地方百貨店に秘策あり - 西武福井店
百貨店×生産者×行政の連携によるいちご狩りの新たな取組みが始まる 西武福井店の屋上を有効活用
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体験型企画「ふくい天空のいちご狩り」開催
西武福井店は、 屋上スカイテラスにおいて、都市型いちご収穫体験ができる「ふくい天空のいちご狩り」を3月10日から5月中旬まで開催している。いちご・トマトなどの農産物の生産、飲食店舗運営並びに観光農園の運営を行う明城ファーム(越前市)の新たな農業体験コンテンツ。2024年、春の北陸新幹線福井開業に向け、あらたな体験コンテンツとして、JR福井駅から徒歩圏内の西武福井店の屋上にて福井県産いちごの収穫体験ができるもの。屋上でのいちご狩り体験に加え、いちごを使ったスイーツの販売もあわせて行っている。この取組みは西武福井店と明城ファーム、(公社)福井県観光連盟の3者連携で実現した。福井駅周辺に集客の核となる観光体験コンテンツを作ることで、観光客の市街への周遊を促進し、賑わいを創出、地域経済への貢献を目指している。今年を皮切りに、毎年の恒例の取組みと位置付けていく。
この取組みについて、それぞれの立場からの思いを聞いた。
公益社団法人福井県観光連盟 観光ブランドアップスーパーバイザー・於保さん
福井県観光連盟は、昨年から明城ファームと本格的な取り組みをしてきました。夜のイチゴ狩り開催に対して、補助金を出してアドバイスを含めた支援をし、観光コンテンツ化しました。その後、明城ファームが翌年度に新たないちごの取組みができないかを検討している事を知りました。
私は常々、福井市中心部と明城ファームの距離の近さ(約20㎞、車で40分)に注目していて、新たな展開が実現できるのではないかと考えていました。また、観光連盟は、地域活性化が使命です。
空きビル等の不動産の有効活用をした「賑わい創出」を考えていくと、適する場所は福井駅前市街地中心部周辺。その中心には核となる西武福井店。そして店舗の屋上と絞り込んでいました。
西武福井店の屋上の未使用の時期に注目しました。屋上はビヤガーデンの営業時期以外には全く活用されていなかった。ビヤガーデンの営業を行わない時期にいちご狩りができるのではないか?空いている期間の不動産の有効活用に注目したのです。
更に、来年3月の北陸新幹線の福井駅開業に向けて福井駅前の活性化がとても重要なポイントになってきていて、観光連盟でも様々な市民へのアンケート調査を行ったところ、「駅前には遊べるコンテンツが無い」。「街歩きをするきっかけが余り無い。」等のご意見を頂きました。その中で西武福井店は、百貨店として地域における位置付けがとても重要なものであるとの認識に至り、西武福井店にも何かしら観光を通して貢献できないかを考えたのです。
この様な情報交換を明城ファームとしている中で、駅前で是非いちご狩りの取組みをやってみたいと進展し、西武福井店のご協力を頂いて「ふくい天空のいちご狩り」が実現しました。
百貨店の屋上はかつて子供向け遊園地等の誘客の核となる施設がありましたが、それがいちご狩りを楽しむコトに替わり、屋上にお客様が行くことによって階下でのお買い物に繋がる。また、百貨店にお出かけになることによって駅周辺を歩く人が増え、周辺地域の商店街にもお金が落ちるのではないかとイメージしています。
観光連盟事業者は事業者のお困りごとに対してアドバイスをするのが仕事。事業を行うためのプレスリリース等のPRのお手伝い等の後方支援の役割を担っています。観光は地域活性化の一要素であると考えています。観光を通してどう地域を活性化できるかを基本に考えています。その中で、百貨店の重要性を非常に痛感しています。お客様は百貨店を目掛けて行かれます。百貨店は街じゅうの賑わいとなるような拠点として、これまでそうであったし、これからもそうあるべきだと思います。観光を通して、貢献できることを今後も西武福井店と一緒に考えていきたいと思っています。
明城ファーム 明城義和代表
明城ファームは、トマト栽培を中心に平成9年からスタートしました。いちごの試験栽培は平成14 年からです。
ネットショッピングで、今日注文すれば今日、明日にも届いてしまう時代に農業として違った展開が出来ないのか?新たな展開を模索しなければいずれ地元の農業者の役割が無くなってしまう。地元で農業をする意義を何か創り上げたい。近い距離だから可能な展開を何か確立したいと考えていました。様々な情報を頂きながら考えた末に、思い切って今回の取組みに参画しました。売り上げ拡大が目的ではありませんが、それに繋がるに越したことはありません。(笑い)
この取組みは、配送コストがかからない地元だからこそできる事です。ネットショッピングにはないメリットです。
西武福井店の屋上は、客席を含め約1000㎡の広さがあります。ここに16m× 16mの畑スペースを作り、高い可搬性を実現する160個のプランターを置いています。1プランターは10株、1株には最低8粒のいちごがなっています。イチゴがプランターから無くなり次第、新たなプランターをファームから持ち込むローテーションを行っています。
「ふくい天空のいちご狩り」で楽しめるいちごの品種は「はるひ」、「すず」、「よつぼし」の3種類。市場にはあまり出回らない、雪国の寒さに強い品種を含んでいます。
最も苦労するのは、生きているイチゴを違う環境に移動させることです。寒さ等いきなり過酷な環境に放り込む。ならば、過酷な環境に放り込める段取りをしなければならない。今までの栽培には無い手間があります。
