税と対峙する – 43

平成18年02月20日号(第2313号)

小零細企業つぶしか?
社長の報酬の一部損金否認が実現する

少数弱者に税負担を強いる
行政の不安は続く

 定率減税の本格廃止が いよいよ決ってしまった。この制度はずっと続けるべきかどうか、景気の回復の是非が大きな要因となっていたわけだが、廃止とされたことでの、気になるポイントを見ておきたい。

 定率減税は、減税されるべき税額が発生している人のみに適用される措置であり、元々、納税のない人には無縁な、いうなれば納税者のみに与えられた権利である。

 一方、税の減免や所得控除は、税が発生するかしないかという選択であり、納税者になるかならないかの判定にかかわるものである。

 ここが大切であり、定率減税はすべての納税者にとって認められた権利であり、納税者自身の参加意識を高める効果があるのである。これを廃止することは、別の税の優遇措置では置き換えることができないところの納税者意識を低下させることになろう。行政の施策は納税者の意識を弱め、声なき民衆をつくるところにある。納税者は、その点を十分注意しなければならないのである。

 ところで、今回、中小零細事業者をつぶすつもりなのではないかと思われるような案がひそかに、そして唐突につくられた。同族会社のオーナー社長への給与の支払いについて、給与所得控除を認めないという暴案である。給与所得控除については、昨夏サラリーマンの給与所得控除の廃止・縮小案が、国民の大反発を買い、自民党などもすべて撤回して選挙の公約としたはずである。なのに、今回の改正で、全く唐突に「同族会社に限って」という根拠も何もないような方針で、控除を認めないこととしたのである。

 この場合、給料をもらう個人(社長)について給与所得控除が見送られるというのではなく、一定の代表取締役に給料を支払った場合、その給与所得控除額に相当する金額が法人の申告上、損金に認められないというものである。たとえば年収1、000万円の人の給与所得控除額は220万円なので、この220万円はその人の所得税の計算上は、必要経費部分として給与所得控除を受けられ、給与所得は780万円になるわけだ。ところが、法人は支払った給与1、000万円をすべて損金とできず、給与所得控除額の220万円は法人の所得とされてしまうのである。つまり、今迄損金と認められないで所得に加算されていた賞与と同じ扱いを受けることになるのである。法人の経費として最も重要な報酬の損金性を給与所得控除額の否定という勝手な理屈で認めなくしたものであり、零細企業いじめのなにものでもない。対象となる同族会社の多くは、株主がほとんど家族だけというような零細企業である。当局は「零細企業は個人事業者と同じだから、本来個人事業 者が申告した場合に受けられない、こうした控除を会社にしたことで適用させているのを是正した」などといっているようだが、とんでもない話だ。個人と法人は別人格であり、法人になった限りは個人が給与を法人からもらうのは、個人事業者が自分の所得を稼ぐのとは別の次元の話であろう。起業を推進する国の方針とも全く逆行しており、結局、零細事業者は法人になっても個人と同じなんだと国が決めつけているようなものである。

 大企業が全く問題なく認められていることを、零細企業がすれば色目でみるようなやり方も前時代的であり、極めて不愉快である。

 納税者である事業者はこんなことに屈してはならない。今回の改正もいかにも場当り的なやり方をしており、その法律の枠組みの中でこの悪法に該当しないような対処を考えなければなるまい。