デパートのルネッサンスはどこにある? 2025年11月01 日号-第125回 デパートを巡る様々なニュース 後追い記事の後を追う

 大手百貨店の売上は、この半年間(8月まで)前年を下回り続けた。もちろんこれは「前年がコロナの終息と円安が重なり、インバウンド売上がピークだった」事が影響している。
 そして、昨年の下期からはその訪日観光客売上がピークアウトし、従って今年の9月(一部は8月)からは前年比が回復した、というニュースだ。

※先ず、この半年は前年を下回った。

大手百貨店3社、訪日客の買い物減少で営業益が大幅減 8月中間決算

 大手百貨店3社(三越伊勢丹、髙島屋、Jフロント)の2025年8月中間決算が出揃った。今年の春以降、円高が進んだ影響でインバウンド(訪日外国人客)による消費意欲が低下し、3社とも本業の「儲け」を示す営業利益が前年値を大きく下回った。
※消費意欲が下がったというよりは、消費の選択肢が増え、百貨店でのブランド購買の優先順位が下がった、というのが正しい言い方と思われる。訪日客自体は減っていないからだ。

 昨年の円安による「割安感」が薄れたことと、日本で「買う」より日本を「楽しむ」日本で「過ごす」観光客の割合が増加した結果であろう。我が国が標榜する「観光立国」という観点からは「望ましい」方向だ。

 もちろん、この2年ほどインバウンドバブルを享受していた都心の百貨店にとっては、売上の大きなマイナスは避けられないが。

 J・フロント( 大丸松坂屋) の純利益は前年同期比36・9%減の183億円となった。高級ブランドのバッグなどが落ち込み、単価が比較的安い化粧品は好調だった。J・フロントの小野圭一社長は「インバウンド売上を安定させるためには日本の素晴らしいものを提案することが重要だ」と述べた。

 筆者には「少し大雑把過ぎる」提言に感じる、「素晴らしいもの」の中身を是非伺いたいところだ。

 髙島屋は、テナントも含めた売上高が前年同期比3・9%減の4871億円で、営業利益は17・8%減の236億円だった。只、東京・品川のビル売却益を計上した事により、結果として純利益は212億円(11・2%増)と増益となった。

 訪日客の買物を示す免税売上高(インバウンド売上)は438億円と、前年より29% 減った。2024年7月に1ドル= 1 6 1 円台になったが、今年4月には140円台にまで円高が進んだのだ。

 訪日客にとって、宝飾品や高級時計など高額品を日本で買う割安感が薄らいだという。村田善郎社長は会見で、「昨年はインバウンドが過熱気味だったため、反動で減収となった。ただ、8月からの国内の株高で富裕層、中間層ともに売上が堅調になりそうだ」と前向きに語った。頼みの綱が外国人から金持ちに移った訳だ。

亡霊?

 それでも、一週間もしないうちに、9月の数字が出て来た。実は、今年に入ってからの「売上数字」は「それほど悪い」という訳ではない。

 「前年比」という名前の「亡霊」に一喜一憂しているだけなのだ。この辺りのコトは2025年9月15日号の本コラム「インバウンドバブルの終焉? 訪日客が過去最高も都心4社は前年割れ」の小見出し「前年比の呪縛」にも書いたので、ご参照願う。

 「デパートパーソンの現場は常に、日々の売上(中略)そして何より『前年対比という亡霊におびえながら過ごしているからではないかと思う。(中略)前年比という亡霊は、デパート人に付きまとい「去年はこうだったのに」という幻影を見せつけてくるからだ。この呪縛から逃れるのは「前年達成」という護符だけなのだ。」と。
※おびえてはいるけれど、実態としては何でもない。何せ本当に亡霊の様なモノなのだから。

 現場の担当者は「当然判っている」のだが、報告資料はすべてが「前年対比」至上主義なので、去年に比べて「良いか悪いか」だけが記録に残る。仕方ないけれど、筆者としてはちょっと釈然としない。

 デパートに限らないが、「前年比は上回って当然」は中年を過ぎた上司の悪癖であるし、昭和バブルの名な ご り残といったら大げさだろうか。 

※そして9月からは基調が回復した。

百貨店4社、9月は全社増収 前年円高反動から2社が免税売上増収

 三越伊勢丹など百貨店大手4社が10月1日に発表した9月の既存店売上高(速報値)は、2月以来7カ月ぶりに全社が前年同月比で増収となった。免税売上高は前年に円高が進行した反動などで2社が増収、国内売上高は全社が増収だった。

 訪日外国人客(インバウンド)の高額消費の一巡により、免税売上高は今春以降全社で前年割れが続いていた。最大で前年同月比3〜4割減の月もあった。

 8月以降は前年に円高が進み、インバウンド消費が落ち着いた反動が出始め、各社ともに持ち直した、という構図だ。

 免税売上高は大丸松坂屋百貨店が11・8%増だった。「ポケモンセンター」など知的財産(IPコンテンツ)を扱う店舗や化粧品などがけん引した。小野社長の言う「日本の素晴らしいもの」とは、これなのかもしれない。

虚業?

