デパートのルネッサンスはどこにある? 2026年03月01 日号-第133 回 髙島屋堺店閉店とデパートゼロ県
インバウンドバブルがはじけ、都心でも閉店ラッシュが始まった


高市首相は1月23日の通常国会で衆議院解散することを決めた。そのニュースら、1か月もたたないうちに、自民党の圧勝を経て新たな高市内閣がスタートした。日経平均が一時58000円を超え、その後はじりじり下がってはいるものの、就任時以来の「高市相場」だと言って経済メディアは盛り上がっている。
新たな高市内閣の支持率は73%前後だと言うが、実際に我々の生活(実感?)はまだ改善された訳ではない。
本紙は百貨店業界紙なので、これ以上の言及は差し控える。デパートは小売業なので、株価の上昇で景気が良くなるなら、それに越したことはない。期待して待とう。
髙島屋堺店閉店
そんな中であるテレビ局が、正月早々「地方百貨店」をテーマに取材を行い、緊急特番を放送した。起点は1月7日に閉店した髙島屋堺店のニュースだ。もちろん大手新聞各社(朝日、読売、毎日)も閉店を伝えているが、お馴染みの「閉店は寂しい」的論調である。先ずは株式会社髙島屋の村田善郎取締役社長が一年ちょっと前の2024年12月3日に発表した「髙島屋堺店の営業終了に関するお知らせ」から見ていこう。
髙島屋堺店の営業終了に関するお知らせ
記
1.営業終了に至った経緯
髙島屋堺店は、1964年10月に開店して以来、約60年に亘り、地域の皆様にご支援をいただきながら営業を継続してまいりました。その間、地域ニーズに合わせた食料品売場の改装や大型テナントの誘致などを通じて営業力強化策を実施するとともに、業務効率化や要員の適正化にも努めてまいりました。
しかしながら、2020年度に営業赤字を計上して以降、赤字基調が続いております。また不透明な消費環境など中長期的に勘案しても、黒字化の目処がたっておりません。これらのことから、建物賃貸借契約の満了時期をふまえ、2026年1月をもって堺店の営業を終了することを決定いたしました。
なお、堺店をご利用いただいているお客様には、大阪店、ならびに堺店と同市内にある泉北店を中心に引き続きご愛顧いただけるよう、十分な体制をとってまいります。
2.髙島屋堺店の概要
・所在地 :大阪府堺市堺区三国ヶ丘御幸通59番地
・店長 :並 司
・開店:1964年10月4日
・売上高 :10337百万円(百貨店)※2024年2月期
・売場面積 :25395㎡(百貨店:15957㎡専門店:9438㎡)※2024年11月末時点
・従業員数 156名※2024年11月末時点
3.営業終了予定日
2026年1月7日(水)
以上だ。
このテレビでの報道は、「地方百貨店の現状と未来」というキャプションからして、我らがデパート新聞としては「放っておけない」テーマなので、ざっとご紹介した上で論評を試みたい。
※ここから
大阪府堺市にある高島屋堺店が、1月7日に61年の歴史に幕を下ろしました。
近年、地方の百貨店が次々と閉店する「閉店ラッシュ」が続いています。
なぜ地方百貨店は苦境に立たされているのでしょうか。
61年の歴史に幕を下ろす高島屋堺店
「高島屋堺店」がオープンしたのは、東京オリンピックが開催された1964年。当時、屋上には遊具や観覧車も設けられ、家族が1日を過ごせる場所としてにぎわいました。
しかし、2020年度以降、4期連続で営業赤字を計上。ビルの契約満期も近いことから、61年の歴史に幕を下ろすことになったのです。
※ここまで
筆者コメント1
ここはちょっと裏取りが必要だ。本稿の後半でも触れているが、堺店の建物は髙島屋の自社ビルではなく南海電鉄の所有である。であれば営業赤字イコール業績不振が閉店理由では、というのは余りに短絡であろう。跡地は南海がテナントビルとして運営するという事は決定済みなのだ。。
もちろん、賃料に見合う利益が出せないのなら、百貨店として「撤退」「閉店」の2文字からは逃れられない。人件費の高い社員が大勢働いているのが百貨店だからだ。テナントビル化すれば人件費が少なくて済み、ビル運営は賃料で賄える、と考えるのは間違ってはいない。
当社は、2024年12月3日、髙島屋堺店の営業終了について取締役会決議をいたしましたので、下記のとおり、お知らせいたします。
本コラム前号でお伝した、米子髙島屋の森紳二郎社長のインタビューで、氏が髙島屋洛西店での経営改善事例として「営業時間の短縮」について答えてくれた。
営業時間の短縮により、販売スタッフの2交代制(早番・遅番)を廃し、一直(通し)勤務とすることにより、人件費を削減するのだ。もちろん休館日の増も同様の効果が得られる。そしてそれは顧客が「お目当てのスタッフ」と会える機会(確率)を着実にアップさせるのだ。
