デパート新聞 第2683号 – 令和4年3月15日

1月全国は15.6%増

 日本百貨店協会は、令和4年1月の全国百貨店(調査対象73社、189店〈2021年12月対比±0店〉)の売上高概況を発表した。売上高総額は3751億円余で、前年同月比15・6%増(店舗数調整後/4か月連続プラス)だった。

百貨店データ

  • 神奈川各店令和4年1月商品別売上高

地方百貨店の時代 その35 – 事務方の活用

デパート新聞社 社主
田中 潤

財務上の視点のない現場

 デパートは営業が圧倒的にメインとなる職種だが、売上・原価・粗利益のバランス、更に、売上に寄与する経費と単なる損失、といった様々な損益に関する数字をしっかり把握できていないと、経営的には大きなロスが生じるリスクがある。営業を担っている人はこうした損益(フロー)計算はある程度理解できても、貸借対照表をベースにした財務的思考にはほとんど素人ということも少なくない。

 例えば棚卸についても、実地在庫が帳簿より極端に少なければ売場管理の怠慢を指摘されることは肌で感じていても、財務上どういう影響がでるかということにはあまり意識は届かないのである。

 「自分の店に資金がない、担保力がないから借入もできない、だから、仕入は抑えないといけない」例えば、こうした流れも個人の商店であれば一瞬の内につながるのだが、この思考もデパートの組織の中では困難と言っていいだろう。しかし、こうしたことを専門的に考える人材がいないわけでは決してない。

売り場の意識改革

 ここでは、現場に財務上の視点を取り入れていくことを提案したい。つまり、事務専門で経理や財務に携わっている人を営業、つまり、店頭に配置して現場の状況を経験させた上で、財務の知識を機動的に現場の人に伝えていくようにしていくのである。

 営業が不得意な人でも、デパートに就職したのだから、ある一定時期を現場で過すことくらいは拒否しないだろう。そもそも顧客とどういうやりとりでモノが売れていくのかというところから始め、モノを売るためにはどのようなコストがかかるのか、利益の高い商品を販売すると値引きをした場合と比べ、どの程度の経営のプラスになるのか、売れない商品を抱えることで結果的に財務上どれだけマイナスになるのかといった日々の活動について販売サイドと共有することで、ひと味違った売場の意識改革が起こることは間違いない。

 それまで全くコミュニケーションがなかったそれぞれの職場の人が、交流することで、新しいチームワークも生まれてくるだろう。そして、事務の人は元の職場に戻った時、自分たちが取り扱う数字が今までとは異なり、生き生きとしたものに見えてくるだろう。それは、必ずその人に積極的な発信をさせることに繋がるはずである。

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 本紙新聞小説を執筆中の伊東潤氏は、鎌倉時代を題材にした歴史小説を数多く書いている。その伊東氏の近書「鎌倉殿を歩く」(歴史探訪社刊)は、現代の鎌倉の風景とともに鎌倉時代草創期の御家人たちの生き様を活写している。

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でもいよいよ源頼朝が鎌倉入りを果たし、幕府の建設が始まった。鎌倉という小さな村があっという間に東国一の大都市になっていく様子がどのように描かれていくのか楽しみである。

 鎌倉という町は、当時からほとんど変わっていない自然の風景が魅力である。これからの季節、伊東氏の本を抱えてあまり知られていない鎌倉殿の13人の由縁の場所を訪ねつつ、一時の非日常の時間に浸るのも悪くないだろう。

無駄の物語 part26 – 環境と無駄

犬懸坂祇園
作詞、作曲などをしております

自然環境破壊

 無駄とされていたことが無駄でなくなるということもある。現在、その最も顕著な例は、人々の自然環境に対する考え方である。

 自然環境は社会の共有財産であり、他に代えることができない希少財産である。ところが、その価値は無償で利用できるため、事実上価格をつけるようなものではない。つまり、資本主義社会においては、自然はお金を払って使うものではないので、利益を上げるためには無制限に使いまくっても良いとされてきた。

 その結果、公害を始め人間に重大な損害を与えることが人為的に数多く行なわれてきたが、こうした目に見える形での自然環境破壊には一定の歯止めもなされてきた。ところが、すぐにはそれと分からない自然環境破壊は、極めて危険な状態に進むまで野放しになってしまった。炭素の使用による温暖化ガスの発生や森林伐採はその代表的な例である。被害との直接的な因果関係が明確にならないので、これらを規制する法律はほとんどなく、一向にその進行を止められない。多くの場合自然環境破壊を引き起こしている当事者は罪悪感もなく、自らの行為を正当だと思い行っているからである。

資本主義の論理で進める自然保護

 しかし、これらの被害は発展途上国の周辺で確実に具現化しており、大洪水や土砂崩れ、高潮など重大な災害が年を追うごとに増えている。自然環境を守るためには、無償だから勝手に享受するという考え方はもう許されないのである。例えば、炭素は今まで無償で使用されてきたが、環境に悪影響を与えた対価として炭素税を支払うことが新たに義務付けられるなど、自然を守るための金銭での評価が進んでいる。

 何はともあれ、自然を守ることに金銭的価値がつけられたことの意義は大きい。古代からの自然を大切にするアニミズムの思想が、資本主義の社会においても無縁なことではなくなったことを意味するからである。

 しかし長い目で見た時、自然を守ることは自己の利益とは無縁の、金銭的価値を超えた(無駄な)行為として取り組んでいくことこそが本来の姿であろう。自然保護を資本主義の論理で進めなければならないことは、決して手放しで肯定できることではない。

連載小説 英雄たちの経営力 第2回 豊臣秀吉 その1

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連載:デパートのルネッサンはどこにある 44後編 – コロナと共に過ごした2年間(総括)

百貨店は元々「高コスト」業種

 そこで気になるのは、どうやって回復基調に向かったかという問題だ。何か特効薬を見つけたのであろうか。三越伊勢丹は人件費の削減と、広告宣伝費のデジタル化などにより、大幅な経費削減に成功したのだ、という。特に人件費の圧縮は、当然痛みの伴うものであったが、それにより2019年度は3180億円あった販管費を、2020年度時点で324億円削減し2739億円にまで圧縮した。

 さらに、オンライン事業の成長がそれを支えた。三越伊勢丹の昨年度のオンライン事業の売上高は315億円を超え、今後は同事業において売上高500億円を目指す、としている。もちろんこの先の収益の柱の1 つに成長することも期待されている。当然同業他社も同様の戦略をとっているが、こと「ブランド力」においては、三越伊勢丹には一日の長がある。

続きは デパートのルネッサンスはどこにある? 2022年03月01日号-44後編 を御覧ください。

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