 筆者の様なひねくれ者は、つい「いつまでマリオやポケモンに頼ってるんだ!映像コンテンツだってアニメばかりじゃないか」と言いたくなってしまう。

 失礼、今やアニメやキャラクターなしには日本は成り立たたない、と言う事は、頭では解っているつもりだ。

 日本国内もそうだし、日本から海外へもそうだ。電気製品やスマホ、パソコンもそうだったが、自動車だって「メイドインジャパン」の輸出が難しい時代なのだ。天下のソニーが、今は何で儲かっているのかを調べればわかる事だ。

 筆者はアニメやゲームのコンテンツが虚業であり、家電や自動車の様な実業には及ばない、等と時代錯誤な議論を吹っ掛ける気は、もちろんない。商売は「昔は売れたけど今は売れなくなった」の繰り返しだ。お客が飽きたら、次の「商あきない」を探すのが、商売の神髄であるからだ。

 我らがデパートも「モノからコト(サービス)」への転換を図る時代だという事なのだ。※後述する観光立国の話にも繋がってくる。さて、この辺で話を戻そう。 

髙島屋も、化粧品やスポーツ用品が好調で2・7%増だった。2社とも客単価は今春以降2ケタ減が目立っていたが、9月は2〜3%減にとどまった。既存店売上高は大丸松坂屋が7・9%増、高島屋は4・8%増だった。

 三越伊勢丹の免税売上高は7・5%減だった。客単価は前年超えの一方、客数が減った。同社は「コト消費やIP商品などに関心が移っている」と分析している。既存店売上高は7・2% 増だった。

 エイチ・ツー・オーリテイリンググループの阪急阪神百貨店は免税売上高の実数は非開示だが1%以下の減少、既存店売上高が3・2%増だった。

 尚、国内売上高は全社が増収だった。三越伊勢丹は得意客向けの催事が押し上げ、9・9%増と伸長した。大丸松坂屋は松坂屋名古屋店の栄地区での開業100周年を記念した催事などが好調で2・4%増だった。髙島屋は北海道物産展などの効果で4・6%増、阪急阪神は阪神タイガースのリーグ優勝記念セールなどが寄与して前年超えとなった。

優勝セール

 この記事が掲載される頃には阪神タイガースの日本シリーズ優勝記念セールが開催されているかもしれない。特に第3戦~5戦は10月28日~30日の日程で阪神の本拠地甲子園球場で、福岡ソフトバンクホークスを迎え打つ。

 この3連戦で仮に阪神の優勝が決まれば、10月31日の金曜日からセールがスタートし、などと計算し、阪神百貨店の担当者は気が気ではないだろう。

 そういえば、地元の野球チームが優勝して、デパートの記念セールで買物をする、というのは、最近はあまり話題にならない。プロ野球のファン層と百貨店の購買層が、いつの間にか乖離してしまったからだ。

 一抹の寂しさを感じるのは、筆者がそういう世代に属しているからだろう。消費が「大衆」の物であった「古き良き時代」だ。但し、前号でお伝えした様に「ノスタルジー」は安易に「昔は良かった」的な錯覚を起こさせるから注意が必要だ。セクハラやパワハラやカスハラといった悪事が、認められなかった社会、時代であった事を肝に銘じよう。

 昔はテレビのチャンネル権は親父が握っていたので、子供達はいやいや野球中継を見せられたという記憶がある。家族団らんという言葉があった頃だ。

 今の若者はテレビ自体を見ないので「チャンネル争い」という言葉も知らないだろう。こと、家庭内メディアについては、独裁体制から着実に民主化が進んだのだ。「プロ野球をテレビで見る」時代は終わったのだから。そんな若者にとっては「今が良い」だろう。余談だが、ヤクルトや日本ハムが優勝しても、デパートでセールがないので盛り上がらず、ちょっとがっかりした記憶もある。不謹慎の誹りは免れないが…