百貨店は典型的な労働集約的産業であり、「人件費の圧縮」というのは、他の小売業に比べて、経営を左右する大きなポイントだ。
そして百貨店に来店される顧客にとって、接客=おもてなしは「最も」大事な要素である。森社長は現場スタッフと顧客との接触機会を増やすために営業時間を短縮するという「逆転の発想」で、この問題を切り抜けたのだ。
※くわしくは2月15日号のインタビューを参照願いたい。尚、都心のデパートである松屋銀座も、同様の手法で収益を改善している。
営業時間の短縮により、「従業員の働き方改革」「人件費の削減による収益改善」「顧客との接触機会増」という三つのプラスを捻出できたのだ。文章にすればたったの2行だが、大変な調整作業が必要であり、何よりトップの決断と実行力がなければ達成できない。営業時間短縮と休館日の増を、単純にサービスの低下と考える客や、売上ロスだと考える社員や役員もいるであろうから。
ただ一つ残念なのは、髙島屋洛西店は1月7日に閉店した堺店に続き、今年の8月3日での営業終了が既に発表されていることだ。
閑話休題
堺店の閉店のニュースに戻ろう。近隣住民のインタビューからだ。
高齢の顧客「両親との思い出の場所なので、ありがとうと言いたいです。おもちゃを買ってもらった思い出がたくさんなので本当に悲しい」 なぜ、高島屋堺店は苦境に立たされたのでしょうか。店長の並さんは、ネット通販の台頭で減りつつあった客足が、コロナ禍のあとも戻らなかったことが理由だと話します。
高島屋堺店店長「コロナ明けに、やはりお客様の足が一気に都心部へ向かって行かれた」「より多くのものから商品を選びたいというお客様のニーズの中で、やはり地方の郊外店については制約があった」
現在、堺店には、高級ブランド店はあまりなく、売上の多くを占めるのは、食料品です。さらに、堺市内には近年、競合相手となる大型ショッピングモールが次々と進出。 ショッピングモールを訪れる客に聞いてみると、百貨店離れの実態が見えてきました。
イオン利用客「近くにイオンができて、高島屋に足が向かなくなった」「人にお菓子持っていったりとか、不幸があった時のお供えとか。でもお供えとかイオンでも買えるので。時間あったら髙島屋行くけど、時間がなかったらここで足りている。行く回数も減っているかな」
百貨店が1つもない「ゼロ県」は今後も増える
髙島屋は今年8月にも、京都市西京区にある洛西店も「黒字化の見通しが立たない」ため、営業を終了する予定です。近畿と徳島ではここ10年ほどで都市圏から離れた「郊外」にある百貨店が相次いで閉店しています。
現在、百貨店が1つもない「百貨店ゼロ県」は、徳島県、島根県、山形県、岐阜県の4つです。これらの県では、百貨店の閉店が相次ぎ、地方経済に大きな影響を与えています。専門家は、ショッピングセンターや地域のスーパーが存在感を増すなどして、百貨店ゼロの県がさらに増えると予想します。
筆者コメント2
業界関係者によると「事実上倒産したり、本当は潰れているのに、行政や銀行、地元企業が支えて潰さないようにしているところもある。残念ながらデパートゼロ県は10県、15県とか20県くらいまでにいくかもしれない」という。
48都道府県のうち20県というと4割を超える勘定だが、この30年で百貨店の総売上は半減しているのだから、あながち間違った推測とは言えない。
東京、大阪、愛知など、大都市を擁する百貨店複数の都府県と、地方の格差は急激に広がっており、この後もそれが縮まる理由はない。
但し、毎回同じ事を述べて恐縮だが、都心デパートといえども、けして安泰ではない。
東急百貨店本店、小田百貨店本館といった大都市圏での大型の閉店案件が続いているのも事実だ。名古屋駅の名鉄百貨店もこの2月末に71年の歴史に幕を下ろす。
これらの百貨店に共通するのは、自社の運営する電鉄のターミナル駅(渋谷、新宿、名古屋)である点である。自社の起点駅の直上に、かつては集客装置とし「デパート」が必要不可欠であった。
それが現在は顧客の高齢化に建物の老朽化が重なり、経営サイドからすると「ビルを立て直してでもデパートを続ける理由はあるのか」という素朴な疑問が芽生えるのかもしれない。一方で「働き手不足」という問題も年々顕著になって来ており、ビルも人も(客もスタッフも)古くなり、百貨店という業態が時代に合わないのでは、という見方が増えている。
メディアがデパートの閉店を伝える姿勢も「ノスタルジー」一辺倒なのも、そのせいかもしれない。
※因みに小田急百貨店新宿店本館は新宿西口のハルクに移転をして営業を続けているので、本館(本店?)が閉店した、という表現は間違いだ。新宿本館跡には48階建てのビルを建設中で、2029年に再開発ビルが竣工予定だ。そして渋谷東急同様、デパートとして営業を再開するとは発表されていない。