屋上でいちごを維持管理するために様々な福井の技術を取り入れています。単にいちごプランターを運び入れて終わりではなく、出来るだけ長く維持管理できる生産性、収益性が大事です。そのために、日射形式灌水システムにより日射量に応じて給水する農業IOT※を活用しています。湿度や風の状況に応じて、スマートフォンを利用して潅水を遠隔にて実施すことが可能です。また、培地には排水が良くなる様に福井(前田工繊・坂井市)の繊維技術を使っています。土木用の排水材として培ってきた技術を応用した繊維資材で、排水効率の良い培地を実現させ、従来のイチゴ狩り施設・運営企業の課題を解決するものです。前田工繊の技術を応用する事で、排水性が従来のシステムより250%向上させることができました。
※IOT
IOTは"Internet of Things"の略でモノのインターネットのこと。様々な「モノ(物)」がインターネットに接続され(単に繋がるだけではなく、モノがインターネットのように繋がる)、情報交換することにより相互に制御する仕組み。
西武福井店に来られていちご狩りを楽しまれるお客様は、いちご狩りの経験が無い方が相当数いらっしゃることが今回判明しました。いちご狩りの需要はあるが供給が伴わないのも要因の一つでしょう。また、お孫さん連れのご高齢者が圧倒的に多いです。福井は元気なご高齢者が多いですが、免許を返納した方は弊社の既存いちご狩り施設になかなか来にくい。交通の便が良い福井駅前であれば、お孫さんを連れていちご狩り体験をして頂けます。これらは弊社の既存いちご狩り施設にはない新たな客層です。
このように、農業の力を使うことで歩く人の少ない福井駅周辺が少しでも活気のエリアへ変貌できれば面白いですね。これは我々にしか出来ない事。農業者にしか出来ない取組みをして貢献していけたらいいと思っています。各地方にも百貨店があり、必ず農家があります。我々がこのノウハウをどのように提供できるかわかりませんが、我々をモデルケースとして、各県でこのような取り組みをしたら面白いと思います。街や地域の活性化を農業が担うことができたら農業というものは楽しいと思えるでしょう。高齢化、担い手不足と言われる農業が元気になっていくと思う。そこが一番の目標です。そして西武福井店の発展が願いです。
西武福井店 販売促進課山田浩史課長
昨年5月に初めて福井県観光連盟から打診がありました。都会のビルの屋上でのいちご狩りの企画を明城ファームと立案されているとの事。「それに適する場所を福井の駅前で探しています。西武さんの屋上はビヤガーデン以外の時期はどのような状況ですか。」との問いかけでした。明城社長からは、是非この様な事にはトライしてみたいとの熱意あるお話を伺いましたが、福井は雪が降りますから、当然冬は屋上で何も営業ができない。
お貸しする事は可能だが、最善の方向を目指して今後協議していきましょうとの段階から始まりました。
先ず、30万人弱の人口商圏の福井市で永続的な事業として成り立たせるには、外的な観光客やリピート客向けの企画の軸は作るべきとのお話をしました。百貨店はそもそも観光地ではなく、観光目的で来られ方はおりません。しかし、いちご狩りをやるにはそのお客さんを呼ばないといけない。県観光連盟と明城ファームには、お客さんに向けての外的な発信や宣伝活動をしないとお客さんは来ませんとのアドバイスを致しました。
西武福井店は駅前で商売をさせて頂いており、尚且つ福井県唯一の店舗ですので、当店はいちご狩りオープンの広告(2度の新聞と折り込みチラシ、SNS、案内看板を1階エレベーター前に設置)の強化を図ってまいりました。
日々の納品量が多い百貨店での納品が課題になるであろうことは当初より共通認識を持っていました。毎日、お客様が新鮮ないちごを味わって頂くためのスムーズな納品はどうあるべきかの協力体制を取っていますが、最善の配送体制に向け改善すべき点はあります。それは来年度の課題でもあります。
衣服や食品を買われる百貨店の顧客層と観光目的の明城ファームの顧客層は、相容れないものですが、「ふくい天空のいちご狩り」のご利用客は、お子さんが中心です。当店にとって、お子様を中心としたご高齢者やファミリーの新たな顧客層が百貨店に足を運んでくださるのは、とても有り難いことです。例えば、屋上にお孫さんと共にお越し頂けることで、階下の子供服売り場の売上が上がると考えています。
福井の駅前には恐竜モニュメント以外にもこんな楽しいものがあるのだと思ってもらえる百貨店でありたい。地域に信頼されるお店でありたいとこれまで思って参りましたが、この様な新しい取組みにより県民の皆様への情報発信源となれることで、将来に向けて継続的に百貨店の価値を上げることができると考えています。
福井県にとっては、100年に一度の大事業といわれている北陸新幹線の新幹線延伸が来年春に控えています。これに伴う福井駅前のにぎわいの一助にもなるよう、今後も地域の皆様と連携してまいります。
敬称略
ふくい天空のいちご狩り 概要
会場 :西武福井店 屋上スカイテラス
期間 :3月10日~5月中旬 ※いちごの生育状況による
定休日 :火曜(祝日の場合は営業)
営業時間:いちご狩り 午前10時~午後4時 カフェ 午前10時~午後6時
予約方法:オンラインによる事前予約 ふくいドットコム(福井県観光連盟)、じゃらん
料金 :大パック(約12粒程度)1,500円 小パック(約6粒程度) 1,000円
カフェ提供メニュー(一部抜粋):
いちご屋さんのいちごパフェ1,620円、いちごみるく580円
西武福井店
店舗名 西武福井店
所在地 福井県福井市中央1-8-1
アクセス JR北陸本線、福井鉄道福武線、えちぜん鉄道福井駅下車
開店年月日 1967年3月21日
売場面積 16,384㎡ B1F~8F
※周辺地域の人口:福井市 約75万