渡辺大輔のデパート放浪記 - ペンを捨てよ、街へ出よう - (第24 回 富山編その6 )

 富山で見つけたら飲んでおけ・買っておけという地酒があるらしい。「勝駒」という銘柄だ。小さな酒蔵が丁寧に造っているものだそうで、そのため、味の良さはもちろんのことながら、なかなかお目に掛かれない希少品だという。

 純米酒でも精米歩合が大吟醸並みの50パーセントらしいので、数多く生産できないのはそういった理由もあるのだろう。土産用にと大和富山店で探してみたが見当たらず、昨晩、縮こまる思いをした居酒屋でも品書きになかった。

 人影まばらな、それでいて工事の騒音が響く中央通りを歩きながら、ふと酒屋を訪ねてみようと思い付いた。昔からこの街にある店なら、買い物ついでに話が聞けるかもしれない。玉砕続きで落ち込んでいた私は、気持ちを切り替えてズボンのポケットからスマートフォンを取り出した。

 さほど離れていない場所に、いくつか酒屋が見つかった。その中の一つを目的地に設定して、足を前に振り出す。

̶̶富山の人は、冷たいわけじゃない。

 先ほど組み立てた仮説に先導してもらうように歩く。しばらくして、地酒の銘柄が書かれたのぼりはためく店が視界に現れた。

 こぢんまりとして派手さもなく、地に足のついた雰囲気が頼もしい。店内は照明が点々とつくだけで薄暗く、音楽も流れていないので静かだった。

 聞こえてくるのはお客と店員とのぼつぼつとした会話だけだ。どちらも見た目は50歳くらいの女性だった。お客は買った酒をどこかへ送りたいらしい。店員はのし紙の有無などを尋ねている。内容から観光客への対応だとわかるが、店員の声の調子はまるで弔問客に向けるもののようだ。

 昨晩の居酒屋や先ほどの中央通りでのそっけない扱いが脳裏によみがえって、思わず体が硬直する。店番は一人だけのようなので、女性店員の手が空くのを待ちつつ、棚から「勝駒」を探すことにした。

 品ぞろえから、真摯に造られた酒を勧めているのがわかる。山形では目にすることのない銘柄も多く並んでいたが、勝駒は見つけられなかった。

 用を済ませたお客が店を出ていく。手帳に何かを書き付けている店員の様子をうかがい、機を見て「すみません」と声を掛けた。

「『勝駒』というお酒は置いてますか」

 私の質問に、彼女は「ああ」とだけ返して言葉を切る。その響きからは、ややうんざりした疲労感のようなものが感じ取れた。

 私は察する。きっとこんなお客が何人と来るのだろう。切り出し方を間違えたと反省していると、次の言葉があった。

「あれはもう、売れちゃって」彼女は淡々と言う。

「なかなか手に入らないものらしいですね」

 残念だが、もともとの目的を達成しようと会話を立て直す。デパートには置かれていなかったことに触れて、そこを起点に街の履歴について尋ねてみる腹積もりだ。

「中央通りで大きな工事をしていましたが、この辺りも昔と比べて変わったとこがあるんですか?」

 その時、彼女の表情に明らかな警戒が現れた。
「さあ、どうなんでしょうね」 彼女は再び手帳に何かを書きだした。

 これ以上は踏み込むべきでない。そんな雰囲気があった。

 ワンカップに入った地酒を一つ買い、礼を言って店を出る。

 胸にじんじんとした感覚が走る。それは喜びに近いものだった。

̶̶やはりここは、うそ臭さのない街なのだ。
 抱いていた仮説が補強されたような気持ちだ。 

 考えてみれば、見ず知らずの人間に対してあからさまな歓迎の意を表すことの方が不自然ではないだろうか。だけど我々は、社交のためだとか商売のためだとか、さまざまな理由から建前の態度を身に付けてきた。

 私が「冷たい」と感じた人たちはおそらく、私を拒絶したわけではない。「愛想」といううそを間に挟まずに、初対面である私に接しただけなのだ。

 きっと、よそ者である私と彼らとの距離はまだ遠い。だが私は、この街に安堵にも似た信頼を感じていた。

(続く)