跡地に「HiViE(ヒビエ)堺東」開業へ
因みに毎日新聞によると、髙島屋堺店は南海電鉄堺東駅の駅ビルに1964年10月に開店した。売上はピーク時の1991年度の300億円から2024年度に102億円まで減り、5年連続で赤字だった。
髙島屋は東京や大阪の都市部の大型店舗が売上を伸ばす一方、郊外や地方都市では厳しい状況が続く。2014年に和歌山店、2020年に港南台店(横浜市)が閉店し、2023年に立川店(東京都立川市)が専門店化した。2024年に岐阜店が閉店し、2026年8月に洛西店(京都市)が営業を終える予定だ。
駅ビルを所有する南海は、跡地に商業施設「HiViE(ヒビエ)堺東」を開業する。改装工事をこの4月から始めるが、開業時期や入居店舗は明らかにしていない。南海は「これまで来ていた地域住民や百貨店の利用者にも支持される施設を目指す」と説明する。
髙島屋の地方店縮小は一例に過ぎない、売上データから全体を俯瞰してみよう。
インバウンドは真夏の世の夢なのか
インバウンド消費や株高景気に押し上げられて活況を呈していた都心の百貨店も、2025年12月は免税売上が急減して失速。2025年通期の全国百貨店売上総額も5兆6755億円と前年から1・5%減少して2019年比99%、衣料品は同2・2%減少して2019年比90%に落ち込んだ。
2025年11月までの活況が実力だったのか、インバウンドに押し上げられた束の間の幻だったのか。斜陽産業というか絶滅危惧種という百貨店の命運は変わらないのだろうか。
免税売上を除くと
コロナ明け以降の百貨店売上は、コロナにより抑制されていたリベンジ消費と、インバウンド需要の復活によって、急回復していった。そのインバウンドの勢いを支えていたのは免税売上だったのは、ご承知の通りだ。ここで、全国百貨店の売上総額の推移を確認してみよう。コロナ前の2018年の5兆8870 億円がコロナ禍の2020年に4兆2204億円まで落ち込んだが、徐々に戻り
2021年は、4兆4183億円
2022年は、4兆9812億円
2023年は、5兆4212億円
2024年は、5兆7722億円
と回復、2 0 2 4 年2018年の水準には至らなかったものの(98.0%)、2019年の水準は超えた( 100.3%)。とは言っても、免税売上は2018年の3396億円、2019年の3461億円から、2024年は6487億円、2025年も5667億円に増加しており、免税売上を除いた真水の国内売上高は2024年で5 兆1 2 3 4 億円、2025年で5兆1087億円と、2018年の5兆5474億円はおろか2019年の5兆4086億円にも届いていない。
2025年で2018年比92.1%というのが実力だ。
全国百貨店売上総額に占める免税売上比率は、2024年で11・24%、2025年で10%を下回るものの、東京や大阪の都心百貨店では最盛期には25〜50%にも達していた。
要は大都市圏では大きな恩恵を受けたものの全体で1割のプラスだった、ということなのだ。もしインバウンドが再び落ちれば直ぐにメッキがはげ落ちる、という「危うい好景気」なのだ。
政治的な理由から、中国からの観光客が減少しても、SNS上では「観光地のオーバーツーリズムが緩和されて、却ってありがたい」などとネトウヨまがいの強気発言が散見される。
が、こと百貨店の免税売上に関しては、2024年に既にそのピークを過ぎており、2025年からは徐々に縮小しているのは、毎月本紙の1日号に掲載される「インバウンド速報」をお読みいただければ判るだろう。
※発表の曜日の関係から3月1日の「1月のインバウンド速報」は3月15日に掲載の予定だ。申し訳ないが半月お待ちいただきたい。
最後に、繰り返しになって恐縮だが、過去記事の再掲で締めくくろう。
閉店の論理
丁度1年前の2025年3月1日号「止まらない百貨店の閉店 進む転用(非百貨店化)」で筆者はこう記している。
※同年5月1日号にも再掲載
呉服系の老舗や電鉄系を問わず、大手百貨店はシビアな物差しで閉店の判断をしている。銀座、新宿、渋谷といった、全国屈指の繁華街を擁する巨大ターミナル駅であっても、例外ではないことは、本コラムで何度も伝えて来た。
大手百貨店は「資本原理」で閉店判断をしているのだ。彼らには「出来る限りデパートを存続する」などと言う「甘っちょろい」論理や義務感は存在しないからだ。
もちろん客商売であるから、二義的には「地域の消費拠点を守る」という意識が皆無ではないが、「儲からない事業からは潔く撤退」することが彼らのミッションであり、それはそれで当然のことなのだろう。判るのは「百貨店という選択肢を選ばない」という「非百貨店化」が都心、郊外、地方を問わず進行しているという事だ。

デパート新聞編集長