 さて、ここからは少し斜め上からデパートの未来を考えてみよう。

 今や、デパートとインバウンドは切り離して話も出来ない時代となった。そして前述した様に「観光立国」という言葉も定着した様だ。

 次に取り上げるのはその観光と百貨店を巡る2つのニュースだ。但し、都心と地方では「観光」という光が当たると、その表と裏が見えてくる、という構図だ。

※先ずは表側のニュース

免税廃止に難色 阪急阪神百貨店の親会社社長が期待する「観光立国」とは。

 インバウンド需要の後押しを受け、阪急阪神百貨店を傘下にもつエイチ・ツー・オーリテイリングは、百貨店事業がグループ全体を牽引し過去最高の営業利益を達成した。

 訪日客向けの免税制度を廃止する議論が動きを牽制し、荒木直也社長は「観光立国を目指すうえで大きな魅力をそぐことになるのでは」と懸念を示した。

 以下、荒木社長との一問一答

Q 昨年度の百貨店の免税売上は1300億円。なぜここまで伸びたのでしょうか。

 「国内の消費が堅調に推移したなかで、免税売上が前年度から500億円も増えました。ほぼ通年で円安基調が続いたことに加え、昨年の第1四半期にラグジュアリーブランドが次々値上げをし、その直前の駆け込み消費があったことも大きな要因です」

Q 御社の中期経営計画には「海外顧客ビジネスへの注力」を挙げていますが。

 「人口減で国内消費が大きな成長を見込めない中、海外顧客は大きなビジネスチャンスと捉えています。インバウンド消費に対する人材投資や研究開発を重点的に進める方針です」

Q 阪急梅田本店も改装を控えていますが。

 「購買力の高い国内外の富裕層などに向け、フロアやサービス、施設を充実させていきます。年間100万円以上のお買い物をされる海外VIP専用の免税カウンターも設けました。カウンターで立ったまま並んでもらっていたのを、座ってゆっくり手続きできるようにしました。その間にご要望を伺ったり、例えばお子さん連れの方には折り鶴を折って渡したりしてコミュニケーションを図る。いかにリピートでご来店いただけるかを重要視しています」

Q 今後のインバウンド需要の動向はどうなるとお考えですか。

 「年々訪日観光客の数が増え、日本はまさに観光大国になりつつあります。我が国の観光先としてのポテンシャルは我々の想像以上に高かった。四季の移ろいやホスピタリティーの良さ、アニメやゲームなどのコンテンツと、多様な観光資源があります。インバウンド需要にもまだまだ伸びしろがあると思います」

※都心の大手百貨店においては、ピークアウトしたとは言っても、まだまだインバウンドの貢献はかなりのシェアを維持するだろう、という事の様だ。

 但し、いつもの事だが、都心百貨店と地方デパートでは、同じ現象が、逆向きに作用する。

※そして裏側のニュース

長野・松本の井上百貨店跡に外資系ホテルを誘致へ

 ホテル事業や不動産事業などを手掛けているエム・ケー・ケー( 長野県松本市)は、今年閉店した「井上百貨店」跡の土地・建物を取得した。JR松本駅前中心地の新たなにぎわいの創出を目指し、外資系ホテルを誘致する。

 取得した建物の規模は、鉄骨鉄筋コンクリート造地下1階地上7階建て延べ約1万3594平方メートル。1979年3月に完成した。井上百貨店は2025年3月末まで営業していた。

 同社では既に、同百貨店の別館「旧・ベルモール25」を、2011年に丸善松本店をキーテナントとする新たな商業ビル「コングロエム」として再生させた実績がある。こういった再生プロジェクトの実績をふまえ、今回取得した建物をそのまま活用してフルリノベーションし、外資系ホテルを誘致する計画を立てた。地階には店舗などのテナントを誘致する予定だ。

 同百貨店の所在する取得した土地は、長野県松本市深志2の1の10の敷地約2781平方メートル。JR「松本」駅徒歩4分に立地する。

 本コラムで2025年4月1日15日号でも詳しくお伝えしているが、ここは「パルコも井上も閉店した松本」なのだ。松本の商業施設はイオンだけを残し、ホテルへの転用が進むのであれば、都心以外の百貨店については、日本のどこであっても、観光立国の名の元に、ホテル化が進むのは避けられないのかもしれない。

 松本は国宝松本城を擁する「観光立国」の見本の様な地方都市であり、であればこその百貨店建物のホテル転用である。こういった例は金沢や姫路、川越などでもみられるかもしれない。

 一方で大都市圏に比較的近い物件(失礼!百貨店)は、マンションへの転用が進むだろう。それでも、転用して役に立つ建物は限られている。

 駅近であり、かつ建物が新しいという条件があるからだ。老舗百貨店であればあるほど、建物の老朽化が激しいのは当然であり、老朽化を理由に立て直しをする余力がなければ「廃業=取り壊し」という道しか残っていないパターンが多いからだ。

 地方の百貨店は売上減とともに、ビルの耐用年数という「閉店圧力」も加わる。苦しい戦いは続く。