税と対峙する – 39

平成17年09月05日号(第2302号)

サラリーマンの必要経費がなくなってしまう
見せかけの給与所得は増え、可処分所得は激減

 前号でサラリーマンの概算経費である給与所得控除額の縮小は、所得を増やす3つの魔の効果があるということを説明した。

 これについて、読者から所得が増えるのだからいいことなのではないかというご指摘をいただいた。この「所得が増える」という点はとても重要で、今回の改正案の裏に隠された極めて巧妙な行政の意図があるので、今回はこの辺りをもう少し論じておきたい。

 さて、ここでいう所得とはいわゆる手取りに直結する実態のあるものでなく、税金を計算する際の単なる形式上の概念である。

 給与所得は給与収入から給与所得控除額を差し引いたものである。つまり、給与収入は変わらなくても必要経費である給与所得控除額が減れば、自然に給与所得は増えることになる。これが実体なき所得増加ということである。

 政府税制調査委員会(政府税調)は、いままで概算で認めていた給与所得控除額は多過ぎ、サラリーマンが本当に使う経費を実額扱いにすれば、経費は大幅に減り、結果としてまちがいなくこのみせかけとなる所得が増えることを察知している。

 前号(8/5・20合併号)の例では、年収500万円の給与所得控除額は現在144万円のものが、実額経費にすれば3万円に激減する可能性に言及した。ほぼすべてのサラリーマンは実額経費制に移行した場合、必要経費は大幅に減り、それだけ給与所得は増えてしまうのである。

 このように、政府税調は税金計算上の元となる所得を大きくふやすことができることを前提に、こうした改正案を出してきているわけである。

 結果的に税金は大きく増加することとなり、本来の手取りを意味するところの可処分所得は、大幅に減少することになるのだ。