復活への道を模索する百貨店

百貨店とは、あらゆる数(百)の商品(貨)を扱い、主に対面式の販売を行います。また、都市の中心市街地に店舗を構える大規模な小売店のことをさします。

コロナ禍を経て低迷からの復活を目指す

近年、客離れによる売上減少を続けていた百貨店がコロナによりさらなる追い打ちをかけられ低迷に喘いでいました。

2020年、2021年は、緊急事態宣言による店舗の休業、営業時間の短縮、従業員のコロナ感染者による休業などで大幅に売上高が落ち込んでいましたが、2022年3月からコロナによる行動制限が解除され、その後百貨店の売上は好調な推移を続けています。

百貨店は、コロナによる休業で現時点の事業を見つめ直すこととなり、特に遅れをとっていたデジタル事業に注力する事となりました。これにより百貨店のネット通販も軌道に乗り始めました。また、百貨店の常識を覆すような店頭販売を行わない「売らない店」が出現し「ショールーミングストア」参入の動きが相次いでいます。

また、デパ地下の充実度アップや、物産展やイベントなどの集客、ホテル、フィットネスクラブ、ゴルフレッスン、水族館までが百貨店に登場しました。新しい試みが次々と打ち出され独自性などで人気を集めている店舗では客足の復活につながっているようです。

2022年10月には新たな水際対策措置が発表され、訪日外国人の数も徐々に増えてきました。これまで訪日外国人客の大きな柱であった中国人客は、ゼロコロナ政策により来日数が伸びないものの、東南アジアからの来客が急増しインバウンド消費が順調に回復しています。

それでも百貨店の危機的状況は続きます。

富裕層への取組み強化

百貨店の生き残りをかけどこの店舗でも富裕層客への取組みが強化されています。

野村総合研究所の調査では「純金融資産保有額1億円以上5億円未満」の世帯を富裕層といい「純金融資産保有額が5,000万円以上1億円未満」の世帯を「準富裕層」としていますが、この中で近年、台頭しているのが投資や事業で成功した若い富裕層の存在です。現在は百貨店も若い富裕層への開拓を積極的に行っています。

参照:セゾンのくらし大研究

百貨店の外商と呼ばれる専門部は従来から存在しましたが、現在ではその外商の力が店舗を支える大きな収入源となってきています。高額な商品を購入する顧客に担当者がつき、それぞれのニーズに合った商品を提案し販売するという百貨店の得意分野である販売接客力が活かされるので腕の見せ所です。実際にどこの店舗もラグジュアリー商品の売上好調が続いています。

富裕層の顧客が売上に大きな貢献をしていることは数字にも顕著に表れています。

2023年1月の売上速報では

■三越伊勢丹ホールディングス(国内百貨店 計):前年比119.8% 

都市部を中心に売上高は好調で、10ヵ月連続で2018年を上回る実績で推移をしている。先月までと同様に、ハンドバッグや宝飾・時計、ラグジュアリーブランド等のプロパー商品の売上好調が全体を押し上げた。

■高島屋(㈱ 高島屋および国内百貨店子会社計):前年比114.6%

美術・宝飾品・貴金属の売上が前年比111.5%

■H2Oリテイリング(阪急阪神百貨店全店計):前年比121.5%

身の回り品売上、前年比129.4%

■大丸松坂屋(百貨店事業合計):対前年比120.2%

美術・宝飾・貴金属 140.8%

売上が好調であることから今後は顧客の獲得競争が一段と激化してきそうです。百貨店は顧客一人ひとりのニーズに答えられる対応がより求められるようになるでしょう。

参照:富裕層へのシフトについて「デパートのルネッサンスはどこにある? 2022年11月01日号-56」で詳しく取り上げています。

百貨店のショッピングセンター化

近年の特色として百貨店内に専門店が増えてきたことがあります。これは、ショッピングセンターのようにテナントの店舗に場所を貸して家賃を収入源とする不動産賃貸事業になります。空き店舗の増えている地方の百貨店にとっては渡りに船ですが、出店する側も集客の良い店舗を選ぶのは当然のことで、どうしても都市部の店舗にこのような施設が増えていく傾向にあります。都市部では好調なショッピングセンター化は、人口が少ない地方の店舗では復活のきっかけとなるのは厳しいようです。

高島屋を例に取ると、老舗百貨店ながら従来の百貨店の殻を破り、いち早く郊外型ショッピングセンター「玉川髙島屋 S・C」を開業させました。また、百貨店を中核とし専門店ゾーンを導入する複合施設「タカシマヤタイムズスクエア(髙島屋新宿店)」「日本橋髙島屋 S.C.」「ジェイアール名古屋タカシマヤ」などが次々に誕生となりました。どの店舗も売上高が好調で、今秋には「京都高島屋S.C」のオープンも控えていますので新たな魅力ある施設として注目されそうです。

百貨店に進出する量販店

銀座マロニエ

専門店が増えることで、ユニクロ、家電専門店、ニトリ、蔦屋、100均など以前の百貨店では想像できなかったような小売店舗が百貨店の一角を占めるようになりました。このことは客足の増加に繋がり新たな客層が確保できる期待もありますが、ショッピングセンターとの境目が曖昧となる傾向も進みます。

百貨店の中の量販店

  • ニトリ▶新宿高島屋タイムズスクエア、銀座マロニアゲート、名鉄百貨店本店他
  • ビックカメラ▶日本橋本店
  • ノジマ▶船橋東武
  • ユニクロ▶銀座マロニエゲート、東武百貨店池袋店・船橋店、堺高島屋、高槻阪急他
  • ヨドバシカメラ▶京急上大岡店、名古屋松坂屋
  • ダイソー▶東急吉祥寺店、東武池袋店(ニトリ跡地に2023年2月22日オープン)

また、家電量販店による百貨店への進出は反対の声も多い中で競争は激化しています。

アメリカの投資ファンドによる「そごう・西武」の買収協議で、店舗の取得に参加する家電量販店大手ヨドバシホールディングスの出店計画案が明らかになりました。全国10店舗のうち東京・池袋など3つの店舗で出店する計画となっています。

NHK NEWSWEB 2023年2月15日 11時49分

あらゆる数(百)の商品(貨)を扱うのが百貨店の定義ならば、専門店の導入は歓迎すべきことではないでしょうか。ただし、すでに閉店となった小売店舗もありますので、顧客が求めるものと百貨店が提供するものが合致するようさらなる探求が必要となってきます。

百貨店のショッピングセンター化を嘆くのではなく、時代の流れとみて積極的にショッピングセンターの長所を取り入れていくことが百貨店復活への選択肢の一つかもしれません。

百貨店は、今後も新しい客層の獲得をめざし、大胆な改革を行っていくことが必要とされています。改革を進めるなかで単なる買い物をする場所にとどまらず、かつての百貨店がそうであったように家族連れや高齢者も一日楽しむことができるという、娯楽性や一歩進んだ居心地の良さ、気軽に入店できる店作りを提供していくことも求められているではないかと考えます。