地方デパート 逆襲(カウンターアタック)プロジェクト その36 西武百貨店ストライキと寺岡泰博労働組合中央執行委員長  

 そごう・西武労働組合中央執行委員長の寺岡泰博さんの著書「決断」を拝読しました。2023年8月31日の西武池袋店のストライキに至るまでのそごう・西武の歴史を寺岡さんの視点で綴ったものです。寺岡さんの視点は、一百貨店人として自分たちがどうあらねばならないかという人間の本質を希求することで一貫しています。

 2003年に統合したそごう・西武の合理化即ち閉店戦術は、2016年にセブン&アイ・ホールディングスの社長に井阪隆一氏が就任してから加速します。井阪氏に追われることになった日本におけるコンビニエンスストア生みの親・鈴木敏文氏は、「彼(井阪氏)が創り出した新しいものはない」と語っていたそうですが、井阪氏は壊すことには突出した能力を発揮していきます。選択と集中という方針の下、2016年からの5年間に全国で10以上の店舗が閉店してしまいました。その内の一つ徳島そごうの閉店により、徳島県は一つの百貨店もない県になりました。

 「決断」はその際のやりとりを伝えています。組合の副委員長が「私たちは百貨店人です。お客さまを感動させる商品・サービスを提供しなければいけませんが、当の社員が会社に対する不信な気持ちがあるなかでは、それらは提供できようもありません。」と訴えたことに対し、当時のそごう・西武の林社長は「できうることはすべてやってきました。私の最大の責任は当社を存続させることです。(後略)」と回答しているのです。

 こうしたやりとりに、池袋のストライキの遠因が明確に見えるようです。デパート(会社)は人たち(従業者)があってこそ、存在意義があるのです。そして、その人たちが真摯に不特定多数の人々に毎日小さな幸せを提供しているのです。そんな当たり前の真理を忘れて、会社を存続させることこそ第一と言い切ってしまう人をトップにおくようでは、公益を掲げて事業を行なうことなど出来得るはずがありません。

 井阪氏の掲げる「選択と集中」とはまさに人を排し、地域を軽んじ、会社だけが唯一無二の存在として無限に利益を追求し、拡大していこうという排他的で無機質な概念であると思います。「選択と集中」が、投資ファンドなど一部の株主から社長の椅子を守る保身のためであったならば人間的といえるのかもしれませんが。いずれにせよ氏の今回の一連の無道徳な判断は、経営者のあってはならない姿として記憶されるのではないでしょうか。

 「決断」を通読して、あのストライキがどれだけ人として生きるために尊いものだったのかを改めて感じました。そして、私たちがCAプロジェクトと通じて掲げる公益の旗は、デパートの存続のために不可欠であるということも。