㈱水戸京成百貨店 芹澤社長 直撃インタビュ – 明日を目指す百貨店探訪 第4回

 地域密着産業である百貨店。特に、地方百貨店は地方経済のバロメーターでもあるのではないだろうか。地域一番店である地方百貨店を全国津々浦々に訪ねてその様々な実情を発信するシリーズ。

㈱水戸京成百貨店 芹澤 弘之 社長

㈱水戸京成百貨店 芹澤 弘之 社長

社長経歴
氏名 芹澤 弘之(せりざわ ひろゆき)
役職名 株式会社水戸京成百貨店 代表取締役社長 
生年月日 1965 年(昭和40年)
最終学歴 早稲田大学教育学部卒
職歴
1989 年 4 月 京成電鉄株式会社入社
2009 年 7 月 ちばレインボーバス株式会社 代表取締役社長
2012 年 5 月 千葉内陸バス株式会社 代表取締役社長
2013 年 7 月 京成電鉄株式会社 内部監査部長兼経営統括部長
2015 年 6 月 同社 取締役内部監査部長兼経営統括部長
2017 年 6 月 同社 取締役総務人事部長
2017 年 7 月 千葉交通株式会社 代表取締役社長
2021 年 5 月 株式会社水戸京成百貨店 代表取締役社長
        株式会社六本木 代表取締役社長
        現在に至る

地域との連携の強化

「先ず、現状をお聞かせください」

(芹澤社長)
 前期( 2020年3月〜2021年2月) の売上は、211億円。前年比84%。コロナ禍の影響で大幅な減収減益は免れられなかった。コロナウイルス感染対策として会場入場人数をかなり厳しく制限したことでイベントの売上への影響を受けてきた。

 4月〜5月の地階を除く休業の影響は大きかったが、下期からは、特選品、化粧品の売上は比較的好調に推移した。アパレル部門は苦戦をした。ブランドの撤退が相次ぎそのリモデルに奔走した時期であった。レストラン街は、特にディナータイムの影響が大きく、現在でも続いている。その中で、寿司店を入れ替え、蕎麦店は、当社の自主運営店にリニューアルすることにより、それぞれ前年の売上を上回ることができた。

 今期上期(2021年3 月〜8 月) 売上は、107.6億円。前年比114.3%。前々年比では86.4%であった。
ほぼ期を通して、国、県の緊急事態宣言、蔓延防止等重点措置の状況下であり、水戸市内の人流はコロナ禍前と比較して1割程度減少しており、足元では3割程度減少している日もある。主力顧客層である65歳以上の方が感染リスクを避け、外出自粛をしたことにより、来店者数が減少し、逆に30歳代〜40歳代を中心に、20歳代も加わった顧客層の来店が増加した。今期もアパレル部門のリモデルは継続しているが8月に地元地域との結び付きを更に強化するために6階に、県産工芸品コーナーを常設した。

 インバウンドについては、コロナ禍以前の2019年も売上構成比は全売上の0・1%と小規模であった。現在、外国人観光客を迎え入れる玄関口である茨城空港は、中国便を中心とした国際便が休止中である。

 休止前の時期においても、茨城空港に到着した中国人観光客は、都内へバスで直行するか、早朝に水戸駅近辺のホテルを出発して都内へ移動してしまい、日中に県内、市内に滞在することは少なく当店に来店することもないのが実態であった。茨城県、水戸市の行政は、数年前から観光強化を目指し、アジア系観光客に好まれる国営ひたち海浜公園等のフラワー主体の整備に取り組んできた。また、当社でも、当店を回遊するゴルフツーリズムを企画していたが、このコロナ禍で棚上げしている。10月には、免税の電子化をスタートさせるが、インバウンドの需要はしばらく見込めない。今後に期待したいが、当社だけで需要を呼び込めるものではないため、地域と連携しながら模索していきたい。

 売れている部門は、特選品が挙げられる。フェラガモは好調。バーバリーは拡大基調。ルイ・ヴィトン、ティファニーは外商顧客を中心に順調に推移している。その新たな客層には、若いお客様が加わった。また、これまでは都心へ買い物に行かれていた方が当店にお越し頂いている。当店は、水戸市以北の地域へのブランド力があるが、茨城県南地域の方は東京方面を向いておられるので、これまでは振り向いて頂くことがなかなか難しかった。このところ、特選品については県南部の方の購買の動きがある。これを継続できるかは、今後の施策にかかっており、9月には、ルイ・ヴィトンの売場の一部改装を行いメンズ・アパレルの販売会を開催した。

