしも駅前立地が優位とは言えないし、川口という街が都心とは言えないマーケットである証拠だ。今年の5月にららテラスがオープンすれば判るだろう。

 もちろん、近隣で15周年を迎えるロードサイド型のららガーデンを運営している三井不動産のことだから、エリアのポテンシャルについては充分に理解しての差別化出店であり、相応な勝算があるのだろう。
お手並み拝見だ。