三重大学イノベーション学科 研究会 デパート新聞 田中潤社主が講演

大学とデパートの連携が地域のコミュニケーションを高める

デパートは公益事業

 12月1日三重大学では、三重大学地域イノベーション学研究科の研究内容講演会が開催された。この場で、松菱百貨店とデパート新聞社が進めている地方百貨店逆襲(カウンターアタック、以下CAという)プロジェクトについて、田中社主が講演を行った。

 諏訪部圭太地域イノベーション学研究科長、青木雅生教授を始め学科の学生が集まり、またズーム参加者も含めた形で、講演は行なわれた。田中社主は、地方デパートのおかれた厳しい現状を説明し、これからの地方デパートは地域の方々の最大多数の最大幸福を達成することが使命であると位置づけた。

 松菱百貨店は古くから三重の人々から親しまれ、デパートとしても地域の生活と文化を向上させることを第一義に掲げており、三重県において公益を担う事業者として相応しいと判断。同店が、地域の生活・文化の発信地としての使命を全うするための包括的協力体制をとることで合意し、CAプロジェクトをスタートした。

 大都会のデパートとは異なる独自の理念を明確にして、将来に向けて地域のランドマークとなることを目指す取組みである。

3つの理念

 基本的な3つの理念として、

  1. デパート事業は、公益事業であることを認識する
  2. 地方デパートは、人を買ってもらう
  3. 顧客が本当に求めていることをさせていただくとしている。

 特に、(2)がユニークである。
モノを買う場所であるデパートの最も大切な有り様は、モノを売ろうという合理的な思考を排除し、販売員である前に一人の思いやりある人間として顧客に向き合っていくことを徹底することである。信頼関係を築くことができれば自然に自分を買ってもらうことになり、結局は有益な販売に結び付いていくということである。

 既に実施されている戦略として、7階フロアを使った「つながるデパートカーニバル」がある。

つながるデパートカーニバル

 本紙でも紹介している事業者・デパート・顧客が有機的に結びつき、全国に発信していこうという取組みで、10月には銚子電鉄(千葉の鉄道会社)と蔦金商店(横浜の老舗海苔店)のコラボレーションによる「やばいよやばいよ銚子電鉄」、11月〜12月は横濱ありあけハーバーと赤い靴記念文化事業団が港横浜の雰囲気を伝えるイベントを行っている。単なる物販ではなく、社長のトークショーや映像による事業紹介、煎餅焼体験やデザイン原画展など、事業者の様々な姿を見せることで来場者に多くの感動を与えている。

 参加事業者は、松菱百貨店に長く出店している事業者との新たな事業提携も始まっており、反響は少しずつ拡がっているようだ。この他、デパート社員が地域を訪問する暮らしのサポーターや生活・文化の無料相談所の設置、地域を廻るつながるデパートバスの運行などの準備も進めている。

経営二刀流

 田中社主の掲げる地方デパートが事業を行うにあたっての戦略は「経営二刀流」(図参照)である。デパートの中で収益部門と公益部門を明確に区別し、収益部門では利益を獲得し、公益部門の赤字を補い、最終的に若干の利益を計上する単純再生産を目指そうというものだ。それは、脱資本主義を掲げ、地域の中で事業者と顧客が相扶ける関係を築いていくことを意味し、共同して地方自治を守っていく新たなコミュニティー形成につながる戦略である。

 研究会では、この後、松菱百貨店営業本部長の川合正常務取締役が三重大とは長年に亘り様々な形で連携している実例を説明。また、デパート新聞社村上寿彦営業本部長から「つながるデパートカーニバル」に参加している各事業者の公益活動への真摯な思いが語られた。

 社会人学生との質疑では、「観光事業を発信するにあたり、デパートを絡めることが初めて分かった。今後、是非連携をして行きたい。」との声も寄せられた。

 最後に、研究科長の諏訪部学科長が「ここからがスタート、教育・研究発表なども含めて、松菱百貨店との連携を考えていきたい。」と締めくくった。