 また、化粧品は好調であり、定着してきている。従来の対面販売から売り方が変わってきている中で、特に、10歳代、20歳代の顧客層が新たに広がってきている。今後伸ばしていきたい部門である。

 加えて、食料品は積極的にリモデル等を手掛けてきたが、「イエナカ需要」もあり、好調である。当店の生鮮品は「美味しい」と定評があり、ご支持を頂いている。期間限定で評判の高いパン店を導入する等、日頃取扱っていない商品を販売しており好評である。

 苦戦している部門は、やはりアパレルである。特に、婦人服はメーカーの撤退などもあり、20ブランド程が入れ替わった。売場跡地への穴埋めはできたが、撤退したブランドを気に入ってらした貴重なお客様からはご意見を頂戴している。これまでも厳しい情勢が続いていたところにコロナ禍で追い打ちをかけられた形である。

 紳士服も撤退テナントの穴埋めを行ったが、新たな顧客を掴むのに苦戦している。

KEiSEI&sole

 今後、成長を期待する部門は、本店舗以外ではサテライト店である。サテライト店は、つくば市の店舗(年明けに拡大リニューアル予定)に続き、2020年3月に日立市に「KEiSEI&sole」をオープンし、これまで予算を上回る売上で推移してきている。 都心の銀座では、「IBARAKIsense( 茨城県サテライトショップ)」を行政より委託運営しており、将来的にはこれら3店舗を伸ばしていきたい。

「商圏と顧客層について」

(芹澤社長)
 茨城県、水戸市の人口はこの10年は微減の傾向にある。当店の商圏は、実質的には水戸市をはじめとした県北部地域が中心である。来店の手段は多くが自家用車であり、水戸市内で充実しているバスでのご来店は少ない。パーキング能力は店舗に隣接するパーキングビルの600台や地下駐車場等を合わせて約2千台と充実している。

 1日平均の来店客数は、平日は7千名、休日は1万名、催事期間は1万2千名程度である。滞留時間は以前の50分から40分に短縮している。感染防止を踏まえた目的買いの影響と分析している。

 来店客層は、60歳代が45%、40歳代〜50歳代が20%余りであるが、高単価購入者である65歳以上のお客様が減少し、全体としての販売単価が下落している。30歳代を中心とした次世代顧客層を掴むのは待ったなしの課題であり、10歳代〜20歳代の顧客層を増やすことも課題である。11月からは新たにECショップを立ち上げ、中元・歳暮の他、県産品、福袋、おせち、など季節ごとの特集をしていく。これは、お客様の選択肢を広げるためのツールであり、従来のDMに加え、SNSでの情報発信に力を入れたい。

 またこれまでも、正面入り口の広場において、地元高校吹奏楽部の演奏会やチアリーダーの発表会等を積極的に企画している。10月には、地元の農業高校の生産物の販売会を行う。学生にとって百貨店でのその様な販売の経験は、百貨店が身近になるきっかけになると思う。これらの企画は、次々世代の顧客層の構築を狙った小学生から高校生に至る若年層へのアプローチだ。アパレルのMDは35歳以上を主たるターゲットとしているから、若年層の獲得には直接には結びつかない。若年層獲得のためには、食品や化粧品、丸善、ロフト等雑貨売り場の充実を図ってきている。その結果夕方のレストスペースは、高校生の勉強する姿や塾帰りの迎車待機中の小中学生も見られる等、賑わうようになった。

「外商の現状について」

 外商員は28名、業務担当は10名の陣容である。外商の売上は全売上の20%を占める。外商の顧客数は個人客が2800名である。個人客については、県南地域での存在感をもう少し出していきたい。法人客は1300法人である。法人客における京成グループの占める比率は高い。個人客は高齢化しているので、お客様のご子息等2代目である次世代の獲得を目指している。現店舗に移行して15年目を迎える「千秀会」は、外商の上客向けに特化しており毎年11月に4日間の催事を行う。通常、店頭では取り扱っていないラグジュアリーブランドを提供することで上客の高い信頼を頂いている。

「京成百貨店の特色について」

〈特色①ソバの栽培事業〉

ソバ種まき

 常陸太田市内の約9千㎡の休耕地を借り8月に蕎麦の種蒔きを行った。11月に収穫し、当店9階レストラン街の直営店「常陸秋そば泉」で、12月頃にメニューに登場させる予定でいる。

 蕎麦づくりは全て当社の従業員によるものである。すぐに事業に結び付き、収入になるとは考えていないが、地元との繋がりに向けた新たなコミュニケーションの場と位置付けている。

〈特色②行政との連携〉

那珂市ひまわりタクシー運行

 従業員が地元で生産した蕎麦を提供することは、正に地産地消であり、常陸太田市のご協力の賜物であると深く感謝している。今後につなげていきたい。

 また、今年の8月にオープンした茨城県の工芸品常設コーナーは他社を見てもあまり例がない売場である。

 隣接する那珂市とは2019年に相互連携・協力に関する協定を結びその一環として、同市デマンド交通(予約型送迎タクシー)ひまわりタクシーを当店まで運行。高齢顧客の来店手段の乗合タクシー代の一部を那珂市に負担していただき、来店者が格安で利用できる制度を設けている。さらに、茨城県が力を入れている「eスポーツ」のイベントの企画も計画している。

〈特色③全国大美味(グルメ)展〉

 当店において最も好評を得ている恒例催事のひとつである。担当者がお客様のご要望を踏まえながら、これぞと思う全国の名店・人気店を一軒一軒巡り、出店をお願いしている。当店のカラーが出ている催事である。

〈特色④グループ企業との協業〉

 5月よりグループ企業の関東鉄道の路線バスを利用して、つくば市のサテライト店で販売する商品を配送している。同社にとっては割安な運賃で運べるメリットがあり、関東鉄道としても運賃収入を得る協力体制が出来上がった。

〈特色⑤ プロスポーツチームの後援〉

 水戸市・つくば市を中心に茨城県をホームタウンとするBリーグ所属のプロバスケットボールチーム、茨城ロボッツのオフィシャルサプライヤーを務めている。これまでに、選手参加型の企画として店内にPOPUPショップを期間限定で設け、ロボッツオリジナルグッズを販売。今年5月には、B1昇格を祝うセールを、食料品、婦人・紳士雑貨品売場で開催した。次年度からは、提供しているスーツ・ネクタイの販売やECサイト等での公式グッズの販売、選手とのサイン会やグッズ販売など店内イベントの実施を検討中。同じくパートナーとなっているJ2リーグの水戸ホーリーホックとともに盛り上げていきたい。

「街づくりへの取り組み」

(芹澤社長)
 水戸市が策定した「水戸市中心市街地活性化基本計画」には、泉町地区南北一体開発計画が含まれており、人の流れを大きくつくる効果が期待される。当店舗は、その泉町地区の南地区に位置する。現店舗は市から誘致を受けてテナントとして入居した再開発ビルである。15年前までの旧店舗は北地区にあったが、その場所には再来年オープン予定の市民会館が建設中である。その隣接地には水戸芸術館(小沢征爾館長)があり、中心市街地の再構築がされようとしている。当店は、この流れに掉さす役割の一端を担っており、県内唯一の百貨店の使命であると考えている。今後も、地域との連携を更に強化し、新しい「街づくり」に邁進していく所存だ。

(敬称略)

店舗概要

 (1)売場面積 33,500㎡
 (2)フロア数 10 層( 地階:1 層・地上階:9 層)
 (3)売上高 21,101 百万円(2020 年度)
        2019 年度比: ▲ 16.1%
        2018 年度比: ▲ 17.8%
沿革

・1908 年(明治41 年) 5 月  常陸太田市中城町に志満津呉服店として創業  
・1946 年(昭和21 年)10 月 水戸市泉町1 丁目7 番5 号に水戸店設立
・1949年(昭和 24 年) 7 月 「 株式会社志満津百貨店」として太田店、水戸店で営業開始
・1971 年(昭和46 年) 5 月  京成電鉄株式会社と資本提携
                本店を水戸市に移転し、商号を「株式会社京成志満津」に変更
・1975 年(昭和50 年) 5 月  商号を「株式会社水戸京成百貨店」に変更
・1982 年(昭和57 年) 9 月  新会社「株式会社水戸京成百貨店」に経営承継
               京成電鉄株式会社の連結子会社へ
・2006 年(平成18 年) 3 月 水戸市泉町1 丁目6 番1 号に移転、新店舗オープン、
               店名を「京成百貨店」に変更
・2008 年(平成20 年) 3 月 創業100 周年を迎える
・2016 年(平成28 年) 3 月 新店オープン10 周年を迎える
・2018 年(平成30 年) 3 月 創業110 周年を迎える
・2018 年(平成30 年) 4 月 京成百貨店 つくばショップ開店
・2018 年(平成30 年)10 月 IBARAKI sense(茨城県アンテナショップ)運営受託
・2020 年(令和2 年) 3 月 KEiSEI & sole(日立サテライトショップ)開店
・2020 年(令和2 年) 8 月 子会社として、株式会社六本木を設立
・2021 年(令和3 年) 5 月  新店開店15 周年記念事業として、「 みんなのそば(常陸秋そば)プロジェクト」始動